50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第十五章 マグナ・イグニスの目覚め

第265話 好機と最後の総攻撃

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「――これが最後の総攻撃だ!」

 俺の叫びが、時が止まったかのような戦場に響き渡った。

 それは最大の敵であるセイオンが作り出した偽りの好機。だが、俺たちにとって、これが唯一にして最後の活路であることに疑いの余地はなかった。

「エルン!」
「ええ!」

 俺の声に応え、エルンは覚悟を決めた。彼女は自らのポーチから、これまでの旅で集めてきた魔力を帯びた宝珠や、希少な魔石など、手持ちの魔道具のすべてを取り出した。

「私のすべてを、この一撃に……!」

 彼女が杖を天に掲げると、その魔道具たちが眩い光を放ちながら次々と砕け散り、膨大な魔力の粒子となって、彼女の杖の先へと収束していく。
 それは彼女の財産のすべてであり、冒険の軌跡そのものだ。

「集い、束ねられし光の精霊たちよ! 我が全魔力と、この輝きを代償に、かの竜を討つ、終わりの一矢となれ!――終光ラスト・レイ!」

 放たれたのはもはや不可視の光線ではなかった。
 極限まで凝縮された聖なる光の奔流が、時間すら歪む空間を一直線に切り裂き、マグナ・イグニスの巨大な頭部へと寸分の狂いもなく直撃した。

 パリンッ、と。世界が割れるような音が響く。

 セイオンが展開していた時間操作の理式が、エルンの放った桁外れのエネルギー干渉に耐えきれず、ガラスのように砕け散ったのだ。

 時は再び、正常に流れ始める。

「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!」

 マグナ・イグニスから、これまでにない、脳を直接揺さぶるかのような絶叫がほとばしった。

 『終光ラスト・レイ』は、その無敵の黒曜鱗を貫通することこそできなかった。だが、その強烈な閃光と熱量は内側から視神経と脳を焼き尽くしていたのだ。
 竜の両目からマグマのような炎が噴き出し、その巨体は完全に視力を失って、苦しげに暴れ回る。

「よし!」

 カズエルが叫んだ。彼は負傷してうずくまるセリスとレオナルドの前へと進み出ると、その両手で新たな理式を高速で構築し始めていた。

「――理式展開! 対象、セリス、レオナルド。生体情報、神経伝達系に限定介入。効果、痛覚信号の強制遮断!」

 彼の指先から放たれた、精緻せいちな光の術式が、倒れている二人の身体を優しく、しかし強引に包み込む。
 それは治療ではない。脳へ送られる痛みという信号を理式によってカットする禁断の荒療治。
 次の瞬間、苦痛に顔を歪めていたレオナルドとセリスの表情から力が抜けた。彼らは驚いたように自らの、もはや動かぬはずの腕を見つめている。

「……痛みが、ない……?」
「……ああ。身体は鉛のように重いが、剣なら、まだ振れる……!」

 二人は互いの顔を見合わせると、最後の力を振り絞るようにゆっくりと立ち上がった。
 失った腕からはまだ血が流れている。だが、その瞳に宿る炎は消えていない。
 彼らは俺の目を真っ直ぐに見据え、強くうなずいた。

 俺が最後の攻撃を叩き込むための時間を自らの命を賭して作ってくれると。その覚悟が痛いほどに伝わってきた。

「頼みます、カイン殿!」
「お前に全てを託す!」

 二人の英雄が最後の陽動のために再び、暴れ狂う竜王へとその身を躍らせた。
 片腕の剣士たちが舞い、視界を失った竜の注意を強引に引きつける。
 その隙に俺は竜の懐、死角となる場所へと一直線に飛び込んだ。

 だが、視力を奪われた竜の動きは不規則で、狂乱そのものだった。これでは、いくら死角を取っても、必殺の一撃を外す可能性がある。
 ――いや、全身全霊を込めた攻撃を絶対に外すことは許されない。

 確実な未来が必要だ。

 俺は後方の岩陰で待機している小さな影へと視線を送った。俺の意図を察した彼女と視線が交錯する。
 俺は小さく手招きをした。

(ルナ! お前の力を貸してくれ!)

 最後の一手。それは最強の魔力を持つ俺と、最善の未来を見通す彼女との共鳴。
 俺たちは神話を超えるための一撃を放ってみせる。
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