どこかで見たような異世界物語

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第十二章

第291話 『勇者』シルヴァーノ

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 ギイィッと、大きな音を立てて両開きの扉が開かれる。
 技術的に戸を開ける音を小さくできないという理由もあったが、場所的な理由によって、敢えて戸の開閉音は目立つようにされているのかもしれない。

 冒険者ギルドの正面扉を開けて中へと入っていった信也達は、中にいた冒険者らの注目の視線を浴びる。
 最近何かと活躍をしていて噂が広まっている、『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』の面々は、この町で活動している冒険者たちの注目を浴びていた。

 しかし今日は何故かチラッと軽く目線を移された後、すぐに注目が外れる。
 代わりに注目を浴びていたのは、丁度ギルドから出ようとしている所らしい、一人の男だった。

 信也ら日本人からすると、西洋風の顔立ちの人の年齢というのは分かりにくいものだが、恐らくは二十代から三十代といった所だろうか。
 ダークブロンドの短くそろえた髪をしていて、海外のイケメン俳優のような顔立ちをしている。
 ちょっとした所作から自信にあふれた印象をしており、それは表情にも表れている。
 男は自分と入れ違いにギルドに入ってきた信也達に自然と目を向けた。
 
「……ほう、そこのキミ、なかなかいいね。どうだい? これから私と一緒に食事でも……」

「えっ、あの……」

 男が声を掛けたのは一番最初に目についた咲良だった。
 突然声を掛けられた事で戸惑った様子の咲良。無意識に隣にいた北条の方に顔を向ける。

「生憎と俺達はこれからギルドに用があるんでなぁ」

 頼るように顔を向けられた北条は、そう言ってやんわりと事態を流そうとする。
 しかし男はそれが気に入らなかったのか、

「おい。私は今彼女と話をしているのだ。部外者が口を出さないでくれたまえ」

「彼女は俺の仲間でなぁ。この場合部外者というのは、お前さんの方を指すのだと思うのだがぁ?」

「何!? 貴様が?」

 そう言って男は北条をジロジロと不躾に眺めまわす。

「話にならん。お前は彼女にはふさわしくない。彼女には私のような実力者こそふわさしい」

「ふぅ、どうやら話が通じない系らしいなぁ。なんなら彼女に直接聞いてみたらどうだぁ?」

「あ、あの私。これから北条さん達と一緒にギルドに用事があるので……」

「なあに、そのような用事いつでもいいだろう? それよりも私と一緒に来た方が……」

「シルヴァーノ、もういいだろう。そのような女に構ってないで宿に戻るぞ」

「チッ……仕方ない。君へのお誘いはまた今度する事にしよう」

 そう言って、男はもう一人の連れの男と共にギルドを出ていく。
 



「何だったんだ、アイツは?」

「ハーーン。咲良ってモテるんだな」

「はぁ、あんなのにモテたくはないわよ……」

 ギルドに入って早々の出来事に、のっけから気分がダウンする咲良。
 北条もどこか表情が硬かったが、そのまま一行はギルド内へと進み、今回の目的――Dランク昇格試験を受ける事になった。

 これは既にDランクになっている北条、ロベルト、カタリナ以外の九人が資格ありとみなされて、近々試験を受けに来るようにとナイルズから言われていた事だった。
 先ほどの出来事でもわかるように、北条も一応付き添いで一緒に来ているが、ロベルト兄妹もついでに一緒に来ていた。

「兄さん、アイツって……」

「ああ、間違いない。なんであいつがこんなとこに」

「アイツの事を知っているのか?」

 すでに職員に試験を受けに来た事を告げ、ギルドの裏に設けられた訓練スペースで待機していた信也達は、先ほどの出来事について話をしていた。

「はい、間違いないッス。アイツは『勇者』のシルヴァーノ、ッス」

「ゆうしゃあぁ!?」

 ロベルトの答えに龍之介が素っ頓狂な声を上げる。

「そうッス。『巨岩割り』は以前ベネティス領の方で活動してたッスけど、向こうではかなり有名な冒険者でした。なんでも"勇者の心"という天恵スキルを持っているとかで……」

「実際に、最近になって『勇者』の職業に就いたって聞いたわ。私らがこちらに向かう直前辺りにね」

「勇者……。そんな職業が存在しているのか」

「なぁぁっ! やっぱ『勇者』っつったら、魔王でも倒しにいくのか?」

「はぁ? 何言ってるのよ。というか、そもそも魔王って誰を指してるのよ」

「えっ? 魔王、いないのか? 勇者がいるなら魔王もいるだろ。お約束って奴だよ」

「何がお約束なのかは知らないけどねぇ……。魔族が暮らす大陸があるってのはホージョーに聞いて知ったけど、そこに暮らす魔族の王様の事を言ってんの?」

「いや、そーゆーんじゃなくてだな。魔王ってのはこう、邪悪で、ヤバくて、人間なんか皆殺しにするような、ゲロヤベーやつなんだよ!」

「よくは分からないけど、ヤバイって事だけは伝わったわ」

 どうせ身もない話だと軽く流すことに決めたカタリナ。
 そうこう話をしている内に、試験官が訓練場へとやってくる。
 試験といってもそう大それたものではなく、ちょっと試験官の前で模擬戦をしてみたり、魔法を使用してみたりして、Dランク冒険者に相応しい強さがあるかどうかをチェックするだけらしい。

 最初に元気よく龍之介が前に出ると、ギルドが実際に戦う相手として依頼していた冒険者が名乗り出る。
 そして挨拶を交わすと、早速龍之介の試験が始まった。


「……咲良ぁ。さっきのあの男にはついていかん方がいいぞぉ」

「え、ほ、北条さん。それってどういう意味ですか?」

 少し離れた場所で龍之介の試験の様子を観戦していた咲良に、北条が話しかける。
 咲良は若干テンパリながら、北条に真意を問いただす。

「アイツからは危険な臭いがぁ、する」

「危険……ですか?」

 北条の言葉の意味は咲良の思っていた意味とは異なっていたようで、知らず知らずに声のトーンが下がる咲良。
 そんな咲良に対し、いつもより真剣な声色で北条は忠告を続ける。

「どこまで本気で言っていたのかは分からんがぁ、あの男はお前に"鑑定"を使っていたぁ。咲良の能力に目をつけられた可能性がぁ……ある」

「"鑑定"……ですか」

「それって私らも目をつけられたって事?」

「いやぁ、"鑑定"を使ったのは咲良に対してだけ……のハズだぁ。眼をつけられたのは咲良と……まあ俺だろう」

 北条は男と対峙している時に、頻りに"悪意感知"や"敵意感知"の知らせを受けていた。
 "敵意感知"は北条の行動が気にくわなかったせいだろうが、それにしてはやたらと強い敵意を向けられていた。

 恐らくは自分の思うように事が運ばない事で、分かりやすい目標である北条にその苛立ちが集中したのだろうが、つまりそれは人格的に問題がありそうな人物だという事であると、北条は判断していた。

 "悪意感知"については、咲良を鑑定した後から反応しはじめていたので、何やらよからぬ事を考えていたのはすぐに分かった。
 ただ具体的にそれがどういったものかまでは、流石の北条にも分からない。

 しかし"悪意感知"の熟練度が高まっている北条は、感覚的に悪意の強さについても感じる事ができる。
 その感覚はどうだったかといえば、まるで服の中で虫が這いずり回っているかのような、悍ましいものだった。

「それは、確かにマズイかもね」

「そう言えばカタリナはアイツの事を知ってるのよね?」

「ええ。ベネティス辺境伯の子飼いの冒険者たちの中で、一番の実力者と言われている人物よ。ランクもAね」

「確かに実力はあるッスけど、僕ら亜人族の間では嫌われてたッス」

 ベネティス領では、人族至上主義が主流になっているらしい。
 その大元である、ベネティス辺境伯ハンス・ヴィルフリード・ベネティスの配下である先ほどの勇者も、そうした例に漏れないらしい。
 だがそれだけでなく、同じ人族の間でも一部の人からは蛇蝎のごとく嫌われているらしい。
 
「実際に接した事はなかったけど、アレは確かに中身も腐ってそうね」

 吐き捨てるように言うカタリナ。
 『巨岩割り』が拠点をグリーク領に移そうとしたのも、元はと言えば人族至上主義の影響が強くなってきたからでもあった。
 そうした背景もあり、普段は人に悪感情を露骨に向けないロベルトも、シルヴァーノに対しては気持ちを抑えられないようだ。

「俺ぁ奴が咲良を"鑑定"している間に、こちらもこっそり奴を"解析"していたぁ。それを見た感じだと、あのエルフのねーちゃんよりレベルは上だった。しかも性格もあの短期間で分かる程よろしくない。咲良だけでなく、他のみんなも気を付ける事だぁ」

「気を付けるっていったって、ねぇ」

「"鑑定"持ちという事は、他の人も目を付けられる可能性はあるわね」

「はぁぁぁ……」

「おう、なんだよ。どーした、どーした? 俺が試験官のオッチャンをズガシャーン! ってやっちゃうとこ見てなかったのか?」


 厄介の種になりそうな男と出会った事で、湿った空気になっていたところに、試験官を逆に倒してしまった龍之介が戻ってくる。
 シルヴァーノの事は気にかかりはするが、現状では軽く揉めただけの相手だ。

 以前も同じように『青き血の集い』と揉めた事はあったが、結局その後は特に問題は起こらなかった。
 今回もそうなるといいなと思いつつ、試験を受けるために次は咲良が試験官の下へと向かうのだった。


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