5 / 398
第一章
第5話 魔法の小袋
しおりを挟む突然の事に驚く一同であったが、そういった周囲の反応を意に介さずに「なるほどな」と信也が軽く呟くと、次の瞬間には再び手の上にあった紙は姿を消す。
それから更に二度ほど紙が出現したり消えたりが繰り返された。
「わっわっ! それってもしかして魔法の鞄って奴ですか!?」
「……良くは分からないが、恐らくは今川さんの言いたいことは概ね合っていると思う」
興奮した面持ちで話しかけてくる咲良にいささかあやふやに答える信也。
このような不思議な物があれば興奮するのも無理はないが、実は咲良は龍之介ほどではないが、近頃の異世界ファンタジー作品を幾つか読んでおり、密かに憧れていたりもする。
思わず口から漏れた「魔法の鞄」というのもそういった作品のひとつである「異世界で丁稚奉公に出された俺が魔法の鞄で成り上がり!?」という作品に出てくる無限に収納できる魔法の鞄の事だ。
ただ、信也が手にしているのは、どうみても鞄といった様態ではなく、ただの袋……それも小さな小袋なので、魔法の鞄ではなく魔法の小袋という方が正しいだろう。
「んー、その魔法の鞄? って何なんっすか」
先ほどの不思議現象をキラキラした瞳で見つめていた由里香が純粋な質問を投げかける。その質問に対し、
「それはこの袋に手を入れてみればわかるよ」
とだけ告げて由里香に小袋を渡す信也。
早速由里香はその袋に手を無造作に突っ込むが、その手が袋の内部をわさわさと探るだけで、これといった反応は返ってこない。
やがて、
「袋には何も入ってないみたいっすけど、これってつまり手品って事っすか?」
と逆に尋ね返してくるのを聞いて、信也はおや? っと思った。
「あれ、袋に手を入れても何もないのか? 何かイメージが頭の中に浮かぶというか……」
「いえ、そんな事ないっす」
「む、そうなのか。ちょっと今川さんも試してもらっていいかな?」
その信也の言葉を受けて、由里香が咲良に袋を渡す。
受け取った咲良も同じように袋の内部をがさごそと動かすが、やはり反応は芳しくない。
「どうやら俺以外の人には、単なる小さい袋としか機能しないようだな」
「ちなみに和泉さんは、袋に手を入れるとどうなったんですか?」
結局何の反応もなかった袋を信也に返しながら咲夜が尋ねる。
「俺か? 俺の場合は袋に手を入れた瞬間に幾つかのイメージが脳内に広がった感じだな。それらのイメージは、どこか別の宇宙空間のような場所に漂っているようで、意識すればひとつひとつを明確に把握できるようだ」
まあこればかりは口で説明するよりは実際に体験できればよく分かるんだろうけどな、と付け加えた信也は更にこの袋の機能についての説明を続ける。
「それと同時にこの袋の使い方というのも自然と理解できた。この袋に触れた状態で先ほど浮かんだイメージ……さっき試したのは紙なんだが、それを任意の場所に取り出したいと念じると、その場所に念じたものが現れるようだ」
「おおおっ! マジっすか? それは凄いっす!」
信也の説明を受けて、興奮する由里香とは対照的に咲良は「直接取り出すタイプではなく、瞬時に呼び出すタイプ……そうなると色々と使い道があるのかも?」などと、ぶつぶつ何やら呟いている。
「そうだな、こうして直接魔法的なものに触れると、ここが今までいた場所とは異なるのだという事がよく分かる。それでこの袋だけど、取り出すときは個数を指定して出す事もできるみたいだ。ちなみに収納する際は、片手で袋に触れつつ収納したい物をもう片方の手で触れて"収納"と意識すればしまう事ができるようだ」
「それってとっても便利だね~」
「便利どころじゃないよ芽衣ちゃん! これがあれば毎日手ぶらで登校できるよ!」
「たしかに~、それは楽でいいわね~」
「あ、ところで和泉さん。かんj……」
などとピントの外れた会話をしてる二人を尻目に、ぶつぶつ呟いていた咲良が何かに思い至ったようで、信也に問いかけようとしたその時。
「おおぉ!? 開いたぞー!!」
という声が部屋に響き渡った。
信也や咲良たち四人以外の面々は各々箱を調べているようで、先ほど上がった胴間声もその中の一人のようだ。
その声の主――龍之介は喜々とした表情で箱を開け始める。
それからそう時を空かずして、他にも箱を開けたものが数名現れたようで、その光景を眺めていた信也は「そういう事か」と小さく呟いたかと思うと、箱の中身を回収して他の者達との中心辺りの位置に移動し始めた。
近くにいた三人も何とはなしにその後をついていく。
やがて移動を終えた信也は、
「皆、聞いてくれ! どうやらこの十二個ある箱は我々十二人にそれぞれ対応した人物にしか開けられないようだ。箱をまだ開封できてない人は未開封の箱をかたっぱしから開けられるか試してみてくれ! 開封できた人は中身を回収してこちらに集まってもらえないか? 全員集合した時点で情報の撚り合わせをしたい」
信也の声を聞き、各々がその意に従って行動しはじめる。
反抗的な態度や非協力的な者も、現状では無意味に逆らう意味を見出さなかったのか、大人しく従っているようだ。
最も、それは集団行動に流されたり事なかれ主義の趣がある日本人らしさが現出しただけなのかもしれない。
やがて全員が箱の中身を回収して一か所に集まると、信也は箱の中身について話し始めた。
「皆きちんと回収はできたようだな。既に知ってる者もいるかもしれないが、俺の方で得られた情報を説明する」
と、一同の持つ"箱の中身"を見渡す信也。
小さな袋と短剣は皆が共通して持っているようだが、信也のように更に別の装備を持っている者も幾人かいるようだ。それらをざっと確認すると再び続きを話し出す。
「どうやら共通して入っていたのはこの小さな袋と短剣だけのようだな。俺の場合は更に西洋風の剣と短い杖が追加で入っていた。見たところ他にも剣や短杖が入っていた人もいるようだな」
具体的に見てみると、
信也が西洋剣と短杖。
メアリー、石田、慶介、陽子、芽衣、咲良が短杖のみ。
龍之介は信也と同じような西洋剣が入っていた。
そしてここからが少々変わり種が入っていたようで、
楓は忍者映画に出てきそうな苦無が二本。
そして由里香の開けた箱には、拳にはめて攻撃力を増すための装備。
所謂ナックルとかメリケンサックとか呼ばれるものが入っていた。
無骨でゴツイ見た目の装備だが、気に入ったのかすでに由里香の両拳にはその物騒な武器が装着されていた。
あまり今どきの女子中学生に馴染みのある武器とは思えないが、軽くシャドーボクシングのようにパンチを繰り出して使い勝手を見ている様子からして、その用途はきっちり理解しているらしい。
それら各自の中身を確認したメアリーは、至極当然な疑問を口にした。
ちなみに北条と長井は小袋と短剣しか入っていなかったようだ。
「あのー、人によって中身が違うようですけど何故なんでしょうね?」
その質問に幾人かは僅かに反応を見せたが、即座に答えを返す者はいなかった。
十秒ほどの沈黙の後に言葉を発したのは、手にしていた蛙の代わりに箱の中身である短剣と小袋を手にした北条であった。
「そりゃー、まあそれは見ての通りだろうなぁ」
となんとも曖昧な口を切り出した北条に一瞬胡乱な視線を向ける者もいたが、続く言葉には十人十色の反応があった。
「最初に指定した二つのスキルによって、箱の中身が決まったんだろうよぉ」
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる