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第十三章 英雄の喧騒と誓いの言葉
第232話 帰路の沈黙
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『嘆きの谷』を後にした俺たちの旅路は完全な沈黙に支配されていた。
希望を打ち砕かれ、あまりにも残酷な現実を突きつけられた心は、誰一人として癒えてはいない。それどころか、マルヴェスが残した「新たな病巣」という言葉の呪いが、俺たちの間に目に見えない、しかし分厚い壁を作っていた。
隊列は誰が決めたわけでもなく、残酷なほど明確に二つに分かれていた。
先頭を行くのはレオナルド、セリス、そしてエルン。三人はまるで一つの独立した部隊のように、互いの死角を補い合いながら、ただ黙々と前進している。一度も振り返らないその背中からは、後続に対する明確な拒絶の意思が立ち上っていた。
そして、その後方を俺とカズエル、そして、その俺たちに寄り添うようにして、リナとセリシアが続く。
ルナは、そんな俺たちの間の居心地の悪い空気を感じ取ってか、誰に話しかけるでもなく、一人、地面の小石を蹴りながら、とぼとぼと歩いていた。いつもなら俺の手を引く彼女が、今はどこに身を置けばいいのか迷子になっているようだった。
「……あの、カイン様」
その重い沈黙を破ったのは、リナの、おずおずとした声だった。
「皆さん、どうして……あんなに怒っているんでしょうか。私、何か悪いことしちゃいましたか……?」
彼女の瞳は純粋な不安と困惑に揺れている。
彼女にはマルヴェスとの会話の真意も、この状況の深刻さも、何一つ伝わってはいないのだろう。自分たちが「異物」として扱われている理由が本当に分からないのだ。
その無垢さが、今は、鋭い棘となって俺の心を締め付けた。
「……いや。皆、少し疲れているだけだ。気にするな」
俺はそう答えるのが精一杯だった。
マルヴェスの警告が頭から離れない。『身近な場所』『足元』――その言葉が指し示すのは、十中八九、この二人だ。
だが確証はない。そして何より、彼女たちのこの怯えた小動物のような姿を見ていると、「混沌の使徒の手先」という、あまりにも凶悪な仮面を、どうしても重ね合わせることができなかった。
俺の迷いは、背中を通して仲間たちにも伝わっていたのだろう。
その日の野営はこれまでで最も冷え切ったものとなった。
食事の時、エルンは無言で全員分のスープを配り終えると、セリスとレオナルドと共に、俺たちのいる焚き火から少し離れた闇の中へと移動してしまった。
拒絶。
言葉よりも雄弁なその行動に胸が痛む。
俺たちの前には、気まずそうに、しかし健気に明るく振る舞おうとするリナとセリシアがいる。
「カ、カズエル様! このお肉、よく焼けましたよ! 栄養つけないと倒れちゃいますから! はい、あーん!」
「……ああ、自分で食べる」
焚き火の爆ぜる音と、リナの空回りする明るい声だけが響く。
その光景が、まるで俺たちの絆に走った亀裂を象徴しているかのようだった。
仲間を信じたい。だが、マルヴェスの言葉も無視できない。その板挟みで、俺の思考は泥沼にはまったように停止していた。
***
数日後。
俺たちは、ようやく王都ロルディアの城壁が見える丘の上へとたどり着いた。
灰色の空の下、巨大な城壁がそびえ立っている。
旅は終わる。
だが俺たちの中の問題は何一つ、解決していなかった。
「……帰ってきた、のね」
エルンが王都の街並みを見下ろしながら、ぽつりとつぶやいた。
その声には安堵も、喜びもなかった。あるのは、ただの疲労と諦めだけだ。
俺たちは、この鉛のように重い沈黙を抱えたまま、王都の門をくぐることになる。
そして、この帰還が、休息の始まりではなく――『混沌の使徒』が仕掛けた、次なる悪意の舞台の幕開けになることを、この時の俺たちは、まだ知る由もなかった。
希望を打ち砕かれ、あまりにも残酷な現実を突きつけられた心は、誰一人として癒えてはいない。それどころか、マルヴェスが残した「新たな病巣」という言葉の呪いが、俺たちの間に目に見えない、しかし分厚い壁を作っていた。
隊列は誰が決めたわけでもなく、残酷なほど明確に二つに分かれていた。
先頭を行くのはレオナルド、セリス、そしてエルン。三人はまるで一つの独立した部隊のように、互いの死角を補い合いながら、ただ黙々と前進している。一度も振り返らないその背中からは、後続に対する明確な拒絶の意思が立ち上っていた。
そして、その後方を俺とカズエル、そして、その俺たちに寄り添うようにして、リナとセリシアが続く。
ルナは、そんな俺たちの間の居心地の悪い空気を感じ取ってか、誰に話しかけるでもなく、一人、地面の小石を蹴りながら、とぼとぼと歩いていた。いつもなら俺の手を引く彼女が、今はどこに身を置けばいいのか迷子になっているようだった。
「……あの、カイン様」
その重い沈黙を破ったのは、リナの、おずおずとした声だった。
「皆さん、どうして……あんなに怒っているんでしょうか。私、何か悪いことしちゃいましたか……?」
彼女の瞳は純粋な不安と困惑に揺れている。
彼女にはマルヴェスとの会話の真意も、この状況の深刻さも、何一つ伝わってはいないのだろう。自分たちが「異物」として扱われている理由が本当に分からないのだ。
その無垢さが、今は、鋭い棘となって俺の心を締め付けた。
「……いや。皆、少し疲れているだけだ。気にするな」
俺はそう答えるのが精一杯だった。
マルヴェスの警告が頭から離れない。『身近な場所』『足元』――その言葉が指し示すのは、十中八九、この二人だ。
だが確証はない。そして何より、彼女たちのこの怯えた小動物のような姿を見ていると、「混沌の使徒の手先」という、あまりにも凶悪な仮面を、どうしても重ね合わせることができなかった。
俺の迷いは、背中を通して仲間たちにも伝わっていたのだろう。
その日の野営はこれまでで最も冷え切ったものとなった。
食事の時、エルンは無言で全員分のスープを配り終えると、セリスとレオナルドと共に、俺たちのいる焚き火から少し離れた闇の中へと移動してしまった。
拒絶。
言葉よりも雄弁なその行動に胸が痛む。
俺たちの前には、気まずそうに、しかし健気に明るく振る舞おうとするリナとセリシアがいる。
「カ、カズエル様! このお肉、よく焼けましたよ! 栄養つけないと倒れちゃいますから! はい、あーん!」
「……ああ、自分で食べる」
焚き火の爆ぜる音と、リナの空回りする明るい声だけが響く。
その光景が、まるで俺たちの絆に走った亀裂を象徴しているかのようだった。
仲間を信じたい。だが、マルヴェスの言葉も無視できない。その板挟みで、俺の思考は泥沼にはまったように停止していた。
***
数日後。
俺たちは、ようやく王都ロルディアの城壁が見える丘の上へとたどり着いた。
灰色の空の下、巨大な城壁がそびえ立っている。
旅は終わる。
だが俺たちの中の問題は何一つ、解決していなかった。
「……帰ってきた、のね」
エルンが王都の街並みを見下ろしながら、ぽつりとつぶやいた。
その声には安堵も、喜びもなかった。あるのは、ただの疲労と諦めだけだ。
俺たちは、この鉛のように重い沈黙を抱えたまま、王都の門をくぐることになる。
そして、この帰還が、休息の始まりではなく――『混沌の使徒』が仕掛けた、次なる悪意の舞台の幕開けになることを、この時の俺たちは、まだ知る由もなかった。
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