【R18】温和はオトメをもっと上手に愛したい

鷹槻れん

文字の大きさ
190 / 198
言えない言葉

心の負荷

しおりを挟む
 俺がはっきりと川越かわごえとの接近を否定しなかったからだろうか。

 いつもはほわっとしていて、基本俺の言いなりになりがちな音芽おとめが、今にも泣きそうな顔をして「……イヤ!」と声を張った。

「どんな理由があっても……そういうのは、嫌っ! 温和はるまさ、お願いだから……私以外の女性ひとを……抱きしめたり……しないで!?」

 続いてつむがれた言葉も、驚くほど意志の強さを感じさせる口調のまま。目に涙をたっぷりたたえているくせに、それとは裏腹。決意の込められた力強い眼差しで俺を真っ向から見据えてくる。

 滅多なことでは俺に歯向かってこない音芽が……。それこそ大抵のことは我慢して飲み込んでしまう音芽が……。それだけは許せないんだと俺に訴えかけてくる様は、俺の胸をギュッと締め付けてきた。

『私だって……何でも容認できるわけじゃないんだよ?』

 言外にそう言い含めて俺をじっと見つめてくる音芽に、俺は驚きのあまり何も言い返すことができなかった。

温和はるまさ……お願い」

 音芽はそんな俺に、先ほどとは一変。震える声でそう言って、涙をポロリと落とすんだ。

「音芽……」

 音芽の涙に俺は慌てて腰を浮かせると、彼女の潤んだ瞳を真っ向から見返した。

「分かったから落ち着けよ。こんな状況だし……信じてもらえねぇかも知れねぇけど……俺、お前以外の女を抱きしめたりしねぇし、これからもそういうことするつもりないから。もう2度とこんなにおいをようなヘマもしないって誓う。だから……頼む。――泣きやめよ」

 畳み掛けるようにして告げた言葉は、どう考えても言い訳がましくて。
 でも今の俺にはそれしかできなくて――。

「なぁ音芽おとめ。お前は……学生の頃より強くなってるって……思っていい……のか?」

 気が付けば、音芽の頭を撫でながらそんなことを問いかけていた。

 音芽の心があの頃より強くなってくれていたら或いは――。

 そう一縷いちるの望みを託して語りかけた言葉に、音芽は意味が理解できないんだろう。
 ゆらゆらと戸惑いに揺れる眼差しで、俺をじっと見返してきた。


***


 俺が突然学生の頃の話を持ち出したりしたから、音芽おとめも色々考えてくれたんだろうか。

「あのね、温和はるまさ。……私、川越かわごえ先生に初めましてをした時……頭の中に膜がかかったみたいな変な感じになったの。あのとき、川越先生と初めて会った気がしなかったのは……私の気のせい? それとも……思い出せていないだけで、どこかで――例えば学校やなんかで……会ってたりする、のかな……」

 言いながら、やはりそのことを深く思い出そうとしたら、きっとんだろう。

 音芽が、ギュッと眉根を寄せて苦しそうにする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

処理中です...