70 / 398
第三章
第62話 全員合流
しおりを挟む「じゃあな、リューノスケ! また機会があったら模擬戦やろーぜ」
「おう、そっちも元気でなっ!」
中々いい訓練になっていた訓練場組の面々は、正午を告げる鐘の音を合図に訓練を切り上げ、ムルーダ達と別れを告げていた。
彼らもヒーラー付きの上、模擬戦相手にも丁度いい相手がいたので、充実した時間になっていたようだ。
遠距離職であるディランは一人黙々と矢を撃っていたりもしたが、寡黙な槍士ロゥも模擬戦に加わった事で、間合いの遠い槍使いの対戦経験を積めたのは、龍之介と由里香にとってプラスとなった事だろう。
五人は龍之介らと同じく、今日の訓練はこれで切り上げるようで、各自定宿へと帰ったり、街をぶらぶらして午後を過ごすらしい。
何時までも名残惜し気な龍之介を引っ張るように、咲良達は待ち合わせの場所であるギルドの軽食スペースへと足を運んだ。
そこは十以上のテーブルが並ぶ、結構大きな区画となっていて、今は昼時のせいか食事を取っている人たちの姿がチラホラ窺える。
あまり混雑していないのは、時間帯のせいだろう。
元々純粋な食事処ではないので、昼食時だからといって混雑するというものでもない。
ここが混雑するのは、張り出された依頼を確認しに大勢の冒険者が集まる朝方と、一日の依頼を終えて報告に戻って来る夕方の二つが人込みのピークだ。
激しい運動をした前衛組の由里香と龍之介は、それぞれ三人前くらいはありそうな量の食事を注文し、芽衣と咲良もそれぞれ適当に注文を出すと、引き換え用の木札をもらいギルド入口が見やすい位置に席を取る。
後々合流する人の事も考えて、一応周辺に空席の目立つ場所だ。
さほど混雑していないせいか、注文した料理は余り待たされる事なく運ばれてきて、会話を挟みながら食事をしていく四人。
そんな彼らに最初に合流したのは、同じギルド内の資料室に籠っていた連中ではなく、外で個別行動を取っていた北条だ。
どうもどっかの店で買い込んだらしい黒いマントを新しく身に着けていた。
「お、なんか美味そうなものをたべてるなぁ。俺もちょっくら注文してくるかぁ」
と、すぐに注文に向かう北条。
「オッサンの方が早かったな。資料室の連中、まさか本の読みすぎで眠くなって寝てるんじゃねーだろうな」
「まさか、あんたじゃあるまいしそんな事はないでしょ……」
二人がそんな会話をしていると、すぐに注文を取り終えた北条が戻ってきた。
それから注文した料理が届くまで、北条は訓練場組の話を聞いていたが、十分もしない内に資料室組の面々も続々と集まってくる。
そこで、少し離れた間隔で設置されていたテーブルを寄せ、一か所にまとまった異邦人達は、それから会話と食事を楽しんだ。
まだ全員が集まっていないため、資料室で調べた全員で共有するべき情報をまだ積極的に話していなかったメアリーは、主に聞き手に回って龍之介達の話を聞いていた。
他の資料室の面々は、すでに食事も終えてしまって手持ち無沙汰を感じ……ているかは分からないが、ただジッと黙って周囲の話に耳を傾けている。
更に時間は過ぎ、すでに全員が食事を終えており、残すは外出組の三人を残すのみだ。
しかし、その三人が中々姿を見せない。
メアリーなどは露骨に心配そうな顔を浮かばせている。
話す事がない、というよりは三人が姿を現さない事が原因で会話自体も少なくなってきた頃、北条が重い口を開いた。
「……あいつら遅ぇな。ちょっとそこら探して来るかぁ?」
「それなら私も一緒に行きます」
「あ、私も!」
流石になんらかの行動を起こす頃合いだろうと声を掛けた北条に対し、メアリーと咲良が同行を申し出る。
「む……そうだなぁ。じゃあ一緒に探しにいくぞぉ」
一瞬戸惑いを見せた北条だったが、すぐに二人の意見を承諾すると、近くに立てかけていたゴブリン槍を背に帯びギルド入口へと向かう。
メアリーと咲良もその後に続き、ギルドを後にする。
と、ギルドを出てすぐの場所で北条が足を止めていた。
思わずぶつかりそうになった咲良は何事かと視線を前へと向けてみると、そこには彼らが捜そうとしていた三人、信也、陽子、慶介の姿があった。
――それも尋常ではない様子で。
「あ、よ、よかった……」
北条達の姿を確認した陽子は、眼の端に涙を浮かべながらそう呟く。
隣にいる慶介も心なしか青い顔をしており、北条達を確認した事でようやくその顔に少し赤みが戻ってきたようだ。
だが、そんな二人よりも問題なのは信也だ。
別行動する前とはまるっきり異なるその様相。
服は全体的にボロボロで薄汚れており、何よりあちこちにまだ完全に乾ききっていない血が付着していた。
信也自身も酷い有様で、その顔は慶介などと比べ用もないほど顔色が悪い。
かろうじて陽子の肩を借りてここまで歩いてきたようだが、その足取りはフラフラで心もとない。
今もこうして北条達と合流出来たというのに、声もなく意識がしっかりしているのかも怪しい。
「和泉さんっ! すぐに治療しますね」
そんな信也の姿をむざむざと見せつけられたメアリーは、信也の元へと駆け寄ると性急に"回復魔法"による治癒を始めた。
その様子を黙って見つめる陽子達。
この素晴らしい治癒効果をもたらす"回復魔法"は、劇的な効果を持って半死半生の状態だった信也に、命の灯をともしていく。
「あ、りが、とう……」
メアリーの治癒魔法によって、ようやく意識もはっきりしてきた信也はかすれるような声で礼を告げる。
「無理に話さなくても大丈夫ですよ。他に痛い所があった場合だけ教えてください」
まるで聖母のように献身的に介護するメアリーの姿は、さすが看護士をしていただけあって堂に入ったものだった。
だが、看護士だからとて誰しもがこのように対応できる訳ではない。
これはメアリーの気質によるものが大きいだろう。
「これを……上から着ておけぃ」
一先ずの治癒が終わった信也に、北条が纏っていたマントを信也へと手渡す。
別行動の前には纏っていなかったので、単独行動中にどこぞで仕入れたものなのだろう。
信也はそのボロボロの服装を隠すように、北条から受け取った黒いマントを纏った。
それを見届けた北条は、
「よぉし。じゃあまずはみんなと合流だぁ。もうすぐそこだからなぁ」
そう言ってさっき出たばかりのギルドの入り口へと再び入っていく北条。
残りの人も北条の後へと続いた。
▽△▽
北条達が龍之介達の元へと戻ってくると、そこには待ち合わせの最後の一人ジョーディが座席に腰かけて龍之介と話していた。
しかし北条がすぐに帰ってきた事に気付いた龍之介は、その隣に探していた三人組を見つけると、一息ついた。
だが、三人へと向けた視線の中で、一瞬素通りしそうになってしまった信也の様子がおかしいことに気付くと、訝し気な視線へと変わる。
他の待機組もその事に気付いたようで、どうやらただ単に遅れたのではなく、何か理由があったんだろうと察した。
「先に三人の注文を取ってくるぅ」
そう口にした北条はスタスタとカウンターへと向かい始める。
残りの五人は他のメンバーの待つテーブルへと移動し、席についた。
しかし誰も口を開くことはなかった。
ほどなくして北条が注文から戻ったのをきっかけに、ようやく沈黙を打ち破ってメアリーが質問を口にした。
「それで……一体何があったんでしょうか?」
メアリーの質問にあの時の恐怖が蘇ってきたのか、陽子は体を震わせ顔色も悪くなってくる。
その陽子の反応だけである程度何があったのかは想像できた。
普段であれば無理に聞き出す事はなかったかもしれないが、今彼らは運命共同体のような関係性になっている。
仲間に何かあったならよっぽど個人的な事でデリケートな話題でもない限り、何があったのか報告するべきだろう。
「わ、私が悪かったんです……。あ、あの時私達は鐘の音を聞いて帰路を急いでいたんだけど……」
こうして陽子は三人組の男達にからまれた時の事を話し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる