53 / 280
第二章 ロルディアの影
第53話 影の異形、再び
しおりを挟む
仮面の男は霧と共に姿を消した。
足元に転がる仮面の破片と残された魔力の残滓。わずかだが、確かに手応えはあった。だが、それ以上に確信も得た。
「……あの男、ヴァルディスと深く繋がっている。スレイン丘陵はやつらの拠点だ」
俺の言葉にヴェルナーもうなずく。
「ここまで鮮やかに現れ、撤退したとなると、この周辺に魔術陣か隠れ拠点があるのは間違いない。だが、今の戦力では索敵に限界がある。いったんギルドへ戻って、魔力探知や追跡に長けたメンバーを加えた調査班を再編成する」
セリスは剣を収め、小さく息をついた。
「体力も充分ですし、確実な手順でいきましょう。私も準備は整えられます」
全員がうなずき、帰還の準備を整え始めた——そのとき。
「……くる」
ルナの耳がぴくりと動いた。ふさふさの尾を丸め、背を低くして震える。
異様な気配と共に黒い靄が地面から滲み出るように現れた。それは人の形を模した、だが明らかに人ではない何か。長く伸びた手足、顔のない影。——影の異形。
「しまった、逃げたんじゃない……!」
ヴェルナーが素早く構える。が、異形は音もなく地を這い、まずはガルドに飛びかかった。
「っく!」
ガルドの巨大な盾が異形の一撃を受け止めるも、重い打撃に身体ごと吹き飛ばされる。続いてミリアが風の足運びで横へ跳ぶが、異形の腕がかすめて鎧を裂いた。
ヴェルナーも斬りかかるが、異形はその動きすら先読みしたかのように滑らかにかわし、逆に爪で肩口を切り裂いた。
すぐに俺たちが飛び込む。
「エルン、ヴェルナーを!」
「了解……!」
エルンは即座に精霊に呼びかける。
「光の精霊リュミエールよ。我が魔力を代償とし彼を守る盾となれ——聖域の閃壁!」
淡い金光の膜がヴェルナーを包み、異形の追撃を防ぐ。
「セリス!」
「いきます!」
セリスの剣が異形の脇腹を切り裂く。さらに異形の連撃を受け流し、間合いを詰めて斬撃を叩き込む。だが、異形の身体はまるで黒い液体のように、その切断面が徐々に塞がっていく。
「効いてる……けど、浅い!」
俺はすぐに水の精霊を喚び出す。
「水精レヴィアよ! 我が魔力を代償とし粘性の鎧で絡めとれ——流転の雫!」
ぶよぶよと粘度の高い水球が異形を包み込み、足の動きを鈍らせる。異形はバランスを崩し、もたついていた。
「エルン、今だ!」
「はいっ——!」
エルンが狙いを定め、詠唱を開始する。
「光の精霊ルミナよ、我が魔力を代償とし聖なる光の矢を放て——聖光の矢!」
輝く光線が一直線にほとばしり、異形の胸部を貫いた。
「いくぞ……とどめだ!」
俺は咆哮と共に詠唱した。
「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち眼前の敵を消し飛ばせ——蒼閃!」
青い斬光が閃き、エルンの魔法で弱体化した異形を打ち抜いた。その身体がひときわ強く震え——そして、影の異形は吹き飛ぶようにして霧散した。
地に膝をつきながら、ガルドが呻く。
「……生きては、いる……が、左腕が……」
「私も、肋骨が……ヒビくらいは……」
ミリアが苦笑しながら腰を下ろす。
ヴェルナーも腕を押さえながら呻いた。
「……だが、奴の狙いが見えたな。あの異形、エルフには一度も触れようとしなかった」
俺とエルンは顔を見合わせる。
「……確かに。エルンにも、セリスにも、俺にも」
「おそらく、ヴァルディスはお前たちを実験体として温存している。捕らえることはしても、傷つけるなと命令されていたのだろう」
ヴェルナーは静かに仮面の破片を見つめる。
「影の魔術……完成に近づいてるのかもしれん」
帰還準備が整い、皆が背を向けようとした時、ルナが俺の隣にやって来た。
「……カイン」
「ん?」
「さっきの仮面のひと、いる場所……だいたい、わかった」
俺は思わずルナの目を見つめた。そこには確信が宿っていた。
「本当か?」
ルナはこくりとうなずき、その尻尾がゆらりと風に揺れた。
「そこ、すっごく……こわい。気持ち、ざわざわする」
「……ありがとう、ルナ」
俺はルナの小さな背にそっと手を置く。
敵は確かに神出鬼没だった。だが、もう、お前らを捉えたぞ。
被害は大きかったものの、俺は今回の作戦に手ごたえを感じていた。
足元に転がる仮面の破片と残された魔力の残滓。わずかだが、確かに手応えはあった。だが、それ以上に確信も得た。
「……あの男、ヴァルディスと深く繋がっている。スレイン丘陵はやつらの拠点だ」
俺の言葉にヴェルナーもうなずく。
「ここまで鮮やかに現れ、撤退したとなると、この周辺に魔術陣か隠れ拠点があるのは間違いない。だが、今の戦力では索敵に限界がある。いったんギルドへ戻って、魔力探知や追跡に長けたメンバーを加えた調査班を再編成する」
セリスは剣を収め、小さく息をついた。
「体力も充分ですし、確実な手順でいきましょう。私も準備は整えられます」
全員がうなずき、帰還の準備を整え始めた——そのとき。
「……くる」
ルナの耳がぴくりと動いた。ふさふさの尾を丸め、背を低くして震える。
異様な気配と共に黒い靄が地面から滲み出るように現れた。それは人の形を模した、だが明らかに人ではない何か。長く伸びた手足、顔のない影。——影の異形。
「しまった、逃げたんじゃない……!」
ヴェルナーが素早く構える。が、異形は音もなく地を這い、まずはガルドに飛びかかった。
「っく!」
ガルドの巨大な盾が異形の一撃を受け止めるも、重い打撃に身体ごと吹き飛ばされる。続いてミリアが風の足運びで横へ跳ぶが、異形の腕がかすめて鎧を裂いた。
ヴェルナーも斬りかかるが、異形はその動きすら先読みしたかのように滑らかにかわし、逆に爪で肩口を切り裂いた。
すぐに俺たちが飛び込む。
「エルン、ヴェルナーを!」
「了解……!」
エルンは即座に精霊に呼びかける。
「光の精霊リュミエールよ。我が魔力を代償とし彼を守る盾となれ——聖域の閃壁!」
淡い金光の膜がヴェルナーを包み、異形の追撃を防ぐ。
「セリス!」
「いきます!」
セリスの剣が異形の脇腹を切り裂く。さらに異形の連撃を受け流し、間合いを詰めて斬撃を叩き込む。だが、異形の身体はまるで黒い液体のように、その切断面が徐々に塞がっていく。
「効いてる……けど、浅い!」
俺はすぐに水の精霊を喚び出す。
「水精レヴィアよ! 我が魔力を代償とし粘性の鎧で絡めとれ——流転の雫!」
ぶよぶよと粘度の高い水球が異形を包み込み、足の動きを鈍らせる。異形はバランスを崩し、もたついていた。
「エルン、今だ!」
「はいっ——!」
エルンが狙いを定め、詠唱を開始する。
「光の精霊ルミナよ、我が魔力を代償とし聖なる光の矢を放て——聖光の矢!」
輝く光線が一直線にほとばしり、異形の胸部を貫いた。
「いくぞ……とどめだ!」
俺は咆哮と共に詠唱した。
「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち眼前の敵を消し飛ばせ——蒼閃!」
青い斬光が閃き、エルンの魔法で弱体化した異形を打ち抜いた。その身体がひときわ強く震え——そして、影の異形は吹き飛ぶようにして霧散した。
地に膝をつきながら、ガルドが呻く。
「……生きては、いる……が、左腕が……」
「私も、肋骨が……ヒビくらいは……」
ミリアが苦笑しながら腰を下ろす。
ヴェルナーも腕を押さえながら呻いた。
「……だが、奴の狙いが見えたな。あの異形、エルフには一度も触れようとしなかった」
俺とエルンは顔を見合わせる。
「……確かに。エルンにも、セリスにも、俺にも」
「おそらく、ヴァルディスはお前たちを実験体として温存している。捕らえることはしても、傷つけるなと命令されていたのだろう」
ヴェルナーは静かに仮面の破片を見つめる。
「影の魔術……完成に近づいてるのかもしれん」
帰還準備が整い、皆が背を向けようとした時、ルナが俺の隣にやって来た。
「……カイン」
「ん?」
「さっきの仮面のひと、いる場所……だいたい、わかった」
俺は思わずルナの目を見つめた。そこには確信が宿っていた。
「本当か?」
ルナはこくりとうなずき、その尻尾がゆらりと風に揺れた。
「そこ、すっごく……こわい。気持ち、ざわざわする」
「……ありがとう、ルナ」
俺はルナの小さな背にそっと手を置く。
敵は確かに神出鬼没だった。だが、もう、お前らを捉えたぞ。
被害は大きかったものの、俺は今回の作戦に手ごたえを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました
おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。
人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。
最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。
おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。
だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。
俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。
これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。
……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう?
そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。
※他サイト様にも同時掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる