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第12話 新たな怪物たち
「ここが正念場かもな」
「一発かましてやりましょう」
黎一と兜が反対方向に駆け出し、ゾンビの大群へと再度切り込む。戦場に気配が増えたことで戦局は間違いなく変わる。それが吉と出るか凶と出るかは、その時になってみないと分からない。
「お行儀の悪い子……」
玲於奈の振るったブラックジャックが一体のゾンビに噛み千切られてしまった。すぐに後方に跳んで距離を取ったため追撃は免れたが、近接武器の喪失は手痛い。なるべく矢は使いたくなかったが、ここから先はボウガンでの戦闘に切り替えるしかない。
「……勿体ないけど、仕方がないか」
覚悟を決めた玲於奈がボウガンを構えた瞬間。事態は動いた。
ブラックジャックを噛み千切ったゾンビが、玲於奈がボウガンの矢を放つよりも前に身体活動を停止したのだ。側頭部にはピッケルの先端が突き刺さっている。
「大丈夫かい? 可愛いお嬢さん」
ブリーチした長髪をなびかせた青年が、ナンパでもするような声色で玲於奈へと微笑みかけた。
「こんなものか、ゾンビ共!」
兜は僅か一分で四体のゾンビを切り伏せてきた。戦場では明確な知性と殺意を持った兵士をさんざん相手にしてきた。これまでに潜り抜けてきた修羅場を思えば、知性のないゾンビの相手など生温い。
「相変わらずの戦闘能力だな。兜」
「その声は……」
ここにいないはずの男の声が兜に一瞬の動揺をもたらし、微かに動きが鈍った。その隙を見逃さないと言わんばかりに、背後から二体のゾンビが兜目掛けて襲い掛かる。
激しい衝突音と共に二体のゾンビの頭部が砕け散り、ただの死体へと成り下がった。
兜がゆっくりと振りかえると、ゾンビの死骸のそばに、タンクトップとカーゴパンツ姿の体格の良いスキンヘッドの大男と、白いブラウスとスキニーデニムを纏った色白の若い女が立っていた。男の手には斧が。女の手には剣先スコップがそれぞれ握られている。
先程の声は兜の聞き間違えではなかった。この場に新たに現れた気配が生きた人間のものであることには気づいていたが、まさかそれが知り合いものだったとは。
「お前、どうしてここに」
兜の瞳に映るのは、かつて共に同じ戦場を駈けた男の姿であった。
「本来の用途に使うにはもう厳しいか」
曲がりかけているバールを酷使しながら、黎一はゾンビの死骸の山を築き続ける。リーチの長いバールの方が使用頻度は多く、それだけ損傷も増えていく。バールの消耗を抑えるために、右手をネイルハンマーに持ち直し、数メートル先にいる三体のゾンビに殴りかかろうとしたが。
「兜さんじゃない。誰の仕業だ?」
黎一が動くより先に三体のゾンビの首が飛んだ。兜の援護かとも思ったが、彼は黎一の後方にいるはずだ。正面でゾンビの首を刎ねることは考えにくい。
「鈍器で無双するなんて凄いね君。見たところ僕と同年代かな?」
「お前は……」
四人目の気配の正体。パーカーを目深に被った青年が、フードから覗く口元に笑みを浮かべている。
最狂の男、鞍橋月彦までもがこの混沌とした戦場へと現れた。
ゲーム開始から約八時間が経過。
アイテムの設置されている建物から百メートル程離れた森林地帯。今この場所にはデスゲームの参加者たちが、これまでにない人口密度で集結していた。混沌の夜が訪れようとしている。
※※※
「七名とはなかなかの出席率じゃないか。面白い夜になりそうだ」
モニター越しに事の成り行きを見守る面繋は満足気に画面に見入っている。
画面に映し出されている七名は実に個性的なメンバーだ。
稲城威志男。三十三歳。
職業傭兵。二十代でフランス外人部隊に所属し戦闘技術を磨く。
退役後はフリーの傭兵として世界中の紛争地を転々とし、兜頼弘とは数カ月間、同じ部隊に所属していた時期もある。殺しに快楽を求めるタイプの人間であり、殺し過ぎる男として戦場では有名だったが、三年前にある戦場で生死の境を彷徨い、以後の消息は不明とされていた。
鯉口蜜花。二十九歳。
専業主婦。魅惑的な美貌と抜群のプロポーションを持ち、芸能活動していた時期もある。当時から男性関係の悪評が絶えず、スキャンダルが原因で芸能界を引退。これまでに三度の結婚歴があるが、彼女の夫は例外なく不審死を遂げており、多額の保険金を得ていることから保険金殺人の容疑で警察が捜査中である。現在は資産家である四人目の夫(七十七歳)と供に暮らしていた。
蛭巻惣吾。二十五歳。
職業不詳。大物政治家である蛭巻衛門の孫。若い女性の連続失踪事件の容疑者で、被害者全員と面識があった。被害者はまだ発見されていないが、失踪時の現場の状況からかなりの出血を伴っていることが確認されている。殺人事件の可能性も視野に捜査が進められているが、目ぼしい成果は上げられていない。捜査本部に何らかの圧力がかかったとの噂もあるが、真相は不明である。
新たに三名の怪物達を加え、ゾンビの蠢く島でのデスゲームはさらに混迷を極める。
「一発かましてやりましょう」
黎一と兜が反対方向に駆け出し、ゾンビの大群へと再度切り込む。戦場に気配が増えたことで戦局は間違いなく変わる。それが吉と出るか凶と出るかは、その時になってみないと分からない。
「お行儀の悪い子……」
玲於奈の振るったブラックジャックが一体のゾンビに噛み千切られてしまった。すぐに後方に跳んで距離を取ったため追撃は免れたが、近接武器の喪失は手痛い。なるべく矢は使いたくなかったが、ここから先はボウガンでの戦闘に切り替えるしかない。
「……勿体ないけど、仕方がないか」
覚悟を決めた玲於奈がボウガンを構えた瞬間。事態は動いた。
ブラックジャックを噛み千切ったゾンビが、玲於奈がボウガンの矢を放つよりも前に身体活動を停止したのだ。側頭部にはピッケルの先端が突き刺さっている。
「大丈夫かい? 可愛いお嬢さん」
ブリーチした長髪をなびかせた青年が、ナンパでもするような声色で玲於奈へと微笑みかけた。
「こんなものか、ゾンビ共!」
兜は僅か一分で四体のゾンビを切り伏せてきた。戦場では明確な知性と殺意を持った兵士をさんざん相手にしてきた。これまでに潜り抜けてきた修羅場を思えば、知性のないゾンビの相手など生温い。
「相変わらずの戦闘能力だな。兜」
「その声は……」
ここにいないはずの男の声が兜に一瞬の動揺をもたらし、微かに動きが鈍った。その隙を見逃さないと言わんばかりに、背後から二体のゾンビが兜目掛けて襲い掛かる。
激しい衝突音と共に二体のゾンビの頭部が砕け散り、ただの死体へと成り下がった。
兜がゆっくりと振りかえると、ゾンビの死骸のそばに、タンクトップとカーゴパンツ姿の体格の良いスキンヘッドの大男と、白いブラウスとスキニーデニムを纏った色白の若い女が立っていた。男の手には斧が。女の手には剣先スコップがそれぞれ握られている。
先程の声は兜の聞き間違えではなかった。この場に新たに現れた気配が生きた人間のものであることには気づいていたが、まさかそれが知り合いものだったとは。
「お前、どうしてここに」
兜の瞳に映るのは、かつて共に同じ戦場を駈けた男の姿であった。
「本来の用途に使うにはもう厳しいか」
曲がりかけているバールを酷使しながら、黎一はゾンビの死骸の山を築き続ける。リーチの長いバールの方が使用頻度は多く、それだけ損傷も増えていく。バールの消耗を抑えるために、右手をネイルハンマーに持ち直し、数メートル先にいる三体のゾンビに殴りかかろうとしたが。
「兜さんじゃない。誰の仕業だ?」
黎一が動くより先に三体のゾンビの首が飛んだ。兜の援護かとも思ったが、彼は黎一の後方にいるはずだ。正面でゾンビの首を刎ねることは考えにくい。
「鈍器で無双するなんて凄いね君。見たところ僕と同年代かな?」
「お前は……」
四人目の気配の正体。パーカーを目深に被った青年が、フードから覗く口元に笑みを浮かべている。
最狂の男、鞍橋月彦までもがこの混沌とした戦場へと現れた。
ゲーム開始から約八時間が経過。
アイテムの設置されている建物から百メートル程離れた森林地帯。今この場所にはデスゲームの参加者たちが、これまでにない人口密度で集結していた。混沌の夜が訪れようとしている。
※※※
「七名とはなかなかの出席率じゃないか。面白い夜になりそうだ」
モニター越しに事の成り行きを見守る面繋は満足気に画面に見入っている。
画面に映し出されている七名は実に個性的なメンバーだ。
稲城威志男。三十三歳。
職業傭兵。二十代でフランス外人部隊に所属し戦闘技術を磨く。
退役後はフリーの傭兵として世界中の紛争地を転々とし、兜頼弘とは数カ月間、同じ部隊に所属していた時期もある。殺しに快楽を求めるタイプの人間であり、殺し過ぎる男として戦場では有名だったが、三年前にある戦場で生死の境を彷徨い、以後の消息は不明とされていた。
鯉口蜜花。二十九歳。
専業主婦。魅惑的な美貌と抜群のプロポーションを持ち、芸能活動していた時期もある。当時から男性関係の悪評が絶えず、スキャンダルが原因で芸能界を引退。これまでに三度の結婚歴があるが、彼女の夫は例外なく不審死を遂げており、多額の保険金を得ていることから保険金殺人の容疑で警察が捜査中である。現在は資産家である四人目の夫(七十七歳)と供に暮らしていた。
蛭巻惣吾。二十五歳。
職業不詳。大物政治家である蛭巻衛門の孫。若い女性の連続失踪事件の容疑者で、被害者全員と面識があった。被害者はまだ発見されていないが、失踪時の現場の状況からかなりの出血を伴っていることが確認されている。殺人事件の可能性も視野に捜査が進められているが、目ぼしい成果は上げられていない。捜査本部に何らかの圧力がかかったとの噂もあるが、真相は不明である。
新たに三名の怪物達を加え、ゾンビの蠢く島でのデスゲームはさらに混迷を極める。
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