怪物どもが蠢く島

湖城マコト

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第11話 若者の人間離れ

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「出迎えご苦労さん」

 森林地帯に足を踏み入れるなり、五体のゾンビが黎一たちの前へと立ち塞がった。先頭を歩いていた兜が、速攻で一体の首を刎ね飛ばす。
 
「綿上、玲於奈ちゃん。そっちの二体は任せるぜ」
「二体と言わず。十体でも百体でも」

 兜に負けじと黎一もゾンビへと迫る。右手にはバールを、左手には兜から譲り受けたネイルハンマーを手にし、工具の二刀流で殴り掛かる。初撃はリーチに優れるバールで足元を狙いゾンビの足をへし折り、動きを封じたところでネイルハンマーを叩き込む。体のバネを使って振るった黎一の一撃は強烈で、ゾンビの頭はまるでスイカのように砕け散った。

 海岸とは異なり、木などの障害物が多い森の中での戦闘ではあるが、殺し屋である黎一の主戦場は室内などの狭い場所が基本。むしろこういった場所での立ち回りの方が得意だった。だが物事には適材適所があり、その反面、戦いにくそうにしている者もいる。

「もう。ちょこまかと」

 障害物が多い地形故に、射撃担当である玲於奈は狙いを定めるのに苦労していた。それでも彼女の技量はやはり相当なもので、ゾンビが木々の間から顔を覗かせた瞬間にその眉間へと確実にボウガンの矢を打ち込み、着実に撃破していく。
 
「若者の人間離れってか。俺も負けていられないな」

 兜は自分よりも十歳は若い二人の奮戦に感心しつつも負けん気を発揮し、ゾンビの両足を両断して転ばせ、その頭部にマチェーテを突き立てて止めをさした。攻撃後の隙を狙って最後の一体が兜に迫ったが、突き立てたマチェーテを抜く時間は無駄だと判断し、兜はゾンビの振り下ろした右腕を軽やかなバックステップで回避。ゾンビが体勢を整える時間を与えず、強烈な回し蹴りを頭部目掛けて放った。兜の蹴りを喰らったゾンビは完全に首の骨が折れ、頭部があらぬ方向を向いたまま地面へと突っ伏した。

「よし、進むか」

 兜は笑顔でそう言うと、再び行軍の先頭に立ち、邪魔な草木をマチェーテで薙いだ。ある意味では本来の用途だ。

 ※※※

「地図によると、もう間もなくですね」

 端末を確認していた玲於奈の言葉に、黎一と兜は足を止める。
 見通しの悪い森林地帯かつ、度重なるゾンビとの戦闘もあったため、行軍からすでに二時間が経過していた。日も傾き始め、島は徐々に闇の世界へと近づいている。

「ひょっとしてあれか? 思っていた以上に人工物だな」

 兜がマチェーテで指した先には、鈍色の無機質な箱型の建物が木々の隙間から覗いていた。戦前の建造物だという話だが、しっかりと維持管理が行われているのかそこまで廃れた印象はなく、人工物としての堅牢さを堅持している。

「人生でこんな大歓迎を受ける機会はそうそうなさそうだな」

 状況は目的地への到着を簡単には許してくれない。最後、かどうかは定かではないが、進行を妨げるかのように、大量のゾンビがぞろぞろと周辺に集まり出した。これまでで最も数が多い。目視出来るだけで十七体。気配だけで姿が見えない個体もいるようなので、実数はもっと多いだろう。相手が動く死体でなければ、さながら著名人の地元への凱旋か何かのような光景だ。

「一騎当千って柄ではないんだよな。俺は」
 
 これが仮に自分一人だけだったなら、この軍勢を突破するのにかなり手こずるだろう(決して不可能ではない)と黎一は自己分析する。島の中心部に近づくにつれゾンビの数が増えていることを踏まえると、アイテムの回収は複数人で赴くのが前提なのだろう。どう考えても単身で臨むのは難易度が高い。今のところはアナウンスはされていないが、アイテムの回収を目指して脱落した参加者もいそうだ。

「綿上、いけるな?」
「もちろんです。玲於奈は?」
「体力的に問題ありませんが、残弾がいささか心配ですね」

 ボウガンの矢は残り十五本。ゲームの終了まで残り十七時間あることを考えれば、消費ペースはかなり厳しい。大量のゾンビを相手に二十四時間を戦い抜くには、そもそもの矢の数が少なすぎる。

「自分の身を守るのを最優先に矢を使え。ゾンビは俺と兜さんで片づける」
「おっ、かっこいいね。そういう男気、嫌いじゃないぜ」

 緊迫感のある状況だからこそ、兜の軽口が黎一にはありがたかった。

「……すみません。ですが、援護はしっかりと努めますから」

 玲於奈はゾンビから距離を取り、いつでも攻撃出来るようにボウガンを構えた。足手纏いにはなりたくない。最小限の矢の消費で最大の効果を上げられるように集中力を高める。

「行きましょう。兜さん」
「おうよ。どっちが多く狩れるかな」

 二人の勇猛果敢な男は怯むことのなくゾンビの群れへと突撃を開始した。
 ゲーム開始から七時間も経てば、ゾンビに対する立ち回りというのは思考ではなく体に染みついている。時折現れる動きの良い新鮮なゾンビ相手なら警戒が必要だが、幸いなことにこの群れは緩慢なゾンビだけで形成されているようだった。

 黎一は二本の鈍器でゾンビの頭を次々と破壊していく。武器は完全に両手に馴染んでおり、二本の武器を逆方向に振るい、同時に二体のゾンビを撃破する器用さも見せた。

 玲於奈は矢の使用を最小限に抑え、接近するゾンビは黎一から渡されていたブラックジャックを使って迎撃する。玲於奈の腕力では一撃必殺とはいかないが、ダウンを取るだけの威力は有しており、転倒したゾンビの頭を力一杯蹴り飛ばすことで止めを刺した。

 兜の立ち振る舞いには一切危なげが無い。マチェーテでゾンビの首を切り飛ばしたかと思えば、続けて肉薄したゾンビの頭蓋へと、投擲用であり決して接近戦には向いていないダガーナイフを怪力で無理やり眼窩へとねじ込み撃破。それをすぐさま引き抜いたかと思えば、振り向きざまに後方のゾンビに投擲しさらにもう一体を仕留めた。

 大勢のゾンビに囲まれながらも、三者三様に優位に戦闘を進めていた。しかし、生身の人間である以上疲労は確実に蓄積するし、相手を骨ごと粉砕、両断するためにはかなりの力も使う。長期戦は避けたいが、ゾンビはどこからともなく現れ、すでに最初に目視した数の倍以上に増えていた。ひょっとしたら無尽蔵に湧いてくるのではと錯覚を覚える。

「これだけ多いと、流石に辟易としてきますね」
「まったくだ。ゲームよろしく経験値が入ってステータスが上がるなら文句なしなんだが」

 体力よりも、武器の弾数や耐久の方が不安だ。残数の決まっている玲於奈の矢や兜のダガーナイフはもちろん、骨を砕き続ければ黎一のバールだって歪んでくるし、肉を断ち続ければ兜のマチェーテもいずれは刃こぼれをおこす。そうなれば、いかに戦闘能力に優れる三人であっても分は悪い。

「増えましたね」
「ああ、増えたようだな」

 さらに四つの気配が戦場へと現れたのを黎一と兜は感じとった。少し離れた位置で奮戦する玲於奈も言葉に出す余裕がないだけで、気配そのものには気づいていそうだ。
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