帰ってきた兄の結婚、そして私、の話

鳴哉

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「きょ、きょうはいいてんきですね~」
「やり直しです!」

 私は指を兄に向け突き出した。
「まだ話し始めたばかりじゃねえか!」
 兄はくってかかってきたが、駄目なものは駄目なのだ。

「そんな芸のない話し出しでご令嬢の気を引けると思っているんですか? お相手は社交界一の花と呼ばれる侯爵令嬢なんですよ? ただでさえ愛想のないお兄様なんですから、初手から必殺技繰り出すくらいの意気込みでいかないと!」

 私の熱弁は、悔しいくらい兄には響かない。やる気のない顔で「何だよ、必殺技って」と呆れている。


 兄に縁談が持ち上がった。
 貴族の嫡男としてはもうとっくに結婚していてもおかしくない年齢の兄に、縁組してもよいという相手が見つかったのだ。3歳年下の私と同じ19歳のルーファット侯爵家ご令嬢、ピアニー様。年齢的にも家格的にも釣り合いが取れているだけでなく、社交界で多くの男性の憧れの的である美女で、人気がありすぎてまだ婚約者がいないという程の、超のつく優良物件だ。

 ただ条件だけで見れば釣り合いが取れているのかもしれないが、ピアニー様にそう思っていただけるかは微妙だ。当家の嫡男である兄は、おおよそ貴族女性に好まれそうな男性とは言いきれなかったからだ。
 粗野で無神経で愛想もない。この兄の有様ではすぐに破談になるのが目に見えている。
 だから、ここは私が一肌脱ぐしかない、と兄の紳士教育を始めたのだった。


「話術は大事です! 紳士らしい話し方は当たり前ですけど、例えば、そう、まず相手を褒めるところから入りましょう!」
「……お前を褒めろと?」
 練習台が褒めるところの見つからない妹で悪かったわね! と言い返しそうになり、淑女の仮面を被り直す。にっこり、と感情のこもらない笑みを顔面に貼り付ける。
「例え定型句でも数打てば少しは響きますよ。とりあえず褒める! 相手の気分を上げてくんですよ!!」

 不満たらたらの体で長い足を組み直す兄。私は大きく溜息をついた。

「お兄様は見た目はとてもよろしいのですから、本当にもったいないです」

「俺のどこかよろしいと?」

 興味深そうに聞いてきたので、相手を褒める参考になれば、と挙げていく。

 くっきりとした目鼻立ちで整った顔や頭の形、体型も鍛えているからだけでなく程よい筋肉がつき、手足も長くバランスが取れている。輝く白金の髪、中でも際立つのは青く星の散った瞳。

「お兄様の瞳はまるで光の精霊たちが踊る夜空のようで、思わず手を伸ばしてこの手の中に閉じ込めてしまいたくなりますわ」

 詩的な表現は貴族的な言い回しだが、そういったものが好まれる傾向なので敢えて言ってみると、兄は真っ赤な顔でぐっと歯を食いしばっていた。脳筋の兄には恥ずかしくむず痒過ぎたのだろう。

「この程度のこと、ピアニー様は言われ慣れていらっしゃいますよ。もっと心に、こう、ぐさっと刺さるようなことを言って、お心を掴まなければ!」
「できる気が全くしねえ!」
「それでもやらなきゃ、結婚してもらえないですよ! 跡継ぎのお兄様がいつまでもフラフラしていていい訳ないですからね!!」

 まあ、お兄様も好きでフラフラしていた訳ではないのだけれど。



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