209 / 280
第十一章 混沌の使徒
第209話 王への報告
しおりを挟む
王都に勝利の喧騒が響く中、俺たち六人はレオンハルト王が待つ王宮の謁見の間へと通されていた。
磨き上げられた大理石の床、壁にかけられた歴代王の肖像画。そこは先の戦いの爪痕などまるで嘘のように静かで、厳かな空気に満ちていた。
玉座に座る若き王、レオンハルトは俺たちの姿を認めると自ら立ち上がり、労いの言葉をかけてくれた。
「皆、よくぞ戻った。そして、王都を救ってくれたこと、心から感謝する。君たちがいなければ、今頃、この街は……」
「お言葉、痛み入ります。ですが陛下、我々にはご報告せねばならぬことがあります」
俺は彼の言葉を遮るように一歩前に出た。
「今回の魔獣襲来は天災などではありません。これは明確な悪意によって引き起こされた人災です」
俺の言葉で玉座の間にいた側近たちに緊張が走る。
レオンハルト王は、その真剣な表情で静かに続きを促した。
指揮を執るように、今度はカズエルが前に出る。
「陛下。我々は『学術都市』の封印書庫にて、この世界に広がる『混沌』の正体の一端を掴みました」
彼は淀みない口調で、これまでの調査結果を論理的に説明し始めた。
アーカイメリア内部に存在する『混沌の使徒』の存在。
彼らが信奉する『世界の進化のために人為的に争いを起こす』という歪んだ思想。
そして、その手段として、人の心を操る精神干渉の理式魔術を用いていること。
「我々が分析したその精神干渉の波長は、先日、私が調査した第一王子アーレスト殿下に見られた痕跡と、極めて酷似していました」
カズエルは、あえて淡々と、しかし残酷な事実を告げた。
「殿下の乱心も、『嘆きの谷』での悲劇も、そして今回の魔獣も……すべては彼らの仕業である可能性が高いと結論付けられます」
「……な、んだと……?」
レオンハルト王の声が震えた。
彼は玉座の肘掛けを、指が白くなるほど強く握りしめていた。その端正な顔が、驚愕と苦痛に歪む。
「では……兄上は……アーレストは、自らの意志で狂ったわけではなかったと言うのか……? 誰かに……顔も見えぬ何者かに、心を壊され、操られていたと……!」
王の悲痛な叫びが広間に響く。
かつて尊敬していた兄が狂気に堕ち、国を乱した末に断罪された過去。そのすべてが、他者の手による『実験』だったという事実は、あまりにも救いがなかった。
俺はかける言葉が見つからず、ただ痛ましげに目を伏せた。
真実を告げることは、時に剣で切りつけるよりも深く相手を傷つける。だが、それでも伝えなければならない。それが、生き残った者の責任だからだ。
「……王都襲来も、また然りです。俺たちが奴らの秘密――精神操作を解くための『解呪の理式』にたどり着くのを妨害するための陽動でした。奴らは俺たちの善意を利用し、この悲劇を引き起こしたのです」
長い、重い沈黙が、謁見の間を支配した。
レオンハルト王はうつむき、肩を震わせていた。それは悲しみか、それとも後悔か。
やがて、彼が顔を上げた時、その瞳には涙の代わりに灼熱のような怒りの炎が宿っていた。
「……そうか。兄上の魂も、この街の平和も、すべては机上の空論を信じる学者どもの壮大な『実験』だったというわけか……」
ドォン!
彼が拳で肘掛けを叩く音が響き渡る。
「……許しがたい!!」
若き王は立ち上がると俺たち六人を力強く見据えた。その全身から王としての覇気が立ち上る。
「人の心を……我が兄の尊厳を、虫けらのように踏みにじった罪! 万死に値する!」
彼は決意を固めた。
「カイン殿。そして、その仲間たちよ。本来であれば、中立都市である『学術都市』に我が国が軍事介入することはできない。だが、このまま奴らを放置すれば、世界そのものが奴らの実験場と化してしまうだろう。よって、私は王の名において、君たちに勅命を与える」
レオンハルト王は俺の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳には友への信頼と、被害者家族としての切実な願いが込められていた。
「『学術都市』に潜む『混沌の使徒』を調査し、その首魁である筆頭神官セイオンの陰謀を白日の下に晒せ。……そして、兄のような犠牲者を、二度と出さぬよう、その元凶を断て!」
それは俺たちの個人的な戦いが、王国からの正式な任務へと昇格した瞬間だった。
「王国としても、全面的な支援を約束しよう。資金、物資、そして、いかなる場所へも立ち入りを可能とする、王家の勅許状を授ける。必要なものは何でも言ってほしい」
「……その勅命、謹んでお受けいたします」
俺は仲間たちを代表して、深く頭を下げた。
王の悲しみと怒りを受け止め、俺の胸にも新たな、そしてより重い使命感が宿っていた。
俺たちは、もはやただの冒険者ではない。この国の、いや、この世界の未来を左右する、大きな戦いの当事者となったのだ。
謁見の間を後にし、王宮の長い回廊を歩きながら、カズエルがぽつりとつぶやいた。
「……大変なことになったな。まあ、王様にあんな顔をされたら、逃げるわけにはいかないか」
「ええ。ですが、進むべき道は、より明確になりました」
セリスの言葉に仲間たち全員がうなずいた。
そうだ。道は決まった。俺たちは再び、あの知の殿堂へと向かう。
今度は影に隠れるのではなく、裁きを下す者として。そのための準備を始めなければならない。
磨き上げられた大理石の床、壁にかけられた歴代王の肖像画。そこは先の戦いの爪痕などまるで嘘のように静かで、厳かな空気に満ちていた。
玉座に座る若き王、レオンハルトは俺たちの姿を認めると自ら立ち上がり、労いの言葉をかけてくれた。
「皆、よくぞ戻った。そして、王都を救ってくれたこと、心から感謝する。君たちがいなければ、今頃、この街は……」
「お言葉、痛み入ります。ですが陛下、我々にはご報告せねばならぬことがあります」
俺は彼の言葉を遮るように一歩前に出た。
「今回の魔獣襲来は天災などではありません。これは明確な悪意によって引き起こされた人災です」
俺の言葉で玉座の間にいた側近たちに緊張が走る。
レオンハルト王は、その真剣な表情で静かに続きを促した。
指揮を執るように、今度はカズエルが前に出る。
「陛下。我々は『学術都市』の封印書庫にて、この世界に広がる『混沌』の正体の一端を掴みました」
彼は淀みない口調で、これまでの調査結果を論理的に説明し始めた。
アーカイメリア内部に存在する『混沌の使徒』の存在。
彼らが信奉する『世界の進化のために人為的に争いを起こす』という歪んだ思想。
そして、その手段として、人の心を操る精神干渉の理式魔術を用いていること。
「我々が分析したその精神干渉の波長は、先日、私が調査した第一王子アーレスト殿下に見られた痕跡と、極めて酷似していました」
カズエルは、あえて淡々と、しかし残酷な事実を告げた。
「殿下の乱心も、『嘆きの谷』での悲劇も、そして今回の魔獣も……すべては彼らの仕業である可能性が高いと結論付けられます」
「……な、んだと……?」
レオンハルト王の声が震えた。
彼は玉座の肘掛けを、指が白くなるほど強く握りしめていた。その端正な顔が、驚愕と苦痛に歪む。
「では……兄上は……アーレストは、自らの意志で狂ったわけではなかったと言うのか……? 誰かに……顔も見えぬ何者かに、心を壊され、操られていたと……!」
王の悲痛な叫びが広間に響く。
かつて尊敬していた兄が狂気に堕ち、国を乱した末に断罪された過去。そのすべてが、他者の手による『実験』だったという事実は、あまりにも救いがなかった。
俺はかける言葉が見つからず、ただ痛ましげに目を伏せた。
真実を告げることは、時に剣で切りつけるよりも深く相手を傷つける。だが、それでも伝えなければならない。それが、生き残った者の責任だからだ。
「……王都襲来も、また然りです。俺たちが奴らの秘密――精神操作を解くための『解呪の理式』にたどり着くのを妨害するための陽動でした。奴らは俺たちの善意を利用し、この悲劇を引き起こしたのです」
長い、重い沈黙が、謁見の間を支配した。
レオンハルト王はうつむき、肩を震わせていた。それは悲しみか、それとも後悔か。
やがて、彼が顔を上げた時、その瞳には涙の代わりに灼熱のような怒りの炎が宿っていた。
「……そうか。兄上の魂も、この街の平和も、すべては机上の空論を信じる学者どもの壮大な『実験』だったというわけか……」
ドォン!
彼が拳で肘掛けを叩く音が響き渡る。
「……許しがたい!!」
若き王は立ち上がると俺たち六人を力強く見据えた。その全身から王としての覇気が立ち上る。
「人の心を……我が兄の尊厳を、虫けらのように踏みにじった罪! 万死に値する!」
彼は決意を固めた。
「カイン殿。そして、その仲間たちよ。本来であれば、中立都市である『学術都市』に我が国が軍事介入することはできない。だが、このまま奴らを放置すれば、世界そのものが奴らの実験場と化してしまうだろう。よって、私は王の名において、君たちに勅命を与える」
レオンハルト王は俺の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳には友への信頼と、被害者家族としての切実な願いが込められていた。
「『学術都市』に潜む『混沌の使徒』を調査し、その首魁である筆頭神官セイオンの陰謀を白日の下に晒せ。……そして、兄のような犠牲者を、二度と出さぬよう、その元凶を断て!」
それは俺たちの個人的な戦いが、王国からの正式な任務へと昇格した瞬間だった。
「王国としても、全面的な支援を約束しよう。資金、物資、そして、いかなる場所へも立ち入りを可能とする、王家の勅許状を授ける。必要なものは何でも言ってほしい」
「……その勅命、謹んでお受けいたします」
俺は仲間たちを代表して、深く頭を下げた。
王の悲しみと怒りを受け止め、俺の胸にも新たな、そしてより重い使命感が宿っていた。
俺たちは、もはやただの冒険者ではない。この国の、いや、この世界の未来を左右する、大きな戦いの当事者となったのだ。
謁見の間を後にし、王宮の長い回廊を歩きながら、カズエルがぽつりとつぶやいた。
「……大変なことになったな。まあ、王様にあんな顔をされたら、逃げるわけにはいかないか」
「ええ。ですが、進むべき道は、より明確になりました」
セリスの言葉に仲間たち全員がうなずいた。
そうだ。道は決まった。俺たちは再び、あの知の殿堂へと向かう。
今度は影に隠れるのではなく、裁きを下す者として。そのための準備を始めなければならない。
0
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
英雄の孫は今日も最強
まーびん
ファンタジー
前世では社会人だったが、死んで異世界に転生し、貧乏貴族ターセル男爵家の3男となった主人公ロイ。
前世のギスギスした家庭と違い、家族の皆から愛され、ロイはすくすくと3歳まで育った。
中でも、毎日一緒に遊んでくれるじいじは爺馬鹿全開で、ロイもそんなじいじが大好き。
元将軍で「英雄」と呼ばれる最強のじいじの血を引いたロイは、じいじ達に見守られながら、今日も楽しく最強な日々を過ごす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる