50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第二章 ロルディアの影

第53話 影の異形、再び

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 仮面の男は霧と共に姿を消した。
 足元に転がる仮面の破片と残された魔力の残滓。わずかだが、確かに手応えはあった。だが、それ以上に確信も得た。

「……あの男、ヴァルディスと深く繋がっている。スレイン丘陵はやつらの拠点だ」

 俺の言葉にヴェルナーもうなずく。

「ここまで鮮やかに現れ、撤退したとなると、この周辺に魔術陣か隠れ拠点があるのは間違いない。だが、今の戦力では索敵に限界がある。いったんギルドへ戻って、魔力探知や追跡に長けたメンバーを加えた調査班を再編成する」

 セリスは剣を収め、小さく息をついた。

「体力も充分ですし、確実な手順でいきましょう。私も準備は整えられます」

 全員がうなずき、帰還の準備を整え始めた——そのとき。

「……くる」

 ルナの耳がぴくりと動いた。ふさふさの尾を丸め、背を低くして震える。

 異様な気配と共に黒い靄が地面から滲み出るように現れた。それは人の形を模した、だが明らかに人ではない何か。長く伸びた手足、顔のない影。——影の異形。

「しまった、逃げたんじゃない……!」

 ヴェルナーが素早く構える。が、異形は音もなく地を這い、まずはガルドに飛びかかった。

「っく!」

 ガルドの巨大な盾が異形の一撃を受け止めるも、重い打撃に身体ごと吹き飛ばされる。続いてミリアが風の足運びで横へ跳ぶが、異形の腕がかすめて鎧を裂いた。
 ヴェルナーも斬りかかるが、異形はその動きすら先読みしたかのように滑らかにかわし、逆に爪で肩口を切り裂いた。
 すぐに俺たちが飛び込む。

「エルン、ヴェルナーを!」

「了解……!」

 エルンは即座に精霊に呼びかける。

「光の精霊リュミエールよ。我が魔力を代償とし彼を守る盾となれ——聖域の閃壁セイクリッド・バリア!」

 淡い金光の膜がヴェルナーを包み、異形の追撃を防ぐ。

「セリス!」

「いきます!」

 セリスの剣が異形の脇腹を切り裂く。さらに異形の連撃を受け流し、間合いを詰めて斬撃を叩き込む。だが、異形の身体はまるで黒い液体のように、その切断面が徐々にふさがっていく。

「効いてる……けど、浅い!」

 俺はすぐに水の精霊を喚び出す。

「水精レヴィアよ! 我が魔力を代償とし粘性の鎧で絡めとれ——流転の雫アクアオーブ!」

 ぶよぶよと粘度の高い水球が異形を包み込み、足の動きを鈍らせる。異形はバランスを崩し、もたついていた。

「エルン、今だ!」

「はいっ——!」

 エルンが狙いを定め、詠唱を開始する。

「光の精霊ルミナよ、我が魔力を代償とし聖なる光の矢を放て——聖光の矢ルミナス・レイ!」
 輝く光線が一直線にほとばしり、異形の胸部を貫いた。

「いくぞ……とどめだ!」

 俺は咆哮と共に詠唱した。

「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち眼前の敵を消し飛ばせ——蒼閃そうせん!」

 青い斬光が閃き、エルンの魔法で弱体化した異形を打ち抜いた。その身体がひときわ強く震え——そして、影の異形は吹き飛ぶようにして霧散した。

 地に膝をつきながら、ガルドがうめく。

「……生きては、いる……が、左腕が……」

「私も、肋骨が……ヒビくらいは……」

 ミリアが苦笑しながら腰を下ろす。

 ヴェルナーも腕を押さえながらうめいた。

「……だが、奴の狙いが見えたな。あの異形、エルフには一度も触れようとしなかった」

 俺とエルンは顔を見合わせる。

「……確かに。エルンにも、セリスにも、俺にも」

「おそらく、ヴァルディスはお前たちを実験体として温存している。捕らえることはしても、傷つけるなと命令されていたのだろう」

 ヴェルナーは静かに仮面の破片を見つめる。

「影の魔術……完成に近づいてるのかもしれん」

 帰還準備が整い、皆が背を向けようとした時、ルナが俺の隣にやって来た。

「……カイン」

「ん?」

「さっきの仮面のひと、いる場所……だいたい、わかった」

 俺は思わずルナの目を見つめた。そこには確信が宿っていた。

「本当か?」

 ルナはこくりとうなずき、その尻尾がゆらりと風に揺れた。

「そこ、すっごく……こわい。気持ち、ざわざわする」

「……ありがとう、ルナ」

 俺はルナの小さな背にそっと手を置く。
 敵は確かに神出鬼没だった。だが、もう、お前らを捉えたぞ。
 被害は大きかったものの、俺は今回の作戦に手ごたえを感じていた。
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