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言えない言葉
ミス
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一瞬甘いお誘いかと思って……そんなわけないと思い直す。
何故なら音芽の表情には、どこか硬くて何かを思いつめたような雰囲気があったからだ。
それを不審に思った俺は、懸命にしがみついてくる音芽を引き剥がすと、愛しい女の名を呼びかける。
「音芽?」
そうして窺うように彼女の顔を覗き込んで、さらに畳み掛けるのだ。
「一緒に、って……本気か? お前まだそんなの……」
――無理だろ?って続けようとしたら、まるでその言葉を言わせたくないみたいに、音芽が「無理じゃないっ」って俺の言葉を封じてきて……大きな瞳でこちらをじっと見上げてくるの、どう考えてもおかしいだろ!
「温和と一緒にお風呂に入るのなんて、初めてじゃないもん」
なのに、そんな俺を説き伏せたいみたいに、音芽が懸命にそう言い募ってくるのだ。言っておいて、恥ずかし気に頬を赤く染める姿が、いじらしくてたまらない。
俺たちが一緒に風呂へ入ったのなんて、記憶もあやふやなくらいガキの頃の話だ。そんな幼い時分のことまで持ち出してでも、何の問題もないのだとアピールしたがる音芽に、これ以上何か言えるだろうか?
「……分かった」
俺は、どう見ても無理をしまくっている音芽の頭を(もう無理しなくていい)という気持ちを込めて、クシャリと優しく撫でた。
基本初心で晩熟な音芽にあんなセリフを言わせてしまうくらい追い詰めてしまったのは、他の誰でもない――俺自身だ。
そう思うと、何とも居た堪れない気持ちがして……。だけど、音芽だけを愛しているという事実だけは、こんな状況の中にあっても絶対だと言い切れる。さすがの俺も自分の心にだけは、嘘がつけないんだ。
だからどうか……せめてこの想いだけは音芽に信じてもらえますように。
***
「あ、あのね、温和」
ギュッと俺の手を握って、音芽が真剣な顔をして俺を見つめてくる。
俺と音芽は三〇センチ近い身長差があるから、小さな音芽が懸命に俺を見上げてくるさまは、胸が高鳴るくらい可愛い。
だが、今は何となく彼女と目線を合わせて話さねばならない、と思った。
俺は音芽と目の高さが釣り合うように、ちょっとだけ膝を折る。
「貴方から川越先生のにおいが、してる……」
音芽に、心の裡まで見透かされそうに澄んだ瞳でじっと見詰められた俺は、ドキッとさせられる。
きっと音芽のやつは今、これを聞きながら相当不安に違いない。
なのに音芽は俺から一切視線を外そうとしないのだ。それが、彼女の覚悟を見せられているようで、俺も音芽から目を逸らすことができなくなった。
「温和、川越先生を抱きしめたり……した……?」
恐る恐る……でもはっきりと、不安をさらけ出すように疑念を問いかけてきた音芽に、俺は一瞬なにを言われたのか分からなかった。
(ちょっと待て。誰が誰を……抱きしめたって……?)
音芽のセリフを脳内で反芻した俺は、(いや、そんなん絶対有り得ねぇだろ!)と思った。
そうしながら、音芽が何故そんな勘違いをしたのかと思いを巡らせて、そう言えば、と思い出す。
(川越のヤロー、学校を出てすぐんトコで、わざとらしく俺にくっ付いてきやがったんだった!)
きっとあれは、こうなることを狙っていたに違いない。
そう思い至ると、腸が煮えくり返るほど腹立たしくて……つい怒りに任せて表情を歪めると、忌々しさを抑えきれないままに「あの女」とつぶやいた。
でも……そうなったのもきっと、俺がしっかりしていなかったからだ。
「……すまん、音芽。――俺の、……ミスだ」
言って、音芽をじっと見つめながら、俺は「今度からこんな事ないように気をつける」と音芽に頭を下げた。
何故なら音芽の表情には、どこか硬くて何かを思いつめたような雰囲気があったからだ。
それを不審に思った俺は、懸命にしがみついてくる音芽を引き剥がすと、愛しい女の名を呼びかける。
「音芽?」
そうして窺うように彼女の顔を覗き込んで、さらに畳み掛けるのだ。
「一緒に、って……本気か? お前まだそんなの……」
――無理だろ?って続けようとしたら、まるでその言葉を言わせたくないみたいに、音芽が「無理じゃないっ」って俺の言葉を封じてきて……大きな瞳でこちらをじっと見上げてくるの、どう考えてもおかしいだろ!
「温和と一緒にお風呂に入るのなんて、初めてじゃないもん」
なのに、そんな俺を説き伏せたいみたいに、音芽が懸命にそう言い募ってくるのだ。言っておいて、恥ずかし気に頬を赤く染める姿が、いじらしくてたまらない。
俺たちが一緒に風呂へ入ったのなんて、記憶もあやふやなくらいガキの頃の話だ。そんな幼い時分のことまで持ち出してでも、何の問題もないのだとアピールしたがる音芽に、これ以上何か言えるだろうか?
「……分かった」
俺は、どう見ても無理をしまくっている音芽の頭を(もう無理しなくていい)という気持ちを込めて、クシャリと優しく撫でた。
基本初心で晩熟な音芽にあんなセリフを言わせてしまうくらい追い詰めてしまったのは、他の誰でもない――俺自身だ。
そう思うと、何とも居た堪れない気持ちがして……。だけど、音芽だけを愛しているという事実だけは、こんな状況の中にあっても絶対だと言い切れる。さすがの俺も自分の心にだけは、嘘がつけないんだ。
だからどうか……せめてこの想いだけは音芽に信じてもらえますように。
***
「あ、あのね、温和」
ギュッと俺の手を握って、音芽が真剣な顔をして俺を見つめてくる。
俺と音芽は三〇センチ近い身長差があるから、小さな音芽が懸命に俺を見上げてくるさまは、胸が高鳴るくらい可愛い。
だが、今は何となく彼女と目線を合わせて話さねばならない、と思った。
俺は音芽と目の高さが釣り合うように、ちょっとだけ膝を折る。
「貴方から川越先生のにおいが、してる……」
音芽に、心の裡まで見透かされそうに澄んだ瞳でじっと見詰められた俺は、ドキッとさせられる。
きっと音芽のやつは今、これを聞きながら相当不安に違いない。
なのに音芽は俺から一切視線を外そうとしないのだ。それが、彼女の覚悟を見せられているようで、俺も音芽から目を逸らすことができなくなった。
「温和、川越先生を抱きしめたり……した……?」
恐る恐る……でもはっきりと、不安をさらけ出すように疑念を問いかけてきた音芽に、俺は一瞬なにを言われたのか分からなかった。
(ちょっと待て。誰が誰を……抱きしめたって……?)
音芽のセリフを脳内で反芻した俺は、(いや、そんなん絶対有り得ねぇだろ!)と思った。
そうしながら、音芽が何故そんな勘違いをしたのかと思いを巡らせて、そう言えば、と思い出す。
(川越のヤロー、学校を出てすぐんトコで、わざとらしく俺にくっ付いてきやがったんだった!)
きっとあれは、こうなることを狙っていたに違いない。
そう思い至ると、腸が煮えくり返るほど腹立たしくて……つい怒りに任せて表情を歪めると、忌々しさを抑えきれないままに「あの女」とつぶやいた。
でも……そうなったのもきっと、俺がしっかりしていなかったからだ。
「……すまん、音芽。――俺の、……ミスだ」
言って、音芽をじっと見つめながら、俺は「今度からこんな事ないように気をつける」と音芽に頭を下げた。
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