悪役令嬢はモブ化した

F.conoe

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乙女ゲーム続編進行中とは誰も知らない

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「殿下がイーハーへ戦をしかけると言っている……」

「とめなさいよ」

父親に向かって思わず命令口調になるのも仕方がないわ。意味がわからないわ。
戦争? は? 戦を甘く考えすぎじゃないの。恋物語のアクセントじゃないのよ、作り話じゃないのよ、現実なのよ、人の命がかかっているのよ!?
わたくし一人が恋に負けて泣くのとはわけが違うのよ。なに考えてるの。何も考えてないの? そこまで自己中だったなんて……まぁ片鱗へんりんはあったわね。

「婚約者を奪われた正当な理由があるからといって、開戦は間近だ。王命には逆らえない。私も領兵をつれて出陣するよ」

「お父様……」

「お前には苦労をかけたな。育て方をどうするのが正解だったのか、もうよくわからなくなってしまった。今の好きにしているアルリアは楽しそうで、はじめからこうしてやれればよかったのかなと思ったり、そんなの無理だろうと思ったり。すまないな。貴族家当主に女はなれないが、入り婿むこをとるまでの間の暫定的ざんていてきな権利は与えることはできる。頼んだよ」

お父様からシバンニ家の紋章のついた書状を渡されました。

「……帰ってきてくださいよ。わたくし、家族はもうお父様しかいないのよ」

「がんばるよ。アルリア、風邪をひかないようにね。体を大事にするんだよ」

「はい。お父様も」

「ああ。私に万が一があった時は、暫定ざんていではない次期公爵が必要になってくる。いい男がいたら婿むこにとるといいよ。アルリアがいいと思う人を探しなさい」

「……そんな人いるかしら」

「こだわりがないなら、分家のバロウ・カーツなんかがお父様はおすすめだよ」

「バロウ? まぁ悪い人ではないわね」

子供の頃に会った記憶があるけれど、よく泣いている子供だった。お父様みたいなタイプよね。それダメじゃない?
今は子爵家次男ということで普通に騎士になっているという情報はあるけれど、それ以上のことは知らないわね。

「一度会ってみなさい。昔とは違うから」

ふうん?



お父様が領兵と共に出陣した。
お帰りになることを祈ってる。

わたくしはわたくしがするべきことをしましょう。
まずは領兵出陣により減った領内警護の対策ね。こういう時は自警団に領兵に近い権利を与えるということになってはいるのだけど、良心を頼りにしてはいけないわ。殿下のように楽へ走る人はどこにでもいるのだから。前回の領兵出陣の際には、自警団の中に賄賂わいろを民に要求するものがいたそうよ。わたくし同じ愚はおかさないわ。

自警団に権限を与えつつ、領内に残った警備兵(領兵は軍隊で、警備兵は警察のようなもの。領兵がいるときは仕事を共有している部分が多いので数は少なめ)に監督を任せましょう。
とりあえずはそれで様子見ね。

あとやっていないことは?
あ、バロウに会いに行かなくっちゃね。

あと私がやりたかったことは、発明家と芸術家の育成が最後かしら。
愛妾文化の廃止はさすがに反発が強いだろうし。長い目で考えましょう。

発明家と芸術家は現在、娯楽大好きな貴族がパトロンになることで育成されているのが現状だけど、それでは人によって幸不幸が分かれすぎると思うの。貴族の趣味嗜好しゅみしこうと同じものを作りたい人はいいけど、そこから外れた人が日の目を見ないわ。

林の中のあばら家で、家族に支えられて細々とつづけていた芸術家が、日の目を見る前に亡くなって死後に作品が評価されて今では国一番の有名人。というのは悲劇としては面白いけれど政治としては骨頂こっちょうだと思うの。社会の被害者だわ。悲劇があったからこそ作品が輝くとか、そういうのもあるかもしれないけど。
人間だもの完璧な社会なんて無理だけど、逆に言えばひろえる命は拾ってもいいってことじゃない? 必死ですくいあげようとしても指のすきまから落ちてしまう人は落ちてしまうのよ。それなら拾える限りだけでも拾いたいわ。

とはいえ苦労をしたからこその作品の輝きってあると思うの。
苦労を知っているからこそ生み出せるものってあると思うの。
だから生活を満足させるばかりが支援ではないわ、支援は必要最低限。そこから上へ行けるかは実力次第。でも命の保証はする。
そんな支援ができるようにしたい。

保護施設があればいいのかしら?
でも芸術家も発明家も個性的だから一箇所にまとめて詰め込むのは危険かしら。まとめておくことで生まれる新発見もあると思う。それなら、選択式にしましょうか?

芸術家、発明および研究家を住まわせる支援しえんやかたを作りましょう。
その館に入居希望ならそれもよし、
いやだ一人がいい、というならば各地域の最下層の住まいを提供。場所の選択は自由。
家は古いけど郊外の静かな場所に住むもよし、都会の下層民の住む家で暮らすもよし。

毎年ちゃんと活動を続けているならば衣食住および必要経費の提供は継続。
活動の意欲なく、住処すみかを得るためだけに芸術家や発明家を名乗っているようなら支援打ち切り。その判断をくだすには、世の芸術家や発明家に相談して、判断ポイントをまとめておかないといけないわね。判断が難しい場合はアドバイスをもらえる協力関係も取り付けておかないといけないわ。

支援の館はどこにでも作れるわけじゃないから、領都近くの田舎町にしようかしらね。
いいところを探さなくっちゃ。

また忙しくなるわ。
その前にバロウに会いに行っておかないと忘れるわね。手紙出しておきましょう。


お久しぶりの王城です。バロウは今、王城の騎士をしていますのよ。今回の戦には出ないような守護騎士で、いわゆる警備兵の特別王城バージョンですわ。騎士だけに体は鍛えているでしょうけれど、貴族の認識では文官に近い騎士ですわね。戦場からくる情報を精査して管理するのもこの騎士団の役割ですので、今忙しいかも。
ご迷惑かしら?
でもこれからは戦後処理もふくめてずっと忙しいでしょうし、今忙しくて無理なら来年も忙しくて無理でしょうね。気づかっていてはなにもできませんわ。
気にしないでいこー!

「登城許可は?」

門番に止められました。緑の騎士服。彼も守護騎士ですね。

「奥には入りません。騎士団の区画に用がありますの」

騎士団の区画なら、伯爵以上の貴族なら出入り自由よ。一般市民も城の外周は出入り自由だから、騎士の訓練場に見学に行く女性とかいるわ。あまり押しかけられても迷惑するので、退去命令を出す権利は全騎士に与えられていますけどね。

「承知しました。魔法をかけますので指をお願いします」

それは入城者管理のための魔法を指先に付与するためのものだけれど。

「あら、わたくしは出入り自由のはずよ?」

「戦時中ですので警戒を強めております。ご理解ください」

「ああ、それなら仕方ないわね。いい心がけだと思うわ。どうぞ」

「失礼いたします」

緑の制服の騎士が、太い腕輪みたいな鉄の塊を指先に通すと、ぽっとピンクの小さな光が爪に灯りました。

「あらかわいい。ピンクなのね」

「男性の場合は青く光ります」

「へえ」

気づかいなのか、魔法的な意味があるのか分かりませんけれどかわいいからいいわ。
お付きのテルナとトマ、ジバの指にも光が灯されました。
それじゃ、と騎士区画きしくかくへ。
バロウは守護騎士団をさらに細分化した分隊の1つをまかされている分隊長らしい。
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