断罪される未来を知る悪役令嬢ですが、冷徹なはずの婚約者に勘違いされて溺愛ルートに入りました

六角

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第24話:偽りの手紙とヒロインの微笑み

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リリアナへの接触作戦。
その第一歩は、彼女に、返信の手紙を出すことだった。

「さて、と。どのような文面にするか…」

ゼノン様の執務室で、私たちは、一枚の羊皮紙を前に、頭を突き合わせていた。

「やはり、彼女の提案に、全面的に乗る、という形が良いでしょう。『あなたのお話を、ぜひ、聞かせてほしい』と」
「ふむ。だが、それだけでは、警戒されるかもしれん」
「では、『ゼノン様への不信感が、頂点に達しました』とでも、書き加えます?」
「いや、お前は、そんな殊勝な女ではないだろう。もっと、高飛車な方が、お前らしい」
「なんですって!?」
「事実だ」

こんな風に、二人で、ああでもない、こうでもないと、言い合いながら、手紙の文面を考える日が来るなんて、数週間前の私には、想像もできなかった。
なんだか、不思議な気分だ。

結局、数時間にわたる議論の末、私たちは、以下のような内容の手紙を完成させた。

『リリアナ・スチュアート様へ

先日は、興味深いお手紙をありがとう。
あなたの言う、“真実”とやらに、少しだけ、興味が湧きましたわ。
話くらいは、聞いてあげてもよろしくてよ。

明日の夜、あなたが指定した、時計塔で、お待ちしております。

イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン』

我ながら、悪役令嬢らしい、尊大な文面だ。
ゼノン様も、「これなら、お前が書いたと、信じるだろう」と、満足げに頷いていた。

問題は、これを、どうやって、リリアナに届けるか。

「心配ない」

ゼノン様は、そう言うと、手紙に、そっと、手をかざした。
彼の手から、淡い光が放たれ、手紙が、ふわり、と宙に浮く。
そして、次の瞬間、跡形もなく、消え去ってしまった。

「魔法で、送ったのですか?」

「ああ。彼女が、最も、油断している場所へ、な」

彼は、不敵に笑うと、今度は、執務室の壁に向かって、手をかざした。
すると、壁が、まるで水面のように、揺らめき始める。
そして、そこに、一つの映像が、映し出された。

「これは…遠見の魔法!?」

「静かにしろ。気づかれる」

映し出されていたのは、学園にある、リリアナの自室だった。
彼女は、一人で、本を読んでいる。
その時、彼女の机の上に、先ほどの手紙が、音もなく、現れた。

「!」

リリアナは、驚いて、辺りを見回す。
そして、手紙の存在に気づくと、恐る恐る、それを手に取った。
封を切り、中の文面を、真剣な表情で、読み始める。

私たちは、固唾をのんで、彼女の反応を見守った。

手紙を読み終えたリリアナの口元に、ふわり、と、笑みが浮かんだ。
それは、勝利を確信したような、満足げな笑みだった。

『かかった…!』

私が、内心、ガッツポーズをした、その時。

リリアナは、手紙を置くと、部屋の隅にある、大きな姿見の前に立った。
そして、鏡に向かって、誰かに話しかけるように、口を開いた。

「――計画通りですわ、お父様」

お父様…?
彼女は、平民のはず。
父親は、田舎で小さなパン屋を営んでいると、聞いていたが。

鏡は、何も映さない。
しかし、彼女は、見えない誰かに、報告を続けている。

「イザベラ様、完全に、私たちのことを信じたようです。明日の夜、時計塔へ、一人でいらっしゃると」

その言葉に、私は、ぞっとした。
彼女は、誰と、話しているんだ?
この部屋には、彼女以外、誰もいないのに。

「ええ。…ええ、わかっております。抜かりなく。必ずや、シルヴァーグ公爵を、失脚させてみせますわ」

彼女は、鏡に向かって、深々と、お辞儀をした。
その姿は、まるで、忠実な臣下が、王に、忠誠を誓っているかのようだった。

やがて、彼女が鏡から離れると、ゼノン様は、すっと、魔法を解いた。
壁は、元の、ただの壁に戻る。

執務室に、重い沈黙が、落ちた。

「…見ただろう、イザベラ」

ゼノン様が、静かに、口を開いた。

「あれが、彼女の正体だ。彼女は、鏡を通じて、黒幕と、交信している」

「では、お父様、というのは…」

「偽りの呼び名だろうな。あるいは、黒幕が、本当に、彼女の父親なのかもしれんが…」

どちらにせよ、事態は、私たちの想像以上に、根が深い。
リリアナは、ただの駒ではない。
黒幕の、腹心とも言える、重要な存在なのだ。

「明日の夜が、決戦だな」

ゼノン様の瞳に、鋭い光が宿る。

「敵の罠に、あえて、飛び込む。そして、その首根っこを、掴んでやる」

彼の言葉に、私は、ごくり、と喉を鳴らした。
偽りの手紙は、確かに、ヒロインを、おびき寄せた。
しかし、彼女が浮かべた、あの不敵な微笑み。

それは、罠にかかった魚の笑みではなく、
自ら、罠へと、獲物をおびき寄せた、狩人の笑みのように、私には思えた。
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