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言えない言葉
心の負荷
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俺がはっきりと川越との接近を否定しなかったからだろうか。
いつもはほわっとしていて、基本俺の言いなりになりがちな音芽が、今にも泣きそうな顔をして「……イヤ!」と声を張った。
「どんな理由があっても……そういうのは、嫌っ! 温和、お願いだから……私以外の女性を……抱きしめたり……しないで!?」
続いて紡がれた言葉も、驚くほど意志の強さを感じさせる口調のまま。目に涙をたっぷりたたえているくせに、それとは裏腹。決意の込められた力強い眼差しで俺を真っ向から見据えてくる。
滅多なことでは俺に歯向かってこない音芽が……。それこそ大抵のことは我慢して飲み込んでしまう音芽が……。それだけは許せないんだと俺に訴えかけてくる様は、俺の胸をギュッと締め付けてきた。
『私だって……何でも容認できるわけじゃないんだよ?』
言外にそう言い含めて俺をじっと見つめてくる音芽に、俺は驚きのあまり何も言い返すことができなかった。
「温和……お願い」
音芽はそんな俺に、先ほどとは一変。震える声でそう言って、涙をポロリと落とすんだ。
「音芽……」
音芽の涙に俺は慌てて腰を浮かせると、彼女の潤んだ瞳を真っ向から見返した。
「分かったから落ち着けよ。こんな状況だし……信じてもらえねぇかも知れねぇけど……俺、お前以外の女を抱きしめたりしねぇし、これからもそういうことするつもりないから。もう2度とこんなにおいをつけられるようなヘマもしないって誓う。だから……頼む。――泣きやめよ」
畳み掛けるようにして告げた言葉は、どう考えても言い訳がましくて。
でも今の俺にはそれしかできなくて――。
「なぁ音芽。お前は……学生の頃より強くなってるって……思っていい……のか?」
気が付けば、音芽の頭を撫でながらそんなことを問いかけていた。
音芽の心があの頃より強くなってくれていたら或いは――。
そう一縷の望みを託して語りかけた言葉に、音芽は意味が理解できないんだろう。
ゆらゆらと戸惑いに揺れる眼差しで、俺をじっと見返してきた。
***
俺が突然学生の頃の話を持ち出したりしたから、音芽も色々考えてくれたんだろうか。
「あのね、温和。……私、川越先生に初めましてをした時……頭の中に膜がかかったみたいな変な感じになったの。あのとき、川越先生と初めて会った気がしなかったのは……私の気のせい? それとも……思い出せていないだけで、どこかで――例えば学校やなんかで……会ってたりする、のかな……」
言いながら、やはりそのことを深く思い出そうとしたら、きっと心に負荷がかかるんだろう。
音芽が、ギュッと眉根を寄せて苦しそうにする。
いつもはほわっとしていて、基本俺の言いなりになりがちな音芽が、今にも泣きそうな顔をして「……イヤ!」と声を張った。
「どんな理由があっても……そういうのは、嫌っ! 温和、お願いだから……私以外の女性を……抱きしめたり……しないで!?」
続いて紡がれた言葉も、驚くほど意志の強さを感じさせる口調のまま。目に涙をたっぷりたたえているくせに、それとは裏腹。決意の込められた力強い眼差しで俺を真っ向から見据えてくる。
滅多なことでは俺に歯向かってこない音芽が……。それこそ大抵のことは我慢して飲み込んでしまう音芽が……。それだけは許せないんだと俺に訴えかけてくる様は、俺の胸をギュッと締め付けてきた。
『私だって……何でも容認できるわけじゃないんだよ?』
言外にそう言い含めて俺をじっと見つめてくる音芽に、俺は驚きのあまり何も言い返すことができなかった。
「温和……お願い」
音芽はそんな俺に、先ほどとは一変。震える声でそう言って、涙をポロリと落とすんだ。
「音芽……」
音芽の涙に俺は慌てて腰を浮かせると、彼女の潤んだ瞳を真っ向から見返した。
「分かったから落ち着けよ。こんな状況だし……信じてもらえねぇかも知れねぇけど……俺、お前以外の女を抱きしめたりしねぇし、これからもそういうことするつもりないから。もう2度とこんなにおいをつけられるようなヘマもしないって誓う。だから……頼む。――泣きやめよ」
畳み掛けるようにして告げた言葉は、どう考えても言い訳がましくて。
でも今の俺にはそれしかできなくて――。
「なぁ音芽。お前は……学生の頃より強くなってるって……思っていい……のか?」
気が付けば、音芽の頭を撫でながらそんなことを問いかけていた。
音芽の心があの頃より強くなってくれていたら或いは――。
そう一縷の望みを託して語りかけた言葉に、音芽は意味が理解できないんだろう。
ゆらゆらと戸惑いに揺れる眼差しで、俺をじっと見返してきた。
***
俺が突然学生の頃の話を持ち出したりしたから、音芽も色々考えてくれたんだろうか。
「あのね、温和。……私、川越先生に初めましてをした時……頭の中に膜がかかったみたいな変な感じになったの。あのとき、川越先生と初めて会った気がしなかったのは……私の気のせい? それとも……思い出せていないだけで、どこかで――例えば学校やなんかで……会ってたりする、のかな……」
言いながら、やはりそのことを深く思い出そうとしたら、きっと心に負荷がかかるんだろう。
音芽が、ギュッと眉根を寄せて苦しそうにする。
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