46 / 60
第46話:悪役令嬢、最後の啖呵
しおりを挟む
絶体絶命。
私の、一世一代の潜入劇は、最悪の形で、幕を閉じようとしていた。
ロシュフォール宰相は、すべてを、お見通しだったのだ。
「いやはや、見事な、潜入劇でしたぞ、イザベラ嬢」
宰相は、まるで、芝居の感想でも、述べるかのように、悠然と、拍手をしてみせた。
「あなたの、その、度胸と、演技力。敵ながら、あっぱれ、と、言っておきましょう」
「…それは、光栄ですわね、宰相閣下」
私は、内心の動揺を、必死に、押し殺し、優雅に、微笑んでみせた。
マジックバッグに、入れた、証拠の書類が、ずしりと、重い。
これを、守り抜かなければ。
「して、いつから、お気づきで?」
「ふむ。そうですねぇ…あなたが、私の城に、足を踏み入れた、その瞬間から、ですかな」
「…!」
最初から、すべて、バレていたというのか。
私の、必死の演技も、陽動作戦も、すべて、彼の、手のひらの上で、踊らされていたに過ぎなかった。
「あなたの首にかかっている、その、シルヴァーグ公爵の、監視用のネックレス。あれは、確かに、厄介な代物ですが、この王宮は、私の、庭。その程度の、魔力の流れを、探知することなど、造作もないことです」
彼は、すべてを知った上で、あえて、私を、泳がせていたのだ。
私が、何を探り、どこまで、たどり着くのかを、試すために。
――イザベラ! 今すぐ、そこから、離れろ! 俺が、行く!――
頭の中に、ゼノン様の、切羽詰まった声が、響く。
ダメだ。彼が、ここへ、来たところで、宰相の、罠にかかるだけ。
『いいえ、ゼノン様。あなたは、来ては、なりません』
私は、心の中で、彼に、語りかける。
『これは、わたくしの、舞台ですもの。フィナーレは、わたくし自身で、飾らせていただきますわ』
私は、すっと、立ち上がった。
そして、絶望的な状況にもかかわらず、不敵に、胸を張る。
「あら、すべて、お見通しでしたの。それは、残念。わたくしの、演技も、まだまだ、だったようですわね」
「いいや、なかなかの、ものでしたよ。特に、私に、媚びを売る、あの、哀れな姿。実に、真に迫っておりました」
「光栄ですわ。ですが、宰相閣下。わたくしの舞台は、まだ、カーテンコールには、早すぎますのよ?」
私は、扇子を、ぱちん、と開いた。
「だって、これからが、本当の、見せ場なのですから」
「…ほう? この状況で、まだ、何かできると?」
「ええ、もちろんですわ」
私は、宰相の、隣で、得意げな顔をしている、リリアナに、視線を移した。
「例えば、そちらの、偽りの聖女様の、正体を、白日の下に、晒す、とか」
「なっ…!」
リリアナの顔色が変わる。
「あなたが、本当は、平民の、パン屋の娘などではなく、宰相閣下の、ご落胤(らくいん)であること。そして、長年、この日のために、洗脳教育を、施されてきた、哀れな、操り人形である、ということを、ね」
「な、何を、馬鹿なことを…!」
「あら、図星かしら? あなたの、その、動揺っぷり、実に、わかりやすいですわよ?」
挑発する。
時間を、稼ぐために。
ゼノン様たちが、次の手を、打つまでの、ほんの、わずかな時間を。
「宰相閣下。わたくしと、取引を、なさいませんこと?」
「取引、だと?」
「ええ。わたくしが、手に入れた、これらの、“お宝”と、引き換えに、わたくしの、命を、見逃してくださる、という、取引ですわ」
私は、マジックバッグを、ポン、と叩いてみせた。
「どうです? 悪い、お話では、ないでしょう?」
悪役令嬢、起死回生のための、最後の、啖呵。
それは、あまりにも、無謀で、脆い、時間稼ぎ。
しかし、今の私に、できることは、これしか、なかった。
この、悪魔たちの前で、決して、絶望を、見せずに、誇り高く、立ち続けることだけが、私の、最後の、戦いだった。
私の、一世一代の潜入劇は、最悪の形で、幕を閉じようとしていた。
ロシュフォール宰相は、すべてを、お見通しだったのだ。
「いやはや、見事な、潜入劇でしたぞ、イザベラ嬢」
宰相は、まるで、芝居の感想でも、述べるかのように、悠然と、拍手をしてみせた。
「あなたの、その、度胸と、演技力。敵ながら、あっぱれ、と、言っておきましょう」
「…それは、光栄ですわね、宰相閣下」
私は、内心の動揺を、必死に、押し殺し、優雅に、微笑んでみせた。
マジックバッグに、入れた、証拠の書類が、ずしりと、重い。
これを、守り抜かなければ。
「して、いつから、お気づきで?」
「ふむ。そうですねぇ…あなたが、私の城に、足を踏み入れた、その瞬間から、ですかな」
「…!」
最初から、すべて、バレていたというのか。
私の、必死の演技も、陽動作戦も、すべて、彼の、手のひらの上で、踊らされていたに過ぎなかった。
「あなたの首にかかっている、その、シルヴァーグ公爵の、監視用のネックレス。あれは、確かに、厄介な代物ですが、この王宮は、私の、庭。その程度の、魔力の流れを、探知することなど、造作もないことです」
彼は、すべてを知った上で、あえて、私を、泳がせていたのだ。
私が、何を探り、どこまで、たどり着くのかを、試すために。
――イザベラ! 今すぐ、そこから、離れろ! 俺が、行く!――
頭の中に、ゼノン様の、切羽詰まった声が、響く。
ダメだ。彼が、ここへ、来たところで、宰相の、罠にかかるだけ。
『いいえ、ゼノン様。あなたは、来ては、なりません』
私は、心の中で、彼に、語りかける。
『これは、わたくしの、舞台ですもの。フィナーレは、わたくし自身で、飾らせていただきますわ』
私は、すっと、立ち上がった。
そして、絶望的な状況にもかかわらず、不敵に、胸を張る。
「あら、すべて、お見通しでしたの。それは、残念。わたくしの、演技も、まだまだ、だったようですわね」
「いいや、なかなかの、ものでしたよ。特に、私に、媚びを売る、あの、哀れな姿。実に、真に迫っておりました」
「光栄ですわ。ですが、宰相閣下。わたくしの舞台は、まだ、カーテンコールには、早すぎますのよ?」
私は、扇子を、ぱちん、と開いた。
「だって、これからが、本当の、見せ場なのですから」
「…ほう? この状況で、まだ、何かできると?」
「ええ、もちろんですわ」
私は、宰相の、隣で、得意げな顔をしている、リリアナに、視線を移した。
「例えば、そちらの、偽りの聖女様の、正体を、白日の下に、晒す、とか」
「なっ…!」
リリアナの顔色が変わる。
「あなたが、本当は、平民の、パン屋の娘などではなく、宰相閣下の、ご落胤(らくいん)であること。そして、長年、この日のために、洗脳教育を、施されてきた、哀れな、操り人形である、ということを、ね」
「な、何を、馬鹿なことを…!」
「あら、図星かしら? あなたの、その、動揺っぷり、実に、わかりやすいですわよ?」
挑発する。
時間を、稼ぐために。
ゼノン様たちが、次の手を、打つまでの、ほんの、わずかな時間を。
「宰相閣下。わたくしと、取引を、なさいませんこと?」
「取引、だと?」
「ええ。わたくしが、手に入れた、これらの、“お宝”と、引き換えに、わたくしの、命を、見逃してくださる、という、取引ですわ」
私は、マジックバッグを、ポン、と叩いてみせた。
「どうです? 悪い、お話では、ないでしょう?」
悪役令嬢、起死回生のための、最後の、啖呵。
それは、あまりにも、無謀で、脆い、時間稼ぎ。
しかし、今の私に、できることは、これしか、なかった。
この、悪魔たちの前で、決して、絶望を、見せずに、誇り高く、立ち続けることだけが、私の、最後の、戦いだった。
44
あなたにおすすめの小説
地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!
日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」
学園のアイドル、マルスからの突然の告白。
憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。
「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」
親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。
「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」
【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました
さこの
恋愛
婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。
そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。
それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。
あくまで架空のゆる設定です。
ホットランキング入りしました。ありがとうございます!!
2021/08/29
*全三十話です。執筆済みです
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。
「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」
エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」
恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~
めもぐあい
恋愛
公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。
そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。
家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――
時間を戻した元悪女は、私を捨てた王太子と、なぜか私に夢中の騎士団長から逃げられません
腐ったバナナ
恋愛
王太子アルベルトの婚約者であったユミリアは、前世で悪女の汚名を着せられ、騎士団長ギルバートによって処刑された。
しかし、目を覚ますと、処刑直前の自分に時間が戻っていた。
ユミリアは、静かに追放されることを目標に、悪女の振る舞いをやめ、王太子から距離を置く。
しかし、なぜか冷酷非情なはずの騎士団長ギルバートが、「貴殿は私の光だ」と異常な執着を見せ、彼女を絶対的に独占し始める。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
私の欲する愛を独占している双子に嫉妬して入れ替わったら、妹への恨み辛みを一身に受けましたが、欲しかったものは手にできました
珠宮さくら
恋愛
双子の姉妹として生まれた2人は、成長するにつれてお互いにないものねだりをしていた事に気づかないまま、片方は嫉妬し、片方は殺意を持って、お互いが入れ替わることになる。
そんな2人に振り回されたと怒り狂う人が現れたり、それこそ双子のことを振り回した人たちも大勢いたが、謝罪されても伝わることのない未来が訪れるとは思いもしなかった。
それでも、頑張っていた分の願いは叶ったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる