悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

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5話

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地下牢の朝は、今日も静かで冷たく、時が止まったように無機質だった。  
ただひとつの例外――囚人番号なしの特別収容者、ルゥナ=フェリシェを除いて。

「……まあ、朝日が差し込んでおりますわ」

彼女は壁際の隙間からわずかに差し込む光に気づき、石の床の上で軽く伸びをした。昨日の大富豪大会でボロ負けした監視長の姿も見えない。  
代わりに、重々しいはずの鉄の扉が、まるで風にでも押されたように、音もなく――

「……開いておりますわね」

カタン、と軽やかな音とともに、扉が完全に開いた。誰の足音もない。鍵の音もなかった。  
当然、誰もいないはずの廊下を、ルゥナはごく自然に歩き出す。

「きっと、お掃除の方が扉を開けてくださったのでしょう。お心遣いに感謝いたしますわ」

牢の規則も、看守の視線も、脱獄という概念さえも、彼女の辞書にはなかった。  
ただ、扉が開いていたから、出ただけ――それだけだった。



「だあああああああああっ!!!」

「……開いてた!? なぜ!? 誰が鍵を!?」

その頃、監視長の怒号が塔中に響き渡っていた。  
全看守に非常警戒態勢が敷かれ、黒鉄の塔内は大混乱。  
が、ルゥナの姿は、どこにもなかった。

「ちょっとした散歩ですのに……なんだか騒がしいですわね」

そう言いながら、塔の裏門から緩やかな坂を下るルゥナ。  
その手には、例によっていつ取り出したのかわからない日傘と、丸パンが一つ。

「さて、本日はどちらに参りましょうか。風が南を向いておりますので、そちらにいたしましょう」

あてもなく、地図も持たず、方角すらあやふやなまま。

だがその歩みが、帝国の秩序を、貴族の権威を、そして皇帝すら巻き込む大騒動を生み出していく――などと、当の本人は知る由もない。

地下牢の“扉が開いていた”という、それだけの理由で始まる無自覚脱獄劇。  
静かに、しかし確実に、帝国を揺るがす第一歩となった。
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