69 / 398
第三章
第61話 アレ? 私、何かやっちゃいました?
しおりを挟む「…………」
先ほど目の前で実演された【炎の矢】のイメージを脳裏でシミュレートする咲良。
シィラは呪文のようなものを唱えていたが、あれ自体は別に絶対に必要というものではない。
ただ、本人のイメージを補佐する、とかもうそれで慣れちゃったから言わないと上手く発動できない、だとかいった人は魔法発動の際に呪文を唱える事がある。
もっとも、魔法名だけで発動したとしても、魔法を使おうと思ってから発動するまでには、魔法を構成し、組み上げるプロセスが存在している為、そのプロセスと合わせるように同時に呪文を唱える人もいる。
しかし咲良はどうにもそういった呪文詠唱が『中二病っぽくて恥ずかしい』といった理由で、初めから呪文詠唱しようとは思っていなかった。
かつては弟相手に呪文を唱えながらの魔法――という名の物理攻撃――を何度も繰り出していた咲良だったが、流石に高校生になってそうした行為に恥ずかしさを覚えるようになったらしい。
しかし、下手に気取って呪文詠唱をしないせいで魔法が不発でもしてしまったら、それはそれで恥ずかしい。
そんな妙な焦りと緊張の中、咲良は魔法を発動した。
「…………。【炎の矢】」
"火魔法"の中でも基本の魔法とされる【炎の矢】。
それは本来は先ほどのシィラのように二十センチ程の炎で出来た矢を生み出し、それで敵を攻撃する魔法だ。
しかし、咲良の魔法発動によって生み出された【炎の矢】は二十センチでは止まらず三十五センチ程の大きさにまで成長すると、ようやく的へと向かって発射された。
別に大きい分、矢の形に形成されるまで時間がかかったという事はない。
同じ速度で形成され、同じ速度で的へと飛んでいく。
そして、的に命中したかと思うと、明らかに先ほどとは規模の違う大きさの炎が少しの間残り続け、全て消えるまでには若干の時間が必要だった。
「…………」
「……お、おお?」
咲良の周囲にいた関係者だけでなく、隣の区画で練習していたらしき魔術士も驚いた様子でその光景を眺めていた。
辺りは奇妙な沈黙に包まれ、的に当たった炎が完全に消えるまで誰も一言も発することはなかった。
(アレ? 私、何かやっちゃったかも?)
そんな事を思いながら、咲良はこの妙な空気を払拭するために適当に思いついたことを喋りはじめる。
「あ、あー、ちょっと力が入り過ぎちゃったかも?」
確かに魔法は魔力の調整で威力や効果などを変化させる事は可能だ。
【炎の矢】の場合でも、例えば一度に発生する本数を増やしたりなどといった応用も出来る。
しかし、先ほどの咲良の使った【炎の矢】は見る人が見れば分かるが、不自然な部分があった。
それは、途中まではシィラの【炎の矢】と同じようなプロセスを辿っていたのに、大きさが二十センチ程になってから急激にポンっと急膨張したことだ。
混乱している本人も具体的な理由には気づいていないが、魔法を使った当人として、その急激に膨らむような感覚は把握していた。
「あー、そ、そうなんですね……」
明らかに納得してないような口調ではあったが、本人がそういうのなら仕方ない。
余程親しい間柄でもなければ、他人の能力についてあれこれ深く追求するのは、冒険者の間では忌避されている。
「次はちょっと"水魔法"の方も試してみようかなー」
気まずさを誤魔化すように咲良はそう口にすると、再び集中を始める。
先ほどの件を踏まえ、威力弱めを意識しながら、既に何度も慶介が使っていてイメージがまとまっている【水弾】を放った。
それは確かに意識した分威力は弱まっていたのかもしれないが、それでも周囲の反応は同じようなものだった。
見た目的には慶介の放つ【水弾】とそう変わりはないと思っている咲良だが、実は慶介も"水魔法"を天恵スキルとして持っているので、他の人より"水魔法"の威力が高い。
そんな慶介の【水弾】と同レベルという事は、つまりは通常より威力が高いということに他ならない。
「おおっ!」
魔法に余り詳しくなさそうなムルーダなどは"神聖魔法"、"火魔法"に続いて三種類目の"水魔法"を使いこなす咲良に単純に称賛の声を上げている。
しかしシィラや、輪から少し離れた場所で見ていた他の魔術士たちは、咲良がなんらかのスキルを持っているか、魔法装備などを身に着けているのだろうと睨んでいた。
その後、何度か魔法を撃って威力の調整も多少はマシになってきた咲良は、席を芽衣へと譲る。
観客席のようになっている龍之介達のいる場所へ戻る途中、芽衣とすれ違う瞬間に、
「"エレメンタルマスター"っていうのは凄いですね~」
と、小さく他の人には聞こえないような声で芽衣がつぶやいた。
思わず振り返りそうになった咲良だったが、ぎりぎり体を制御してそのままみんなの所へと戻っていく。
芽衣の口調は嫌味とかそういうったニュアンスではなく、単純に凄いと思っての発言のようにも思えるし、いまいち魔法効果の強さの原因を理解出来ていない咲良への助言のようでもあった。
ともあれ、咲良もようやく何で魔法があんな風に発動するのかの原因も分かり、自宅に戻ってきた時のような安心感を覚える。
威力が強くなるのはいいのだが、原因が分からない状態というのは地味にストレスにもなりかねない。
「サクラっていったっけ? あんた治癒魔法だけでなく攻撃魔法もすげーんだな! 羨ましいぜ、龍之介のパーティーがよ」
「あ、いえ。私は龍之介と同じパーティーではないですよ。今向こうに行った芽衣ちゃんと、素手で戦っていた由里香ちゃんは同じパーティーですけど」
「……あ? マジか? じゃあ龍之介って一体何なんだ?」
どこか可哀そうな奴を見るような目付きで龍之介を見ているムルーダに、慌てた様子で言い返す龍之介。
「いや! 確かにこの三人とは今は別のパーティーだけど、元々は同じパーティーっつか、ファミリー? みたいなもんなんだよ。オレにはオレで別にちゃんと――」
「ちょっと、ファミリーって何よ? 私達とあんたは赤の他人でしょ? たまたま出身地が近いってだけで」
「なああぁっ、確かにそーかもしんねーけど、遠く離れた所で一緒にいる同郷の者同士なんだから、もっとフレンドリーでもいいだろ?」
「あんたのは『フレンドリー』というよりは、単に『図々しい』だけでしょ」
などと二人が言い合っている間にも、淡々と芽衣は"雷魔法"を試していく。
お得意の【雷の矢】の外にも、触れた相手に電気を流してスタンさせる【ショックスタン】などの魔法も練習していく。
これはシディエルに教えてもらった基本魔法なのだが、既に【ショックスタン】に関してはものにしているようだ。
今は直線状に貫通する電撃を放つ【ライトニングボルト】を発動させようとしているようだが、どうも上手くいっていないようだ。
ちなみに"召喚魔法"の方は使う予定はない。
シディエルから情報が得られなかったため、という事もあるが、使用者の非常に少ない"召喚魔法"を大っぴらに使ったら悪目立つしてしまう。
魔物を呼び寄せるという性質上、迂闊に街中で使用する訳にもいかなかった。
例えそれが制限時間がくれば自動で消えるのだとしてもだ。
そういった訳で、"召喚魔法"については、街の外やダンジョンの中などで練習していこうという事になっていた。
「ふぅ。少しつかれました~」
「お疲れー、芽衣ちゃん。はいこれ」
ビリビリと"雷魔法"を使いまくっていた芽衣がもどってきた。
疲れたといいつつも、余り見た目には疲労を感じられない芽衣。
「あとすこしで何か掴めそうなんだけどな~」
そう言いながら、由里香の差し出してきた水筒を受け取ろうとする芽衣。
その瞬間、バチっとした音が響いた。
「うわっつっ!」
へんてこな声を上げた由里香は思わず手にしていた水筒を落としかけてしまったが、そこは見事な反射神経で地面に激突する前に再救出する事に成功していた。
「あ~、由里香ちゃんごめんね~。まだ少しぱちぱちしてたみたい」
どうやら"雷魔法"の後遺症のようなものらしい。
謝りながらも今度は確実に水筒を受け取った。
「んーん、いーよいーよ。というか、芽衣ちゃんが頑張ってるの見てたら、私もまた体動かしたくなってきた! シクルム、もっかいやらない?」
「え、あ、いや。俺はちょっと今日は調子悪いみたいだから、次はムルーダが相手してくれるってよ」
龍之介と何やら話をしていたムルーダは、自分の名が聞こえてきたので話を一旦やめ、シクルムの方へと向き直る。
そんなムルーダに、押し売りのセールスマンの如く売り込みを掛け、由里香との対戦を実現させるシクルム。
――結局、その後シクルムも再戦させられたり、再び魔法組が魔法の練習をしたりと、充実した午前のひと時を過ごしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~
スィグトーネ
ファンタジー
年収が低く、非正規として働いているため、決してモテない男。
それが、この物語の主人公である【東龍之介】だ。
そんな30歳の弱者男は、飲み会の帰りに偶然立ち寄った神社で、異世界へと移動することになってしまう。
異世界へ行った男が、まず出逢ったのは、美しい紫髪のエルフ少女だった。
彼女はエルフの中でも珍しい、2柱以上の精霊から加護を受けるハイエルフだ。
どうして、それほどの人物が単独で旅をしているのか。彼女の口から秘密が明かされることで、2人のワークライフがはじまろうとしている。
※この物語で使用しているイラストは、AIイラストさんのものを使用しています。
※なかには過激なシーンもありますので、外出先等でご覧になる場合は、くれぐれもご注意ください。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる