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第六章 ロルディアの動乱
第139話 新たな日常
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王都ロルディアは、ようやく静けさと活気を取り戻しつつあった。
通りでは倒壊した家屋の修繕を行う職人たちの掛け声が飛び交い、市場には久方ぶりに行商人たちの姿が戻り始めている。争いの爪痕がまだ生々しく残る街並みにも、人々の営みは息を吹き返しつつあった。
それを俺たちは城門近くの石段に腰かけて眺めていた。
「……あんなに荒れてた街が、こんなにも早く日常を取り戻していくなんて」
そう口にするとエルンがうなずいた。
「人は強いものね。破壊されたものをまた築き上げていく。その力が理を支える柱なのだと……私は思うわ」
「相変わらず詩人みたいなこと言うねえ」
俺が茶化すと隣でルナがくすりと笑った。
「いいじゃん、かっこいいし。エルンって、時々お姉さんっぽいこと言うんだよねー」
「時々でいいのかしら?」
エルンが不満げに唇を尖らせたところへ、後ろから聞き慣れた声が飛んできた。
「随分と楽しそうじゃないか。俺がいない間に世界が一つくらい救われたのか?」
からかうような、しかしどこか皮肉の混じった口調。その声に振り返ると、そこには荷物を背負ったカズエルの姿があった。旅の疲れを感じさせる埃まみれの外套姿で、まるで旅商人にでも間違われそうな風体だったが、間違いなく本物だ。
「カズエル……! 帰ってきたのか」
「おう。ようやくな。学術都市での報告と理の観測結果の提出もひと通り終わった。で、フェルシアに戻ってみたら、王都で戦争が起きてるとかいう話を聞いてね」
「……まあ、お前がいない間にいろいろ大変だったんだぞ。ネフィラっていうダークエルフと戦ったり、マルヴェスっていう吸血鬼が出てきたり、ルナが毒矢を受けたり」
「ほう、そいつは盛りだくさんだったようだな。……で、そのダークエルフは倒したのか?」
「ああ。なんとか。今は……平穏ってやつを少し味わえてる」
「そうか。なら、お疲れさん。……少なくとも、お前を害するものが一つ減ったってわけだな」
こうして俺はカズエルと久しぶりに軽口を交わした。
「お互いに無事で何よりよ。おかえりなさい、カズエル」
「ただいま、エルン殿。……っと、ルナも元気そうで何よりだ。もう、次に会ったときは別人になっているんじゃないかと心配したよ」
「なによ、それー。心配してたくせに戻ってこないなんて、ちょっと冷たいよ?」
「ルナに言われると、なんかつらいな……今度お菓子を奢るよ、約束する」
「ほんと? ちょうど食べてみたいのがあったの!」
そんなやりとりをしていると、王宮からの使者が俺たちを呼びにやってきた。
「カイン殿、レオンハルト陛下より、至急謁見とのことです」
新王レオンハルトは即位の儀を簡素な形で済ませたあと、まずは功労者への恩賞を定める儀を行うという。
「わかった、すぐに向かう」
俺たちは使者と一緒に王宮へと向かった。
場所は王宮正殿。かつて入ることすら許されなかった場所に俺たちは招かれて足を踏み入れた。
玉座の前に並ぶのは王宮騎士団や各地から集まった有力者たち。その中で俺たち三人――俺、エルン、ルナが進み出る。
「カイン、エルンスト、ルナ。汝らの働きは顕著であり、王国の安寧に大いに資するものなり。よって、この場において正式に爵位を授け、王都内に屋敷を与えるものとする」
「ありがとうございます、陛下」
王座の間にひざまずいた俺たちにレオンハルトは静かにうなずいた。
「君の功績は双冠の英雄として王国に深く刻まれている。君のような者が王都に根を張ってくれるのは国にとって大きな意味を持つ」
胸の奥がほんの少し熱くなるのを感じた。この国で認められて、迎えられたんだと実感する。
俺は短く頭を下げた。
振り返ると、エルンも、ルナも、それぞれに誇らしげな笑みを浮かべていた。
通りでは倒壊した家屋の修繕を行う職人たちの掛け声が飛び交い、市場には久方ぶりに行商人たちの姿が戻り始めている。争いの爪痕がまだ生々しく残る街並みにも、人々の営みは息を吹き返しつつあった。
それを俺たちは城門近くの石段に腰かけて眺めていた。
「……あんなに荒れてた街が、こんなにも早く日常を取り戻していくなんて」
そう口にするとエルンがうなずいた。
「人は強いものね。破壊されたものをまた築き上げていく。その力が理を支える柱なのだと……私は思うわ」
「相変わらず詩人みたいなこと言うねえ」
俺が茶化すと隣でルナがくすりと笑った。
「いいじゃん、かっこいいし。エルンって、時々お姉さんっぽいこと言うんだよねー」
「時々でいいのかしら?」
エルンが不満げに唇を尖らせたところへ、後ろから聞き慣れた声が飛んできた。
「随分と楽しそうじゃないか。俺がいない間に世界が一つくらい救われたのか?」
からかうような、しかしどこか皮肉の混じった口調。その声に振り返ると、そこには荷物を背負ったカズエルの姿があった。旅の疲れを感じさせる埃まみれの外套姿で、まるで旅商人にでも間違われそうな風体だったが、間違いなく本物だ。
「カズエル……! 帰ってきたのか」
「おう。ようやくな。学術都市での報告と理の観測結果の提出もひと通り終わった。で、フェルシアに戻ってみたら、王都で戦争が起きてるとかいう話を聞いてね」
「……まあ、お前がいない間にいろいろ大変だったんだぞ。ネフィラっていうダークエルフと戦ったり、マルヴェスっていう吸血鬼が出てきたり、ルナが毒矢を受けたり」
「ほう、そいつは盛りだくさんだったようだな。……で、そのダークエルフは倒したのか?」
「ああ。なんとか。今は……平穏ってやつを少し味わえてる」
「そうか。なら、お疲れさん。……少なくとも、お前を害するものが一つ減ったってわけだな」
こうして俺はカズエルと久しぶりに軽口を交わした。
「お互いに無事で何よりよ。おかえりなさい、カズエル」
「ただいま、エルン殿。……っと、ルナも元気そうで何よりだ。もう、次に会ったときは別人になっているんじゃないかと心配したよ」
「なによ、それー。心配してたくせに戻ってこないなんて、ちょっと冷たいよ?」
「ルナに言われると、なんかつらいな……今度お菓子を奢るよ、約束する」
「ほんと? ちょうど食べてみたいのがあったの!」
そんなやりとりをしていると、王宮からの使者が俺たちを呼びにやってきた。
「カイン殿、レオンハルト陛下より、至急謁見とのことです」
新王レオンハルトは即位の儀を簡素な形で済ませたあと、まずは功労者への恩賞を定める儀を行うという。
「わかった、すぐに向かう」
俺たちは使者と一緒に王宮へと向かった。
場所は王宮正殿。かつて入ることすら許されなかった場所に俺たちは招かれて足を踏み入れた。
玉座の前に並ぶのは王宮騎士団や各地から集まった有力者たち。その中で俺たち三人――俺、エルン、ルナが進み出る。
「カイン、エルンスト、ルナ。汝らの働きは顕著であり、王国の安寧に大いに資するものなり。よって、この場において正式に爵位を授け、王都内に屋敷を与えるものとする」
「ありがとうございます、陛下」
王座の間にひざまずいた俺たちにレオンハルトは静かにうなずいた。
「君の功績は双冠の英雄として王国に深く刻まれている。君のような者が王都に根を張ってくれるのは国にとって大きな意味を持つ」
胸の奥がほんの少し熱くなるのを感じた。この国で認められて、迎えられたんだと実感する。
俺は短く頭を下げた。
振り返ると、エルンも、ルナも、それぞれに誇らしげな笑みを浮かべていた。
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