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野花怪異談集全100話
71話「コンビニ」
しおりを挟む町外れに、少しばかり不思議なコンビニがある。
明かりはぼんやりと白く、看板のロゴもどこか色あせて見える。客の出入りはポツポツある。
けれど――入っていく人は見かけるのに、出てくる人を誰も見たことがないという。
なぜか?
そのコンビニは、あの世の入り口だというのだ。
中で売られている品々は、生者が使うものではない。
ペットボトルに入った水は、味がないのに喉を通ると涙が出る。
パンは柔らかいが、どこか冷たく、口の中で消える。
買った袋は軽くても、家に持ち帰ると何も入っていない。
それどころか、買い物をしたはずの記憶が曖昧になるという。
誰が、なぜ、そのコンビニを訪れるのか。
そして、なぜ帰ってこないのか。
それは“そちら側”に足を踏み入れた者しか知らない。
だからこそ、地元では昔からこう言われている。
「夜中に灯るあの光を見たら、決して近づくな」
「そこにあるのは、灯りじゃなくて……迎え火だ」
⸻
私はその話を、友人から聞いた帰り道のことだった。
夜の道を一人で歩いていると、角を曲がった先に見覚えのないコンビニがあった。
白く照らされた看板。自動ドアの奥には、商品棚と、何人かの客の姿。
けれど、なぜかその光景は現実味がなかった。音も聞こえず、空気が冷たい。
ぼんやりと浮かぶ人影たちは、どこか青白く透けていた。
「あれ……? ここ、たしか……墓地じゃなかったっけ?」
心の中に、冷たいものがスッと降りてきた。
私はそれ以上近づかず、急いでその場を離れた。
振り返ると、コンビニはまだ光っていた。客の一人が私に気づいたように、こちらを向いた――気がした。
だが顔は、まるで影で塗りつぶされたように見えなかった。
⸻
翌朝。
私は気になって、その場所に行ってみた。
するとそこには、やはり墓地が広がっていた。
コンビニなど、どこにもない。
あったはずの駐車場も、出入り口も、何もかもが消えていた。
だが、私の足が踏んだあたりの雑草は、なぜかペタンと倒れていた。
まるで、昨夜確かに“誰か”がそこに立っていたかのように。
近所の老人に聞くと、こんな話をぽつりと漏らした。
「あそこなあ、昔は墓地だったのに、いつの間にか更地になって……。でもな、また戻ったろ? そういうもんなんだよ。向こう側とこっち側は、時々場所を間違えるんだ」
⸻
今でも時折、その場所に近づくと胸がザワつく。
足元が冷え、視界の端に白い灯りが揺れるような気がするのだ。
だから私は、なるべくあの道を避けて帰ることにしている。
もしあなたも夜道で、不自然に静かなコンビニを見つけたら――
たとえ喉が渇いても、寄らない方がいい。
出てこられなくなるから。
コンビニ 完
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