50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第十五章 マグナ・イグニスの目覚め

第264話 混沌の理、偽りの共闘

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 マグナ・イグニスの、全てを終わらせるはずだったブレスは、その口元で熱の奔流となったまま揺らめいている。
 俺たちの目の前で、あまりにも異様な、そして静謐せいひつな光景が広がっていた。

 その状況を作り出したのはセイオンの理式。
 彼の偽りの共闘ににょり、俺たちは生かされ、そして、試されていた。

「……何が起きているんだ……」

 動けないレオナルドが痛みに耐えながら息を呑んでつぶやく。
 その、ありえない静寂の中心に筆頭神官セイオンは立っていた。彼の表情は穏やかで、まるでこの地獄のような戦場が、彼にとってはただの観劇の舞台であるかのように。

「古竜マグナ・イグニス。そして、それに抗う君たちの意志。実に劇的な場面シーンだ」

 セイオンは動きを止めた竜と、絶望に沈む俺たちを交互に見つめ、満足げにうなずいた。

「一方的な破壊はただの終わりだ。私が望む混沌とは、破壊の先に新たな創造の芽吹きがある美しいことわりのことなのだよ」

 彼はゆっくりと、その掌を天に向けた。
 その瞬間、俺たちは理解させられた。この空間そのものが、物理法則ごと彼の理式魔術によって支配されているのだと。

「私が、君たちがいた世界から異界の知識――対消滅の概念をドワーフに与えたのは、この竜を討ち、世界のパワーバランスを破壊と再生に導くための一つの可能性だった。だが、君たちがここで全滅すれば、世界は一方的な破滅へと進む。それは私の望む未来ではない」

 セイオンの言葉は淡々としていたが、その一つ一つが、神の如き傲慢さに満ちていた。
 彼はこの世界の命運も、俺たちの命も、自らの壮大な実験の駒としか見ていない。

「……お前が、全ての元凶か……」

 俺は怒りを込めて、そう吐き捨てた。
 俺たちが必死に守ろうとしたものも、失った腕も、流した血も。こいつにとっては盤上の遊びに過ぎないというのか。

「おしゃべりもいいが、賢者カインよ。早めに決断したまえ」

 彼がそう言うと、セイオンの周囲に浮遊する幾何学模様きかがくもようが、わずかに明滅した。
 よく見れば、彼の涼しげな額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
 いかに彼といえど、激昂した古竜の時間を縛り続けるのは容易ではないのだ。

 ズズズ……と、竜がスローモーションのように再び動き始めた。ブレスの熱が再び輝きを増していく。

 この男の思惑通りに動くのは、腹の底からしゃくに障る。今すぐにでも、あの澄ました顔をぶん殴ってやりたい。
 だが、俺たちの目の前には仲間を傷つけ、絶望の淵に追いやった巨大な竜がいる。そして、その動きが今、確かに鈍っている。
 プライドと仲間の命。天秤にかけるまでもない。

「……この好機、逃すわけには、いかない……!」

 俺はセイオンへの憎悪を、今は心の奥底に押し殺した。
 そして、残された仲間たちに最後のげきを飛ばす。

「カズエル、最後の力を振り絞れ! 氷獄を維持するんだ! ルナはレオナルドとセリスを安全な場所へ誘導してくれ!」

 俺は剣を握り直し、前へと踏み出す。

「エルン、一緒に来てくれ! 奴の喉元をこじ開ける! これが、最後の総攻撃だ!」

 俺の叫びに応え、仲間たちの瞳に再び闘志の光が宿った。

 俺たちはこの悪魔の差し出した手を取るしかない。
 仲間を救うため、そして、この理不尽なゲームに一矢報いるために。
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