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第33話:あなたの心を、俺に預けろ
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「準備はいいか、イザベラ」
「ええ、いつでも」
私たちは、クロノスの牢獄の、中央で、向かい合って、座っていた。
これから、ゼノン様が、私の、失われた記憶を取り戻すための、術を、実行するのだ。
「術の発動中、お前は、おそらく、様々な、幻覚を見るだろう。過去の記憶、忘れたい記憶、それらが、ごちゃ混ぜになって、お前を、襲ってくるかもしれん」
ゼノン様は、真剣な表情で、私に、注意を促す。
「だが、決して、心を、乱されるな。どんな幻を見ても、強く、意識を、保ち続けろ。『真実の記憶を取り戻す』と、それだけを、考え続けろ」
「はい…」
「怖いか?」
彼の問いに、私は、正直に、頷いた。
「ええ、怖いですわ。でも」
私は、彼の、アイスブルーの瞳を、見つめ返した。
「それ以上に、あなたを、信じておりますから」
私の言葉に、彼は、一瞬、目を見開いた。
そして、慈しむように、ふっと、微笑んだ。
「…ああ。信じろ。俺がお前の心を、必ず、守り抜く」
彼は、そう言うと、私の額に、そっと、自分の額を、合わせた。
ひんやりとした、彼の肌の感触。
目を閉じると、彼の、静かな呼吸だけが、聞こえる。
「術を、始める。…俺の心を、お前の中に、受け入れろ」
彼が、そう、囁いた、瞬間。
彼の身体から、膨大な、しかし、優しい、青い光の魔力が、溢れ出した。
その光が、私の身体を、ゆっくりと、包み込んでいく。
温かい。
まるで、陽だまりの中に、いるようだ。
意識が、だんだん、遠のいていく。
身体の感覚が、なくなり、魂だけの、存在になったような、不思議な感覚。
『これが、彼の、心の中…?』
広くて、静かで、どこか、少しだけ、寂しい。
そんな、彼の心の海を、私は、漂っている。
やがて、私の意識は、私自身の、心の奥底へと、深く、深く、沈んでいった。
――イザベラ、聞こえるか――
どこか、遠くから、ゼノン様の声が、聞こえる。
――これから、お前の記憶の、中核へと、向かう。宰相がかけた、封印は、おそらく、その、一番、深い場所に、あるはずだ――
彼の声に、導かれるように、私は、自分の、記憶の回廊を、進んでいく。
次々と、目の前に、過去の光景が、現れては、消えていく。
公爵令嬢として、生まれた日。
厳しい、マナーの作法を、泣きながら、学んだ日。
初めて、夜会に、デビューした日。
そして。
王立学園に、入学し、自分が、悪役令嬢としての、運命を、思い出した、あの日。
『うっ…!』
思い出したくない、記憶。
断罪される、未来のビジョンが、再び、私を、襲う。
恐怖に、心が、竦みそうになる。
――惑わされるな、イザベラ! それは、偽りの未来だ!――
ゼノン様の、力強い声が、私の、意識を、引き戻してくれた。
そうだ。
これは、偽りだ。
宰相に、植え付けられた、偽りの、恐怖。
私は、奥歯を、ぐっと、噛みしめ、その幻を、振り払った。
さらに、心の、奥深くへ。
すると、今度は、前世の、記憶が、溢れ出してくる。
学校の、友人たちとの、他愛ない、おしゃべり。
家族との、温かい、食卓。
そして、一人、部屋で、ゲームに、没頭する、私の姿。
懐かしくて、愛おしい、記憶。
ここに、戻りたい、と、心が、叫びそうになる。
――それも、過去だ、イザベラ! お前が、生きているのは、今、この瞬間だ!――
ゼノン様の声が、私を、叱咤する。
そうだ。
私はもう、あの頃の、私ではない。
私は、イザベラ・フォン・ヴァレンシュタインとして、今を、生きているのだ。
私は、過去の、甘い記憶に、別れを告げた。
そして、ついに、たどり着いた。
私の、心の、一番、深い場所。
そこには、巨大な、黒い氷の壁が、そびえ立っていた。
禍々しい、冷気を、放つ、絶望の壁。
壁の表面には、複雑な、魔法の文様が、無数に、刻まれている。
――見つけたぞ…! これだ! ロシュフォール宰相がかけた、忘却の封印…!――
ゼノン様の声に、緊張が、走る。
この壁を、壊せば、私は、失われた記憶を、取り戻せる。
――いくぞ、イザベラ! 俺が、この壁に、ヒビを入れる! お前は、その隙間から、真実を、手繰り寄せるんだ!――
ゼノン様の、膨大な魔力が、青い光の、槍となって、黒い氷の壁に、突き刺さった。
ゴゴゴゴゴッ!
私の、精神世界が、激しく、揺れる。
凄まじい、衝撃。
壁は、びくともしない。
それどころか、黒い触手を伸ばし、ゼノン様の、光の槍を、逆に、侵食しようとしている。
――くそっ…! これほど、強力な、封印とは…!――
ゼノン様の、苦悶の声が、聞こえる。
彼の魔力が、どんどん、吸い取られていくのが、わかる。
このままでは、彼の方が、危ない。
『嫌…!』
私が、彼の、足手まといになるなんて、絶対に、嫌だ。
私も、戦わなければ。
これは、私の、心なのだから。
『思い出したい…!』
私は、心の底から、叫んだ。
『お願い…思い出させて! あの日、森で、何があったのか! わたくしが、忘れてしまった、本当のことを!』
私の、その、強い意志が、光となった。
白く、温かい、小さな光。
その光は、ゼノン様の、青い光の槍に、寄り添うように、絡みついていく。
そして、二つの光が、一つになった、その時。
奇跡が、起きた。
「ええ、いつでも」
私たちは、クロノスの牢獄の、中央で、向かい合って、座っていた。
これから、ゼノン様が、私の、失われた記憶を取り戻すための、術を、実行するのだ。
「術の発動中、お前は、おそらく、様々な、幻覚を見るだろう。過去の記憶、忘れたい記憶、それらが、ごちゃ混ぜになって、お前を、襲ってくるかもしれん」
ゼノン様は、真剣な表情で、私に、注意を促す。
「だが、決して、心を、乱されるな。どんな幻を見ても、強く、意識を、保ち続けろ。『真実の記憶を取り戻す』と、それだけを、考え続けろ」
「はい…」
「怖いか?」
彼の問いに、私は、正直に、頷いた。
「ええ、怖いですわ。でも」
私は、彼の、アイスブルーの瞳を、見つめ返した。
「それ以上に、あなたを、信じておりますから」
私の言葉に、彼は、一瞬、目を見開いた。
そして、慈しむように、ふっと、微笑んだ。
「…ああ。信じろ。俺がお前の心を、必ず、守り抜く」
彼は、そう言うと、私の額に、そっと、自分の額を、合わせた。
ひんやりとした、彼の肌の感触。
目を閉じると、彼の、静かな呼吸だけが、聞こえる。
「術を、始める。…俺の心を、お前の中に、受け入れろ」
彼が、そう、囁いた、瞬間。
彼の身体から、膨大な、しかし、優しい、青い光の魔力が、溢れ出した。
その光が、私の身体を、ゆっくりと、包み込んでいく。
温かい。
まるで、陽だまりの中に、いるようだ。
意識が、だんだん、遠のいていく。
身体の感覚が、なくなり、魂だけの、存在になったような、不思議な感覚。
『これが、彼の、心の中…?』
広くて、静かで、どこか、少しだけ、寂しい。
そんな、彼の心の海を、私は、漂っている。
やがて、私の意識は、私自身の、心の奥底へと、深く、深く、沈んでいった。
――イザベラ、聞こえるか――
どこか、遠くから、ゼノン様の声が、聞こえる。
――これから、お前の記憶の、中核へと、向かう。宰相がかけた、封印は、おそらく、その、一番、深い場所に、あるはずだ――
彼の声に、導かれるように、私は、自分の、記憶の回廊を、進んでいく。
次々と、目の前に、過去の光景が、現れては、消えていく。
公爵令嬢として、生まれた日。
厳しい、マナーの作法を、泣きながら、学んだ日。
初めて、夜会に、デビューした日。
そして。
王立学園に、入学し、自分が、悪役令嬢としての、運命を、思い出した、あの日。
『うっ…!』
思い出したくない、記憶。
断罪される、未来のビジョンが、再び、私を、襲う。
恐怖に、心が、竦みそうになる。
――惑わされるな、イザベラ! それは、偽りの未来だ!――
ゼノン様の、力強い声が、私の、意識を、引き戻してくれた。
そうだ。
これは、偽りだ。
宰相に、植え付けられた、偽りの、恐怖。
私は、奥歯を、ぐっと、噛みしめ、その幻を、振り払った。
さらに、心の、奥深くへ。
すると、今度は、前世の、記憶が、溢れ出してくる。
学校の、友人たちとの、他愛ない、おしゃべり。
家族との、温かい、食卓。
そして、一人、部屋で、ゲームに、没頭する、私の姿。
懐かしくて、愛おしい、記憶。
ここに、戻りたい、と、心が、叫びそうになる。
――それも、過去だ、イザベラ! お前が、生きているのは、今、この瞬間だ!――
ゼノン様の声が、私を、叱咤する。
そうだ。
私はもう、あの頃の、私ではない。
私は、イザベラ・フォン・ヴァレンシュタインとして、今を、生きているのだ。
私は、過去の、甘い記憶に、別れを告げた。
そして、ついに、たどり着いた。
私の、心の、一番、深い場所。
そこには、巨大な、黒い氷の壁が、そびえ立っていた。
禍々しい、冷気を、放つ、絶望の壁。
壁の表面には、複雑な、魔法の文様が、無数に、刻まれている。
――見つけたぞ…! これだ! ロシュフォール宰相がかけた、忘却の封印…!――
ゼノン様の声に、緊張が、走る。
この壁を、壊せば、私は、失われた記憶を、取り戻せる。
――いくぞ、イザベラ! 俺が、この壁に、ヒビを入れる! お前は、その隙間から、真実を、手繰り寄せるんだ!――
ゼノン様の、膨大な魔力が、青い光の、槍となって、黒い氷の壁に、突き刺さった。
ゴゴゴゴゴッ!
私の、精神世界が、激しく、揺れる。
凄まじい、衝撃。
壁は、びくともしない。
それどころか、黒い触手を伸ばし、ゼノン様の、光の槍を、逆に、侵食しようとしている。
――くそっ…! これほど、強力な、封印とは…!――
ゼノン様の、苦悶の声が、聞こえる。
彼の魔力が、どんどん、吸い取られていくのが、わかる。
このままでは、彼の方が、危ない。
『嫌…!』
私が、彼の、足手まといになるなんて、絶対に、嫌だ。
私も、戦わなければ。
これは、私の、心なのだから。
『思い出したい…!』
私は、心の底から、叫んだ。
『お願い…思い出させて! あの日、森で、何があったのか! わたくしが、忘れてしまった、本当のことを!』
私の、その、強い意志が、光となった。
白く、温かい、小さな光。
その光は、ゼノン様の、青い光の槍に、寄り添うように、絡みついていく。
そして、二つの光が、一つになった、その時。
奇跡が、起きた。
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