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第六章
第112話 『青き血の集い』
しおりを挟む「俺達も新人ながら、冒険者として今後もダンジョンに潜っていこうと思っています。しかし、現時点ですでに調査にきた冒険者とぶつかってしまっている……。まさか直接的にダンジョン内で襲撃を仕掛けてくる事などはない、と思っていたのですが、先ほどの男を見た限り、それも不安になっています」
しかも、あの男一人にこちらの前衛二人が為す術もなく敗れている。
あれが無法地帯のダンジョン内であったならば、一体どうなっていた事か……。
そんな事を考え、またもや"ストレス耐性"のスキルに磨きをかけていく信也。
「なので、予め情報だけでも手にしておきたいと思いお願いした、という訳です」
「なるほどのお」
信也の言葉に納得した様子のガルド。
そして、ドワーフにしては短い髭をさすりながら、信也の質問に応えるべく口を開き始めた。
「言いたい事は分かった。だが、ワシらもそこまで詳しくはないのだ。同じ《鉱山都市グリーク》を拠点にしているといっても、冒険者は幾人もおるでの」
ガルドの言葉に落胆の様子を見せる信也。
だが、話はまだ終わってはいなかった。
「だが、それでも今回一緒に来た連中はそこそこ有名での。噂話レベルの情報と、実際にここまで一緒に旅した中で、わかった事も多い」
「ほんと、噂通りの奴らだったわね」
吐き捨てるようなディズィーの言葉に、反論するものはいなかった。
「まず、お前さん達が揉めていた『青き血の集い』だが、基本的に貴族の子弟から構成されておる」
「え、貴族っ?」
咲良が思わず声を張り上げる。
他のメンバーも声を上げまではしないものの、驚きや納得がいかないといった表情の者が多い。
「そうだ。といっても、下級貴族の三男だとかそういった奴らの寄せ集めだ。しかも継嗣でもないので、身分的には一般民と変わりない」
この『ロディニア王国』では爵位の任命権は王が持っているが、子爵以上の爵位を持つ貴族は準男爵と騎士爵の任命権を、男爵でも騎士爵の任命権を持っている。
これら準男爵と騎士爵は世襲もできず、国として正式な貴族とは認められていないので、あくまで名誉爵位的なものだ。
要するにただの部下、配下、私兵といったものと大差ない。
そして、爵位を継承できるのは継嗣だけであり、通常であれば次男以降は成人すると一般民へとなり下がる。
中には爵位を複数持つ貴族もおり、子供らにそうした爵位を割譲するケースもあるがそれは稀なケースだ。
また前述の準男爵や騎士爵といったものを、継嗣以外の子へ任命する事もあるが、貴族とはいえ男爵程度の家では領地や資産に余裕がなく、大抵の場合は継嗣以外の子は世間の荒波へと放り出される。
「つまり、そういったあぶれ者の集団という訳ね」
辛辣な陽子の言葉であるが、実際に被害を被りそうになった身としてはそれも仕方ないだろう。
「ああ。初めの頃はそれはもう貴族気分が抜けないのか、よく先達の冒険者達に教育を受けておったらしいぞ。今ではそういった気質はなりを潜めたが、今度は低ランク冒険者に対する当たりがキツくなったというのがもっぱらの評判でな。ワシらはランクも上になるので、そういった絡みは道中では受けなかったのだが……」
「ん、そういえばオジサンって何ランクなの?」
「ん、ワシか? ワシをはじめ、パーティーメンバーは皆Cランクじゃよ」
ドワーフ故に年齢が分かりにくいが、由里香のオジサン発言は気にならなかったようで、素直に質問に答えるガルド。
「おおぉ、Cランクかあ。あのマッチョおやじの一つしたになるのか! ってことは、あのいけすかねえ野郎はCランク以下、っつーことか……」
「今回同行した他の二つのパーティーは、どちらもDランクパーティーだ。パーティーランクはあくまで総合的な能力で判断されるので、個人のCランクが混じる事もありえるんだが、今回に限っては全員Dランクかそれ以下のようだな」
「……マジかぁ」
勢い込んで前に出たのはいいものの、あっさりとノックアウトされてしまった龍之介。その相手がDランクだったという事に、ショックを受けている様子だ。
以前に比べ、大分強くなってきたのを実感していただけに、未だにDランクにも届いていない事を知って、大分打ちのめされたようだ。
「そう落ち込むこともあるまい。新人の間は成長も早い。それに、あいつらに関しては、戦闘能力的にはCランク級の者もおる。素行が悪くて昇格できないDランクというのは案外多いのだ」
冒険者ギルドは、杓子定規に依頼をこなしたらランクが上がっていく、という訳ではない。
独自の昇格規定が設けられていて、特にDランクとCランクの壁が大きいと言われている。
それは、単純に強さだけで駆け上がれるDランクまでとは違い、Cランクに上がるには日ごろの言動なども査定に入ってくるためだ。
強さだけで昇格させていたら、冒険者ギルドは無法者の集団になりかねない。
それに、高ランクの冒険者が一般人に非道な事をすれば、止めるのにも苦労するし、ギルドの評判だってだだ下がりだ。
「Cランクの壁」というのは、そういった事を防ぐためのシステムになっている。
ガルドの言葉に慰められたような、そうでないような。微妙な様子の龍之介を置いて、ガルドは話の続きへと戻る。
「それで、だな。やつら『青き血の集い』も、実は全員が全員ああいった奴ばかりだという訳ではないのだ。ワシが見たところ、ジョルジュという弓使いの男と、ロアナという盗賊職の女はまともな感性をしておる」
ただ、両者ともにメンバーの言動については強く言える立場でもなく、やんわりと注意するのが限界らしい。
更にあと一人、カロリーナという女神官もいるようだが、この女神官だけは別で戦いにしか興味がないらしく、メンバーのいざこざには一切関知しないらしい。
「という事は……問題がありそうなのは後一人ってことですね?」
問題がなさそうな三人と、リーダーのヘンリック。
それからスヴェンというらしい、先ほど陽子達に絡んでいた男。
合わせて五人、という事は残る一人も問題があるという事になる。
「ああ、そうだ。ハルトマンという魔法使いでな。魔術の名門『キーンツ伯爵家』の生まれらしく、やたらと尊大で自己評価の高い男だ」
ハルトマンの説明を聞いた咲良が、ふと隣にいる龍之介の事を見遣る。
そして「はぁ」と軽くため息をつくが、龍之介はその事には気づいていないようだった。
「『キーンツ伯爵家』自体はそれなりに有名でな。幾人も宮廷魔術師を排出してきた名門の家系だ。だが、なんでそのような生まれの男が冒険者稼業をしてるのかまでは分からん」
一通り『青き血の集い』のメンバーについての情報を聞き終えた信也達。
ガルドによると、スヴェンという男だけは下半身で物を考えるので、危険な部分はあるのだが、それ以外は余り刺激しなければ恐らく大丈夫だろう、という話だった。
この場合の"大丈夫"とは、少なくとも現在の状況では、ダンジョンアタック中に、襲撃を掛けてくることはない、という意味でだ。
リーダーのヘンリックはランクに固執しており、Cランクへの昇格に異様にこだわっているらしい。
そのため、あからさまに犯人が絞られる状況で、他の冒険者をダンジョン内で襲うといった危険は冒さないだろう、というのがその根拠だ。
もしその行為が明らかになった場合は、冒険者登録の取り消しになるだけでなく、他にも懲罰が加わる可能性が高い。
「なので、警戒を怠ってはいかぬが、必要以上に気を遣う必要はない。問題はあともう一つのパーティー、『流血の戦斧』の方だな……」
そう語るガルドの表情はとても辛そうだ。
その表情を見ると信也も続きを促す気になれず、湿っぽい空気が漂い始める。
だが、何かを振り切るように顔を左右に振ったガルドは、『流血の戦斧』について語り始めるのだった。
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