断罪される未来を知る悪役令嬢ですが、冷徹なはずの婚約者に勘違いされて溺愛ルートに入りました

六角

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第32話:脱出の鍵は「二人の記憶」

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ロシュフォール宰相への怒りを、新たな力に変えて、私たちは、改めて、この「クロノスの牢獄」からの脱出方法を、模索し始めた。
しかし、状況は、絶望的なままだった。

「…やはり、ダメか」

ゼノン様が、何度か、空間そのものに、魔力で干渉しようと試みたが、彼の魔力は、この無の世界に、吸収されるだけで、何の変化も、起こらない。

「この空間は、あまりにも、完璧に、閉じられすぎている。物理的な破壊も、魔法的な干渉も、通用しない」

彼は、悔しそうに、唇を噛んだ。
打つ手なし。
まさに、八方塞がりだ。

私は、何か、ヒントはないかと、先ほど、幻影が映し出された場所を、じっと、見つめていた。

「…ゼノン様」

「なんだ?」

「わたくし、少し、気になったことが、ありますの」

「気になったこと?」

「はい。この空間は、わたくしたちの、記憶を、映し出しましたわよね?」

「ああ。それも、ただの記憶ではない。俺と、お前の、認識が、食い違っている、不安定な記憶に、干渉してきたようだ」

彼の言う通りだ。
10年前の森での出来事。
前世の記憶。
そして、宰相の陰謀。
そのすべてが、私たちの、認識のズレや、欠落した部分を、突くように、現れた。

「もし、この空間が、記憶に、干渉してくるのだとしたら…」

私は、自分の、考えを、口にした。

「脱出の、鍵もまた、わたくしたちの、記憶の中にあるのではないでしょうか?」

私の言葉に、ゼノン様は、ハッとしたように、顔を上げた。

「…記憶が、鍵、だと?」

「はい。特に、あの、10年前の、森での記憶ですわ。あなたの記憶と、真実が、食い違っていた。そして、わたくしは、その時の記憶を、失っている。この、食い違いこそが、この完璧な空間の、唯一の、綻びなのではないかと、思うのです」

それは、ただの、直感だった。
しかし、なぜか、私には、それが、正しい道であるかのような、確信があった。

ゼノン様は、私の言葉を、真剣な表情で、聞いていた。
そして、彼自身の、知識と、論理で、私の直感を、補強していく。

「…なるほどな。確かに、一理ある。このクロノスの牢獄は、因果律そのものを、具現化した、空間だ。そして、因果とは、過去の出来事…つまり、記憶の連鎖によって、成り立っている」

彼は、興奮したように、続けた。

「もし、その、大元となる、過去の記憶に、矛盾や、欠落があれば、因果の鎖に、歪みが、生じるはずだ。その歪みを、突くことができれば…!」

「この牢獄を、内側から、破壊できる、と…?」

「ああ、そうだ!」

ついに、見えた。
暗闇の中の、一筋の光が。

「では、具体的には、どうすれば、よろしいのですか?」

「俺と、お前の、食い違う記憶を、正しい形で、一つに、統合するんだ」

ゼノン様は、断言した。

「俺は、宰相に、偽りの記憶を、植え付けられた。そして、お前は、真実の記憶を、奪われた。この、二つの、歪んだ記憶を、あるべき姿に、戻すことができれば、この空間の、法則を、乱すことができるかもしれん」

「記憶を、一つに…」

「そうだ。そのためには、まず、お前が、失った記憶を、取り戻す必要がある」

彼は、まっすぐに、私を見つめた。
その瞳には、危険な光が、宿っている。

「ゼノン様、まさか…」

「俺の魔力で、お前の、心の奥底…深層心理に、干渉する」

やはり。
それは、あまりにも、危険な、賭けだった。
人の心とは、複雑で、繊細なものだ。
下手をすれば、私の精神が、壊れてしまうかもしれない。

「お前の、心の奥深くに、宰相がかけたであろう、忘却の封印が、あるはずだ。それを、俺が、力づくで、破壊する」

「…そんなこと、できるのですか?」

「保証は、ない。お前にも、相当な、負担がかかるだろう。だが」

彼は、私の手を、強く、握った。

「これしか、方法はない。…やってくれるか、イザベラ?」

彼の問いは、私の覚悟を、試しているようだった。
怖い。
自分の心に、他人が、踏み込んでくるなんて。

でも。

「…やりますわ」

私は、迷わずに、頷いた。

「もう、何も知らずに、怯えているだけの、わたくしでは、ありませんもの。自分の記憶くらい、自分で、取り戻してみせますわ」

私の答えに、ゼノン様は、ふっと、口元を、緩めた。

「…頼もしいな、俺の婚約者は」

「当たり前ですわ。誰の、婚約者だと、思っているのです?」

軽口を、叩き合えるくらいには、私たちの間には、もう、確かな信頼関係が、築かれていた。
失われた、記憶を取り戻す、危険な儀式。
それは、二人の絆が、試される、新たな試練の、始まりだった。
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