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第一章
第4話 カエルのオッサン
しおりを挟む右手の方に向けられる周囲の視線が気にならないのか、オッサンは自己紹介の続きを話し始める。
「スキルは"成長"と"ライフドレイン"とかいう奴だぁ。ま、よろしくなぁ」
と名乗るなり腕を組もうとしたが、右手に持つカエルの存在に途中で気づいたのか、奇妙な動きを見せる北条の左手。
結局その左手はごまかすかのように、握った拳から親指だけ突き刺した"OKサイン"の形のままアゴの位置に収まる。
一見何かを考えているかのような仕草だが、直前の動きからそのように考える者はこの場にはいない。
「……ああ。こちらこそよろしく頼む」
そう短く答えた信也は、続けざまに誰しもが気になっているであろう質問を口にする。
「ところで、その右手に持っているカエルのようなものは一体何なんだ?」
軽く指で指しながら、問いかける信也に北条は、
「何だって言われても困るがぁ、多分カエルだと思うぞぉ」
と、見たまんまの言葉が返ってくる。確かに質問が曖昧ではあったな、と思いつつカエル問題について更に深く聞き込みがはじまる。
「それは確かにそうだな。だが俺が聞きたかったのは、何故そんなものを今手にしているのかという事だ。もしかして、この世界に来る前から持っていたのか?」
「いやぁ、そんな事はないぞ。このカエルはさっきそこの隅っこの方にいた奴だぁ」
そう言いながら部屋の隅の方を指さす北条。
この部屋はどこかから水音が聞こえてくるように、場所によっては壁から水が僅かに染み出している。
きっとカエルにとっても悪くない住処なのだろう、と想像するのは容易い。
「何故かって理由についてだがぁ……。実は、ちょっとスキルってのを試してみようと思ってなぁ。周りを見回してみたら、丁度このカエルがいたんで試してみたって訳だぁ」
軽く右手を持ち上げ、少し見やすい位置で留めた。
「なるほどな……。試したのは"ライフドレイン"という奴か」
「あぁ、そうだぁ。見ての通りこのカエルは特に外傷はないけど、息の根は完全に止まってる。といってもぉ、使ってみた感覚からして、確実に相手の命を奪うっていうよりは、一定量の生命力を奪うって感じじゃないかぁ? どうもゲーム的な説明だがなぁ」
その言葉を聞いて一同は北条から距離を取り、不安そうな表情や警戒した表情を向ける。中には信也のように表情には何もださず、後ずさることもない者も若干いたが。
そうした様子を見て取った北条は、
「ああ、ちなみにこの"ライフドレイン"はどうやら接触した相手にしか使用できないみたいだから、そんなに警戒することはないぞぉ。というか、あんた達の中にも対人で使用したら危険そうなスキル持ちはいるだろぉ?」
改めてお互いを見渡す他の面々。
「そうだな。その辺は気にしても仕方ないだろう。そもそも自分のスキルを明かしていない者もいるんだしな」
「……」 「……ッ!」
その言葉にスキルを明かさなかった者が各々反応を示すが、信也は気にせず話を続ける。
「だが、こうしたスキルを与えられたという事は、これらのスキルが必要な場面が今後出てくる可能性があるという事だ。そこの中学生コンビを除けばお互いに素性の知れない相手かもしれないが、その時は協力していこうじゃないか。少なくとも状況が改善されるまででも構わないしな」
「さんせーい! チート能力持ちでも最初の内はちょっとした事で死にそうになったりもするしな。あ、別にオレがチートスキルを持ってるって訳じゃないぞ」
「そうだね! ぶっちゃけ何が起こってるのかよく分かってないけど、一人より二人。二人より大勢だよ!」
「わたしも~。由里香ちゃんに賛成かな~」
「僕もそれでいいと思います……」
次々と賛成の声が上がっていく中、何も答えずに余り協力的な態度ではない者も当然何名か存在していた。
だが別段これといった行動をとる事はなかったので、次の話題に進もうと思った信也は、メアリーがどこか一点を見つめている事に気付いた。
何時から見つめていたのかは分からない。ただ、信也が気づいたときには既に視線は外される直前で、彼女が何を見つめていたのかは分からなかった。
それよりも今は話を進めないと、と軌道修正する信也。
「という訳で、暫定的にこの十二人でチームを組むという事で次の議題だが……」
視線を部屋の片隅に向ける信也。その視線の先には幾つかの箱が並んでいる。
「この箱に関して何か知ってる奴はいるか?」
「はいはいっ! さっきのだけど、十二人のチームじゃなくてこの場合十二人のパーティーの方がそれっぽくていいんじゃないか?」
「まあ……呼び方はなんでもいいが、君はあの箱については何か知らないか?」
生来の生真面目さ故に律義に答える信也だが、どうやら信也と龍之介は相性が(一方的な意味で)余り良くはなさそうだ。
「え? あの箱? いや、俺目が覚めたの多分後の方だと思うし、よくわっかんねーなあ」
そう言いながら箱の方へと近づいていく龍之介。そこに、
「あの、私目が覚めた時に箱の位置が比較的近かったんで、軽く調べてみたんですけど……」
おずおずとした声をかけてきたのはメアリーだった。
「鍵でもかかってるのか、箱は開きませんでした。鍵穴らしきものも見当たらなかったので、結局開けるのは諦めたんです」
そう言って箱の方へと向かった龍之介の方へと、視線を向けるメアリー。
さほど間も空けずに「なんだ、これ。開かねーじゃねーか!」という龍之介の声が聞こえてきた。
その声をきっかけに、誰からともなく箱の方へと向かい箱を調べ始める事になったが、やはり箱は溶接されたかのようにその口は閉じたままだ。
そんな進退両難な様子を眺めていた信也は、自らも調査に加わるべく身近な箱に近寄り、何の気なしに箱の縁に手をかけた。
すると、思っていたような抵抗もなくあっさりとその箱は開く。
「ん、これは……」
思わず声が出る信也。その様子に周囲の注目が集まり、開けられた箱へと視線が向けられる。
「あれ、箱開いたんですか?」
近くで箱を調べていた咲良が話しかけてくる。
「どうやら、そのようだ」
短く答える信也の元に、他の人達も集まってくる。その間に信也は中に入っていたものをひとつひとつ取り出して、近くの床へと並べていく。
「それで箱の中身は何が入っていたんだぁ?」
少し遠くから聞こえてくるのは北条の声だ。
「ええと……。刃渡り八十センチほどの鞘に包まれた西洋剣と、短剣。それから、四十センチ程の短い杖? のようなものに、恐らくそれらを留める為のベルト。最後に小物を入れる為の袋だな」
取り出したものをひとつひとつ確認しながら、周囲への報告がてら少し大きな声で答える信也。
一番目立つ剣を手に取ってみると、ずっしりとした重量を持っており、以前の信也であれば振り回す事などできそうにはなかったが、今は何故か妙にしっくりとくる。
これがスキル"剣術"の効果なのだろうか、と考え込む信也に咲良が話しかけてきた。
「うわー、すごい本物っぽいですねぇ。鞘も変に装飾がされてない辺り、実戦的って感じがします。ところでその袋には中に何も入ってないんですか?」
西洋剣を鞘からずらし刀身を確認していた信也は、咲良のその声を聞いて一旦その剣を元に戻すと、その小さな袋を手に取った。
「ん、この軽さからすると中には何も入ってなさそうだが…………。なっ!!」
手にした袋の軽さにただの小物入れか、と判断した信也であったが袋に手を入れた瞬間に突如驚きの声を発した。
それから何やら数舜の間考え込んだかと思うと、徐に左手を小袋に添えて右手の平を前に差し出す。
その時だった。
周囲の注目に晒される事になった信也の右手の平の上。
そこにはいつの間にか紙のようなものが置かれていた。
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