50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
138 / 330
第六章 ロルディアの動乱

第138話 王都の行方

 王都に入城した俺たちを待っていたのは奇妙な静寂と燻(くすぶ)り続ける混乱の残り香だった。

 通りにはバリケードが築かれたまま放置され、閉ざされた窓の奥から住民たちが恐る恐るこちらの様子をうかがっている。風に乗って漂うのは華やかな都には似つかわしくない焦げ臭さだった。

 かつて自分が追放された場所にまた戻ってきた。『双冠そうかんの英雄』として。だが、胸に湧く感情は誇らしさだけではなかった。

「……変わり果ててしまいましたね」

 セリスが痛ましげに眉を寄せ、静かに辺りを見渡す。

「ここは私が仕えた国でもあります。けれど今は……まるで別の世界のように思えます」

「変わらないからこそ、重たいんだ。俺たちだけが変わってしまったのかもな」

 エルンが隣でわずかに肩をすくめた。

 そんな中、伝令が駆け込んでくる。第一王子派の残党が市街地で局地的な抵抗を始めたというのだ。

「出ましょう。街の混乱を放っておくわけにはいきません」

 セリスが剣の柄に手をかける。その目には悲痛な決意が宿っていた。

 俺、エルン、ルナ、セリスで急ぎ現場へ向かうと、そこではかつての王国兵たちが、降伏勧告を拒んで剣を振るっていた。

 中にはセリスがかつて上官として命令を出していた騎士の姿もあった。

「……なぜ、まだ戦うのですか!」

 刃を交える中でセリスの声が震える。

「この戦いに意味などないはずです! 剣をお引きください!」

 だが、敵の目は血走っていた。敗北を認められず、ただ暴れることで己の存在を保とうとするかのように。

「裏切り者が! エルフなどに国を渡せるか!」

 騎士が剣を振り下ろす。セリスはそれを悲しげな顔で受け流した。

 その瞬間、横から小さな影が飛び出した。

「喧嘩はダメだってば!」

 ルナの叫びとともに威嚇の火球が兵士たちの足元で炸裂する。

 爆音と熱風に煽られ、騎士たちがたじろいだ隙に俺たちが制圧に入った。抵抗は鎮圧され、王都内の混乱もようやく収束へと向かう。

 そして——。

 王城の最奥『玉座の間』。

 重厚な扉が閉じられ、民衆の喧騒が遮断されたその場所には有力貴族や軍の将軍たち、そして俺たちだけが集められていた。

 張り詰めた空気の中、後ろ手に拘束された第一王子アーレストが引き立てられてくる。

「離せ! 無礼者! 私は王だぞ!」

 アーレストは髪を振り乱し、両脇を固める兵士たちに喚き散らしていた。かつての威厳ある王子の面影はどこにもない。

 彼は血走った目で周囲を睨みつけ、やがて玉座の前に立つレオンハルトを見つけると、憎悪を露わにした。

「レオンハルト! 貴様、王家の血を引く兄を罪人として裁くつもりか!」

 レオンハルトは静かに、だが冷徹な眼差しで兄を見下ろした。

「裁くのは私ではない。法と、この国の未来だ」

 レオンハルトの合図で、一人の法務官が進み出る。

「第一王子アーレスト・ロルディア。先王暗殺の共謀、およびヴィンドールと結託しての国政壟断こくせいろうだんの容疑により拘束する」

「嘘だ! すべてヴィンドールがやったことだ! 私は知らぬ!」

 アーレストは必死に叫んだ。

「ヴィンドール! どこだ、出てこい! 私を弁護しろ!」

 虚しく響くその声に答える者はいない。彼が頼みの綱としていたエルフの長老は、すでにこの国から消え去っていたのだから。

 見苦しく足掻く兄の姿にレオンハルトは痛ましげに目を伏せた。

 兵士たちによって無理やり連行されていくアーレストの背中を貴族たちは沈黙を守ったまま、冷ややかな視線で見送っていた。

 その場に立ち会ったセリスが、苦々しい表情でつぶやく。

「……こんな形で終わってしまうのですね」

「ああ。だが、これでようやく前に進める」

 俺は静かに答えた。

 さらに、ギルドの協力も得て、近隣諸国へヴィンドールの罪状が公表された。保守派のエルフたちの間に激震が走ったが、フェルシアやセリスの働きかけにより、武力衝突には至らなかった。

 ***

 その夜。
 改めて設けられた謁見の席にて、俺は第二王子レオンハルトと対面した。

「君の力があったから、ここまで来られた」

 彼は玉座には座らず、俺と同じ目線に立って語りかけた。

「だが、これからは『力なきことわり』も尊ばねばならぬ。それが、争いのない未来への道だと信じている」

 その言葉に俺は返す言葉を見つけられなかった。ただ深くうなずくことで敬意を示した。

 王宮を出て、王都の高台から街を見下ろしていた時だった。背後に音もなく気配が生じた。

「静寂な統治を期待しているぞ」

 振り返ると、そこにはマルヴェスの姿があった。

 夜闇そのもののような漆黒のコートをなびかせ、いつものように不気味な微笑を浮かべている。

「……ヴィンドールはどうした?」

 俺の問いに彼は肩をすくめた。

「さあな。光を失ったがどこへ飛ぶかなど興味はない。……だが、新たな火種になるやもしれん」

 それだけを告げ、彼は闇へと溶けるように消えていった。何かが終わったはずなのに、まだ釈然としないものが残っている。

 そんな俺のもとへ、エルンとルナが駆け寄ってきた。

「今いたのって、マルヴェスじゃ?」

「なに、ねぎらいの言葉をかけにきたのさ。……おかげで少しだけ前を向けそうだ」

 二人は黙って俺の両隣に並んだ。

 眼下に広がる王都の灯りが、まるで俺たちの未来を祝福するかのように柔らかな光を放っていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!