陰で魔王と畏怖されている英雄とお見合いしています

鳴哉

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 何かの間違いだと思いたい。
 私は、目の前の脅威から目を逸らしながら、心の中で祈った。



 そろそろ結婚適齢期でありながら、何となく機会を逃して婚約者さえもいない私は、祖父の紹介でお見合いをすることになった。
 どういったご縁の方なのかはっきりとは言われなかったけれど、「とてもいい男だ」と太鼓判を押され、とりあえず一緒に食事をすることになった。

 市街地にある普段は敷居の高い料理店でのお見合い当日、待ち合わせのお店に向かうと、付き添ってくれるはずの祖父はおらず、店の人から「若い二人で食事を楽しめ」といった内容の伝言を受け取った。

 初対面の男性と二人きりで食事を楽しめと。

 祖父がわりとそういうところがある人だとは知っていたけれど、なかなかの無茶振りだな、と遠い目になる。
 だけど帰る訳にもいかず、予約された部屋へと案内してもらう。幸いにも早く着いたので、待ち合わせの時間までまだ余裕がある。気持ちを落ち着けることにしよう。

 そう思っていたのに、案内された貸切の個室に相手の方は既に着いていた。
 先に部屋に入った店員が短い悲鳴をあげたので、何事かと続いて入った私は、見た者を射殺しそうな視線に射抜かれる。店員同様あげそうになった悲鳴を何とか堪えた。

 え? まさかこの人が私のお見合い相手……?

 上手の席には、纏う気配だけで人を殺めることができるのではないかと思えるほど、苛烈な気を放つ男性が座っていた。
 少なくとも、今からお見合いをしようとする人が発する空気ではないように思う。店員さんが案内する部屋を間違えたのでは、と一縷の望みを持って振り返るも、既にその姿はなかった。

 こんな人には会ったことがない。

 昔、王に仕える騎士団に所属していたという祖父からも、祖父がその頃からお付き合いされているという騎士や傭兵、その他堅気ではないと思われる人たちからも、こんな恐ろしいすくみあがるような気を感じたことはなかった。
 視線は逸らされることなく私を射抜いているので、この人の待ち人は私で間違いないのだろう。でもただの小娘に向けていいものではないと思う。本能的に身の危険を感じてしまうほどの、これは殺気?

 その人からかけられる言葉はなく、私も声が出なくて、長い沈黙の後……、私は耐えきれず、開き直ることにした。

 祖父が勧めてきた方だし、いきなり命を取られるようなことはないはず、と腹を括る。

 ちょうどその時、運ばれてきた食事に合わせ、私は何とか笑顔を作る。

「せっかくですので、いただきましょうか」



 
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