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第六章
第113話 『流血の戦斧』
しおりを挟む「まず初めに言っておくが、あの連中には関わらんほうが身のためだ」
いきなり横っ面を殴られたかのような発言に、信也達も緊張の為か息を呑む。
「そ、そんなにヤバイ奴なんですか?」
咲良が恐々と質問する。
「ああ。『青き血の集い』の連中は、少なくとも人の目があるような場所で、積極的に法を破るような事はせん。だが、『流血の戦斧』の場合は、油断してはならん」
「なっ……。そんな無法者みたいな連中をギルドは放置してるのか?」
思わず信也がそう尋ねる。
「一応奴らも悪知恵は働くようでな……。ギルドでも、現段階では無理やり手を出すまでには至っておらん。まあ、大分目を付けられておるから、何かしでかしたら即動き出すとは思うがの」
話を聞くにつれ、とんでもない奴らが来てしまった、という思いが強まっていく信也達。
だが、ガルドの話はまだまだ続くようだ。
「奴らは元々は帝国で"問題"を起こして流れて来たようでな。その時はメンバーの一人が実際に捕まって処刑されたらしい」
「帝国ってーと、『パノティア帝国』か。チッ、わざわざこんな所まで来やがって」
まだ見ぬ相手でありながら、既に印象が最悪の相手に対し、龍之介が思わず悪態をつく。
「ただ、『青き血の集い』と同じく、全員が全員問題がある訳ではない。問題があるのは六人中、四人だな」
聞くところ大分アウトローな奴らといった印象だが、意外にも問題がない者もいるらしい。
どういうことだ? と信也は思わず仲間と顔を見合わせる。
その答えは続きのガルドの言葉で明らかになった。
「問題がある四人は固定のメンバーなのだが、残りの二人は奴隷を使っておるのだ。獣人の奴隷と……ワシの同胞であるドワーフの奴隷を、な」
辛そうな表情で絞り出すように言葉を吐き出すガルド。
『パノティア帝国』は人族至上主義を掲げる国として知られており、その他の亜人種族は全て被支配階級となっている。
彼らは奴隷とはまた違う身分になるのだが、かなり厳しい生活を強いられていた。
そして、戦争や奴隷狩りによって奴隷とされた亜人も数多く存在しており、『流血の戦斧』でもそういった亜人奴隷が肉の盾としてこき使われているらしい。
その扱いは酷いもので、とても見ていられるようなものではなかった。
奴隷の扱いについては、国によってその内容が異なっており、帝国では亜人奴隷に対しての規定がなく、完全に"物"として扱われている。
しかしここ『ロディニア王国』では、亜人の奴隷だろうが人族と同様の扱いをする事、と定められていた。
「だがな、ワシの同胞のドワーフは戦争奴隷であるし、もう一人の奴隷狩りでさらわれた獣人の方も、犯罪奴隷の身分になっている。もっとも、本当に犯罪を犯したのか怪しい所だがの……。そして、戦争奴隷と犯罪奴隷については、この国でも所有者が好きにしていいことになっとる」
苦渋に満ちた声のガルド。
見ると、ディズィーや陽気そうな人柄のケイドルヴァまでもが憂鬱そうな顔をしていた。
ハーフエルフと獣人の二人は、不当に亜人種が迫害されているのが許せないのだろう。
そこに、今まで口を挟むことがなかったケイトリンがはすっぱな口を開く。
「奴らが帝国で起こしたっつう"問題"って奴もキナ臭ぇんだよ。なんせ、実際に取っ捕まって処刑されたのは、直前まで奴らの亜人奴隷だった奴だからね。それが、突如奴隷から解放されたかと思えば、罪をなすりつけられて処刑って、どうみてもオカシイだろ」
人族至上主義の『パノティア帝国』といえど、亜人奴隷が罪を犯した場合、その奴隷だけでなく所有者に対しても責任が問われる事が普通だ。
でないと、なんでも亜人奴隷に罪をなすりつけられる事になってしまう。
だが、罪を犯した奴隷の身分が開放されて、下等市民になっていた場合は、全て元奴隷へと罪が収斂されるので、元の所有者にまで責任は追及されない。
勿論こんな法の抜け穴みたいな事が、そこら中でまかり通っている訳ではないのだが、腐敗というのはどんな所にも潜んでいるものだ。
少し鼻薬を嗅がせるだけで、このような抜け道を容認してしまう役人など、枚挙に暇がないほど存在している。
「……『流血の戦斧』がマズイ連中だというのは理解したぁ。後は、具体的にメンバーの情報をもらえんかぁ?」
これまで黙って話を聞いていた北条がそう口にすると、再びガルドが相手の情報についての話を再開する。
「うむ……。まず、リーダーはヴァッサゴという男で、斧や素手で戦う前衛だ。血を見るのが三度の飯より好きという男で、『血狂のヴァッサゴ』などとも呼ばれておる。だが道中ではそこまでの男とは思わなかったな。寧ろドヴァルグの方が印象的には近いように見えた」
こうして、ガルドによる『流血の戦斧』のメンバーの紹介が続いていく。
パーティー名の通り斧を扱う者が多いようで、ドヴァルグという男も斧を扱う戦士らしい。
それと、奴隷であるドランガランというドワーフの前衛も、斧と盾を扱うとの事。
他には、盗賊職で見た目が「小悪党」という言葉がぴったり合うコルトという男。
それからデイビスという顔色の悪い魔術士の男がいて、最後に獣人の犯罪奴隷であるジェイという戦士。
この六人が現在のメンバーのようだが、ドワーフ奴隷のドランガランは固定メンバーの四人より実力が一回り下で、獣人奴隷のジェイに至っては一人抜けた穴埋めのために入った一番の新入りで、実力は大分他に遅れを取っている。
しかし、固定メンバー四人の実力は既にCランククラスであり、全員が職業を二つ持つ――つまりレベル51以上だという。
一人一人が信也達の倍以上のレベルを持っていると知り、異邦人達も不安な様子が隠せない。
「っふううぅ。これは参ったわね」
一通り『流血の戦斧』の話を聞いた陽子は、つい弱気な発言をしてしまう。
余り慶介の前で、弱気な所を見せたくないと思っている陽子であったが、話を聞くにつれ、つい堪えきれないため息も漏れ出てしまっていた。
「なるべく、そいつらとは接触を避けたい所ですね」
思案顔の咲良がそう口にする。
「それもそうだが……。何故ギルド側はこのようなメンバーを調査隊として派遣したんだ? 『青き血の集い』はまだマシなのかもしれないが、『流血の戦斧』は話を聞く限り問題外だろう」
信也の言う事はもっともだ。
どのような意図を持ってメンバーの人選が行われたのか、信也は過去に遡ってでもその人選に「待った!」と文句を言いたかった。
「基準は一応あるみたいだよ。こう見えてケイドルヴァ達はCランクの冒険者パーティーなんだ。今回の調査隊は最低Dランク以上のパーティーであること。且つ、『ダンジョン探索の経験』がある冒険者から選ばれたみたいだね」
「うむ。ワシらは元々ここ《グリーク領》から北西にある、《迷宮都市リノイ》という所で冒険者として活動していた。名前の通り、近くに《クッタルヴァ遺跡群》というダンジョンがあって、そこによく潜っていたのだ」
《クッタルヴァ遺跡群》は、《迷宮都市リノイ》の周囲に広がる《ラーヴェナルト平原》の一部に広がっているダンジョンだ。空から見たダンジョンの広さと、実際に入ってみた内部の広さが異なる、れっきとしたフィールド型のダンジョンである。
「そうそう。だから他の二つのパーティーも、どこかのダンジョンに潜った経験があるんじゃないかな? まあ、それでもあの人選はないと思うケドね」
ケイドルヴァも、獣人故に信也達からは判別しにくいが、『流血の戦斧』に対して思う所があるのか苦々しい表情をしていた。
「下手に接触せずに、さっさとダンジョン探索に行ってくれたのは、まだ良かったのかもしれないな」
「でも、ダンジョンの中で出会う可能性もあるよねー?」
由里香のぐうの音も出ない指摘に、信也も自分が軽く現実逃避している事に気付く。
とりあえずガルドからは一通りの情報も得られた事だし、今日の夜にでも今後の方針について、また話し合わなくてはいけないな、と信也はため息をつくのだった。
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