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第六章
第111話 『リノイの果てなき地平』
しおりを挟む「ああ、見ての通りだ。まったく、ああいった輩がいると冒険者の肩身が狭くなって困るわい」
辟易とした様子で、仲間と思われるハーフエルフの女性と言葉を交わすドワーフ。
そこに、絡まれていた当の本人たちである咲良と陽子が、ドワーフの男に対して礼の言葉をかける。
「あ、あの。危ない所を助けていただいて、ありがとうございました!」
「私も助かったわ。まさかあんな強引な奴だとは思わなくて、困っていたのよ」
「いやいや、なあに。礼には及ばんよ。……そもそもワシらと一緒に来た冒険者の一人が迷惑を掛けたのだ。こちらこそ済まんのぉ」
申し訳なさそうに語るドワーフに、思わず日本でよくみるお礼と謝罪の言い合い合戦になりそうな気配が漂い始める。
そこに割って入ったのが、先ほどのハーフエルフの女性だった。
「ガルドがそこまで気にする必要もないわよ。あの連中には旅の道中で散々嫌な思いをさせられたから、今回あのムカツク奴らの一人に鉄槌をくらわす事が出来てせいせいしたわ!」
「……一応あんな連中であっても、同じ依頼を受けてここまで来ておる。余り進んで揉め事は起こすでないぞ」
「へいへい。ま、あのぼっちゃん連中は基本、私達に歯向かったりはしないでしょうね。"問題"はあともうひとつの……」
と、二人で話が進む中、信也が割り込むように話を切り出した。
「あの、仲間の危ない所を助けていただき、ありがとうございます」
信也へと視線を向けた二人は、信也がただ単に礼を言うためだけに声を掛けたのではないという事を、その表情から悟った。そして、続きの言葉を待つことにした二人に、信也は更に言葉を紡ぐ。
「それで、あの……。実は俺達はダンジョンを発見した冒険者で、先ほどもギルド出張所でダンジョンについての話をしてきた所なんです」
信也のその言葉に納得がいった様子の二人。
「それで、その場にはシグルドという人とヘンリックという人がいたんですが……」
「おお、シグルドはワシら『リノイの果てなき地平』のリーダーだな。もう一人は先ほどお主らに絡んでおった男が所属する、『青き血の集い』のリーダーだ」
「あら、シグルドとはすでに会ってるのね」
信也の言葉に二人はそれぞれの言葉を返す。
なお、この場にはもう一人ドワーフとハーフエルフ女の仲間らしき女性がいるが、この場に着いてからは一言も言葉を発していない。
「はい。それで、その……話し合いの場でヘンリックという人には睨まれてしまいまして、更に先程の男の件もあるので、少し話を伺いたいんですが……」
信也の申し入れに対して、二人が検討する様子を見せる間もなく、今まで沈黙を守っていた女がその重い口を開いた。
「ガルド、頼み聞いて」
酷く無感情で、感情の揺らぎを感じられない声を発する女。
その女の発言に対し、何故か仲間であろうドワーフとハーフエルフの女が、驚いたような反応を見せている。
「む……。お主がそうまで言うのはただ事ではなさそうだな。まあ、元々断るつもりもなかったし、話をするくらいなら構わんぞ」
ドワーフ男からの色よい返事を受けた信也。
だがその前に、まず地面で失神している龍之介に対し、咲良が"神聖魔法"の【キュア】を掛けて治療を施す。
由里香は少し遠くに飛ばされただけで、ほとんどダメージは受けてはおらず、既にこちらへと合流していた。
【キュア】を受けた龍之介は、ダメージは回復したが未だに目を覚まさず、うーんうーんと唸っている。
そんな状態の龍之介をそのまま置いておく訳にもいかず、信也が龍之介を背負う形となり、まずはドワーフ男の残りの仲間の元へ、一緒に向かう事になるのだった。
▽△▽
移動の道すがら、信也達とドワーフ男達は互いに軽く自己紹介をしていく。
信也達の方が人数が多い上、彼らには耳慣れない名前であったせいか、一発で覚えられなかったのは仕方ない事だろう。
逆に、信也達からすれば相手の名前は覚えやすく、初めに助けてくれたドワーフの男がガルドという名前で、ハーフエルフの女性の名前がディズィー。
そして、どうやら普段は極端に口数が少ないらしい、最後の女性の名がラミエスというらしい。
そのラミエスはというと、妙に彼ら異邦人達に興味深そうに視線を送ってきており、その能面のような表情に視線を向けられた側は、どうにも視線が気になって仕方ない。
そんな調子で彼らは村を歩いていき、東門から村の外へとでる。
近くには畑が広がっているが、そのずっと先にはダンジョンへと通じる森が広がり、その森と平地との狭間には現在基礎工事中である、異邦人達の拠点予定地が視認出来る。
その拠点予定地のある森との境目と、村の東門との間の中間地点。
そこには幾つか簡易的なテントが建てられており、どうやらガルド達はそちらの方へと向かっているようだった。
「へぇ。村だけではとても収容できない人数だと思っていたんだけど、こんな所に宿泊地を作っていたのね」
先日彼らがダンジョンから帰還した際にも通った場所だが、その時にはまだこのようなテントの群れは建てられていなかった。
「そうね。なんでも、村の中だと敷地に余裕が余りないし、村の周りも畑が取り巻いているから、どうやらあの辺りに色々な施設を建てていく計画らしいわよ?」
「ほおう。そうなると、俺らの拠点予定地も"村はずれ"ではなくなりそうだなぁ。ふうむ、もう少し予定地を広めに取っておくかぁ……?」
ディズィーの言葉を受け北条が言葉を繋ぐ。
「"拠点予定地"って……、まさかあの森の境目にあるアレの事?」
北条の言葉に、思わずといった様子で質問してくるディズィー。
「ああ、そうだぁ。既に村長からも許可をもらっているんでなぁ。まだまだ作り始めたばかりだがなぁ」
「へぇ……そうなんだ。てっきり、魔物暴動に備えて砦でも作り始めてるのかと思ったわ」
確かに基礎工事段階の今の状態だけだと、そのように見えても不思議ではない。
というか、個人レベルであのような規模な工事を行うというのは、魔法やスキルが存在するこの世界でも一般的ではなかった。
「見えてきたぞ」
ガルドの短い言葉に釣られ、目を前方に向けてみると、そこには数人が中に入れそうなテントが二つ設営されていた。
近くでは簡易的な竈門も作られていて、特に会話する事もなく落ち着いた様子の二人の人物がその傍にたむろっている。
一人は人間の女性で身軽な服装をしており、少しキツイ目付きをしている。
残るもう一人の方は、獣人――それも獣耳としっぽが付いているだけの獣人ではなく、顔が完全に豹のようなネコ科の顔をしており、体全体にも毛が生えていて、二足歩行の獣といった見た目をしていた。
「やあ、ガルド。おかえり! 村の様子はどうだい? それとその隣にいる彼らは誰なんだい?」
信也達が、ガルドに引きつられて彼らのテントに到着すると、書物を読んでいた獣人が矢継ぎ早に質問をしてくる。
ほぼ獣といった様相のその獣人が話す言葉は、声帯の作りが違うのか、明瞭には聞こえてこないが、十分言っている事は理解できる。
ただ、異邦人である信也達からすると、獣が言葉を普通に話しているように見えるその様子に、少し違和感のようなものを覚えていた。
「村の様子は……まあ奴らが問題をひとつ起こしていたが、抑えることはできた。だが、あの調子だと村人から悪感情を抱かれるのは時間の問題だ」
と、大きなため息とともに報告するガルド。
続いて次の質問である信也達の事について答えていく。
「で、奴らに絡まれていたのがこの者達だ。例のダンジョンを発見した冒険者という話だな。なんでも、話があるというのでここまで案内したという訳だ」
ガルドの言葉を受け、軽く頭を下げる信也。
「へぇ! それはいいね! 自分の名はケイドルヴァというんだ。そっちでつまらなそうにしてるのがケイトリン。ガルド達は既に自己紹介は終わっているのかい?」
やたらと気さくな様子のケイドルヴァに、既に自己紹介は道すがら済ましている事を告げるガルド。
続いて、リーダーであるシグルド以外全員が揃った事で、もう少し詳しい自己紹介をしていく信也達。
その途中、失神していた龍之介も目が覚めたので、現況を軽く説明しつつ紹介も済ませる。
そして、最初に話がしたいと言い出した信也が、その話の内容についてを語りだした。
「それで、話なんですが……。今回この村に来た冒険者達について、詳しく教えてもらえませんか?」
信也の口から発せられたのは、はたしてそのような言葉であった。
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