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第36話:帰還、そして狂った歯車
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眩い光が、収まる。
次に私の目を開けた時、そこに広がっていたのは、白と黒の無の世界ではなかった。
古びた石の床、夜風が吹き抜けるアーチ窓、そして、頭上には、巨大な時計の針。
見覚えのある、王都の時計塔の、最上階だった。
「…戻って、きた…」
「ああ」
隣で、ゼノン様が、力強く頷く。
彼の腕が、まだ、私の腰を、しっかりと、抱いていた。
私たちは、帰ってきたのだ。
あの、永遠に続くかと思われた、時の牢獄から。
ふと、窓の外に、目をやる。
空には、あの、不吉なほど、赤い月が、まだ、中天に、かかっていた。
「ゼノン様、時間が…」
「ああ。ほとんど、経っていないようだな」
彼は、冷静に、分析する。
「クロノスの牢獄は、時間軸そのものから、切り離された、亜空間だ。我々が、あの場所で、どれほどの時間を過ごそうと、こちらの世界では、ほんの一瞬の出来事に過ぎん」
なるほど。
体感では、何日も、何年も、過ごしたような気さえするのに、現実では、まだ、数分も、経っていなかったのか。
その時だった。
私たちの背後で、わざとらしい、拍手の音が、響いた。
パチ、パチ、パチ…。
振り返ると、そこには、二人の人物が、立っていた。
一人は、純白のドレスを身にまとった、聖女の微笑みを浮かべる、リリアナ。
そして、もう一人は、そのリリアナの肩に、優しく手を置く、壮年の貴族。
ロシュフォール宰相だ。
「いやはや、素晴らしい。実に、素晴らしいですな」
宰相は、心底、感心したように、言った。
しかし、その瞳の奥には、隠しきれない、動揺の色が、浮かんでいる。
「まさか、あのクロノスの牢獄から、生きて、戻ってくる者が、現れるとは。我が、長年の研究と、計算を、遥かに、超えておりますぞ」
彼の計画に、生じた、初めての、誤算。
その事実に、私の胸は、すっと、した。
「リリアナ」
宰相が、隣の少女に、低い声で、尋ねる。
「…何が、あった? 魔法陣に、不備でも、あったのか?」
「い、いえ! そのようなことは、決して…! 完璧に、作動したはずですわ、お父様!」
リリアナもまた、目の前の光景が、信じられない、といった様子で、狼狽えている。
その顔は、もはや、聖女ではなく、ただの、追い詰められた、小悪党のそれだ。
「ふむ…」
宰相は、顎の髭を、撫でながら、私たちを、値踏みするように、観察する。
そして、すぐに、いつもの、冷徹な、政治家の顔に、戻った。
「…まあ、良いでしょう。計画に、多少の、修正は、つきものですからな」
彼は、あっさりと、そう言った。
その、切り替えの早さ。
やはり、ただの、老人ではない。
「プロセスが、どうであれ、結果は、同じことです。あなた方は、ここで、消える運命にあるのですから」
彼は、そう言うと、右手を、すっと、上げた。
すると、時計塔の、唯一の出入り口である、階段の入り口に、十数名の、黒装束の男たちが、音もなく、現れた。
全員が、抜き身の剣を、手にしている。
宰相直属の、暗部だろう。
「驚きましたか? あなた方が、時の牢獄で、遊んでいる間に、こちらは、着々と、準備を進めておりましたのでな」
「…汚い手を、使う」
ゼノン様が、吐き捨てるように、言った。
「お褒めに、預かり、光栄ですな」
宰相は、優雅に、一礼する。
「さあ、シルヴァーグ公爵。そして、ヴァレンシュタイン嬢。あなた方の、物語は、ここでおしまいです。せいぜい、仲良く、冥府への旅を、楽しむことですな」
彼の、その、冷酷な、宣告。
しかし、もう、私の心は、少しも、揺らがなかった。
なぜなら。
もう、私たちは、彼の、手のひらの上で、踊る、人形では、ないのだから。
私たちは、真実を知り、そして、共に、戦うと、決めたのだから。
「…それは、どうかしら?」
私は、ゼノン様の、一歩前に、出た。
そして、目の前の、巨悪を、まっすぐに、睨みつけて、宣言する。
「わたくしたちの物語は、まだ、始まったばかりですわよ、宰相閣下」
私の、宣戦布告。
それは、長い、長い、反撃の物語の、始まりを告げる、狼煙だった。
次に私の目を開けた時、そこに広がっていたのは、白と黒の無の世界ではなかった。
古びた石の床、夜風が吹き抜けるアーチ窓、そして、頭上には、巨大な時計の針。
見覚えのある、王都の時計塔の、最上階だった。
「…戻って、きた…」
「ああ」
隣で、ゼノン様が、力強く頷く。
彼の腕が、まだ、私の腰を、しっかりと、抱いていた。
私たちは、帰ってきたのだ。
あの、永遠に続くかと思われた、時の牢獄から。
ふと、窓の外に、目をやる。
空には、あの、不吉なほど、赤い月が、まだ、中天に、かかっていた。
「ゼノン様、時間が…」
「ああ。ほとんど、経っていないようだな」
彼は、冷静に、分析する。
「クロノスの牢獄は、時間軸そのものから、切り離された、亜空間だ。我々が、あの場所で、どれほどの時間を過ごそうと、こちらの世界では、ほんの一瞬の出来事に過ぎん」
なるほど。
体感では、何日も、何年も、過ごしたような気さえするのに、現実では、まだ、数分も、経っていなかったのか。
その時だった。
私たちの背後で、わざとらしい、拍手の音が、響いた。
パチ、パチ、パチ…。
振り返ると、そこには、二人の人物が、立っていた。
一人は、純白のドレスを身にまとった、聖女の微笑みを浮かべる、リリアナ。
そして、もう一人は、そのリリアナの肩に、優しく手を置く、壮年の貴族。
ロシュフォール宰相だ。
「いやはや、素晴らしい。実に、素晴らしいですな」
宰相は、心底、感心したように、言った。
しかし、その瞳の奥には、隠しきれない、動揺の色が、浮かんでいる。
「まさか、あのクロノスの牢獄から、生きて、戻ってくる者が、現れるとは。我が、長年の研究と、計算を、遥かに、超えておりますぞ」
彼の計画に、生じた、初めての、誤算。
その事実に、私の胸は、すっと、した。
「リリアナ」
宰相が、隣の少女に、低い声で、尋ねる。
「…何が、あった? 魔法陣に、不備でも、あったのか?」
「い、いえ! そのようなことは、決して…! 完璧に、作動したはずですわ、お父様!」
リリアナもまた、目の前の光景が、信じられない、といった様子で、狼狽えている。
その顔は、もはや、聖女ではなく、ただの、追い詰められた、小悪党のそれだ。
「ふむ…」
宰相は、顎の髭を、撫でながら、私たちを、値踏みするように、観察する。
そして、すぐに、いつもの、冷徹な、政治家の顔に、戻った。
「…まあ、良いでしょう。計画に、多少の、修正は、つきものですからな」
彼は、あっさりと、そう言った。
その、切り替えの早さ。
やはり、ただの、老人ではない。
「プロセスが、どうであれ、結果は、同じことです。あなた方は、ここで、消える運命にあるのですから」
彼は、そう言うと、右手を、すっと、上げた。
すると、時計塔の、唯一の出入り口である、階段の入り口に、十数名の、黒装束の男たちが、音もなく、現れた。
全員が、抜き身の剣を、手にしている。
宰相直属の、暗部だろう。
「驚きましたか? あなた方が、時の牢獄で、遊んでいる間に、こちらは、着々と、準備を進めておりましたのでな」
「…汚い手を、使う」
ゼノン様が、吐き捨てるように、言った。
「お褒めに、預かり、光栄ですな」
宰相は、優雅に、一礼する。
「さあ、シルヴァーグ公爵。そして、ヴァレンシュタイン嬢。あなた方の、物語は、ここでおしまいです。せいぜい、仲良く、冥府への旅を、楽しむことですな」
彼の、その、冷酷な、宣告。
しかし、もう、私の心は、少しも、揺らがなかった。
なぜなら。
もう、私たちは、彼の、手のひらの上で、踊る、人形では、ないのだから。
私たちは、真実を知り、そして、共に、戦うと、決めたのだから。
「…それは、どうかしら?」
私は、ゼノン様の、一歩前に、出た。
そして、目の前の、巨悪を、まっすぐに、睨みつけて、宣言する。
「わたくしたちの物語は、まだ、始まったばかりですわよ、宰相閣下」
私の、宣戦布告。
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