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20話.相棒の行動に頭を悩まされる
しおりを挟む俺たちが別荘の前に戻ると、待っていた時雨たちがすぐに駆け寄ってきた。
「い、一条さん……」
みんなの一歩後ろにいた狂犬が、気まずそうに視線を落としながら口を開く。事前に話を聞いていたのか、二上とぶりっ子くんは静かにその様子を見守っていた。
そんな狂犬の姿に、一条はすぐにいつもの不敵な笑みを浮かべて返す。
「おい、なんだその情けねぇツラは。……まあ、さっきは驚いて背を向けてしまったがな」
「あ……あの、オレ……」
「フン。お前が本気だってんなら、俺様も全力で応えてやるよ。時雨は、俺様が落とす。絶対に負けねぇからな!」
「じょ、上等っす! オレだって、負けるつもりはないっすから!」
挑発するような一条の言葉に、狂犬は慌てて顔を上げて応じる。その顔にはさっきまでの憂いはなく、どこか晴れ晴れとしていた。
「んふふっ。それなら、ボクも全力で頑張っちゃおっかな~」
「私も、黙って見ているつもりはありませんから」
「ハッ、お前らにも譲る気はねぇよ!」
気まずかった雰囲気が霧散し、レガフォー全員がいつもの調子で、時雨争奪戦の話で盛り上がり始めた。
普段通りな彼らの姿に、時雨はホッとしたように息を吐きつつ、呆れたように肩をすくめる。
「いや……だから、何度言ったら分かるんだ。お前らとは付き合う気がないって……」
「はは……いっ!」
笑った拍子に、ピリッとした痛みが口元に走った。下山途中に血が止まったし大丈夫だと思ってたけど、さっきので傷が開いたらしい。
思わず顔をしかめると、時雨が俺の顔を両手で挟み込み、じっと見つめてくる。
「葉? どうしたんだ、その傷」
ちょっ! 近いし、そんなに見られるとちょっと恥ずかしいんですけど!?
思わず泳いだ視線の端では、一条が肩をビクリと跳ねさせ、ばつが悪そうにこちらを見ていた。悪戯がバレた犬のような反応するじゃん。傍から見たら、一条の所為だってバレバレだぞ?
まぁ、大ごとにするつもりはないし、説明するのも面倒だから誤魔化しといてやるか。お礼は、カフェの季節限定デザートを奢ってくれるだけでいいからな。
「あー……ちょっと木の枝につまずいてさ、ぶつけちゃったんだ」
「そうか。とりあえず部屋に戻って手当しよう。二上、救急箱ってある?」
「えぇ。ダイニングの戸棚の一番上にありますので、使ってください。……どこか、怪我をしたんですか?」
「ああ、葉が転んで口の端を切ったらしい。血は出てないけど、化膿するといけないからな」
「そうですか……。大森葉が、肝試し中に転けて軽傷を負った……と」
どこか咎めるような二上の視線がすっと一条へと向けられた。うん、誰が犯人か察してるみたいだな。
小さくなりながら二上に説明(という名の言い訳)をする一条を尻目に、ぶりっ子くんと狂犬の二人は回収し忘れたカードを取りに行くらしい。
ひとまず解散とのことで、俺と時雨は先に部屋へ戻ることにした。
傷口を洗うついでに、シャワーでさっと砂埃と汗も流してすっきり。部屋に戻ると、救急箱を持った時雨がベッドに腰かけて待っていた。手招きされて隣に腰を掛けると、時雨は救急箱の中から綿とピンセットを取り出す。
消毒薬がピリッと染みて地味に痛い。思わず眉をしかめた俺の顔に、そっと絆創膏が貼られる……その手がぴたりと止まった。
「……どうかした?」
「さっき、一条の様子がなんか変だったよな。ぶつけたって、もしかして……口同士か?」
「えっ?!」
思わずギクリとした。
な、なんでバレてるんだ!? いや、俺がぶつかったのは一条の肩で、別にキスはしてないんだけどさ!
「ち、違う! ぶつかったのは確かだけど、口同士じゃないし、事故チューなんてしてないから! 俺の唇はまだ清いままだぜ。親族以外には、な」
言ってる内に、父ちゃんとかにめっちゃチューされまくった記憶が蘇ってきて、少し遠い目になる。ほら、小さい頃だけだし、親族はノーカウントだから……。
そんな俺の反応に時雨は「そっか」とだけ言って、ふと顔を近付けてくる。
そして──絆創膏の上から、そっとキスをした。
「んえええぇっ!? し、時雨……な、なにして……!?」
「……消毒、ってことで」
慌てふためく俺を余所に、時雨はさらりと答えて立ち上がると、救急箱を手に部屋を出て行った。
えっ? いやいやいや! ちょっと待て! お前……それは、どういう意味での『消毒』よ?!
一条との事故チュー未遂した俺を励まそうとして? それとも狂犬とキスしたのを思い出してか? もしくは……身内からのチュー攻撃を受けたのを察して、からかってたりする?!
相棒からの思わぬフラグ立てに、俺は頭を抱える。なのに、戻ってきた時雨は何事もなかったかのように、普段通りの態度だ。
結局、俺はモヤモヤを抱えたまま、その夜を過ごした。
──そして翌日。
悩み過ぎてる内に、気付けばいつの間にか自宅に送り届けられたようだ。蒸し返すのも何かのフラグが立ちそうで嫌だし、俺は口をつぐむしかなく。夏休みの残りをただただ悶々と過ごす羽目になった。
おかげで、帰ってから地元の友達としようとしたこと全て頭から吹き飛んで、ろくに遊べてないんだけど! 酷いじゃないか、時雨のバカ!!
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