悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

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4話

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「ふむふむ……あと三枚ですわね」

ルゥナは牢の床にトランプを一枚ずつ丁寧に立てていった。  
誰もが退屈し、うめき声をあげるような地下牢の空気の中で、彼女だけはやけに楽しそうだ。

「……完成ですわ」

ドンッ。

重い足音とともに、鉄扉が開く。現れたのは監視長だった。腕を組み、無精髭を撫でつけながら、ぼんやりとルゥナの“作品”を見つめる。

「……なにをしている」

「ピラミッドですわ。食後の知的遊戯として、わたくしの習慣でしてよ」

「食後って……あんなもので足りるのか?」

「ええ、質素ではありますが、味は悪くありませんでしたわよ。特に干し肉、なかなかの歯ごたえでして」

あっけらかんとした笑顔に、監視長は頭痛を覚えた。  
先ほど配膳した食事は、黒パンと冷めた豆スープのみ。それを「なかなか」と言い切る囚人は、彼の十年以上の監視経験で初めてだった。

「……なあ。お前、本当に囚人か?」

「まあ、形式上はそうなるのかもしれませんわね。ところで、少しだけお時間、頂けます?」

「……あ?」

「わたくし、大富豪という遊びが大好きでして。けれどここでは誰も相手をしてくれませんの。監視長さま、お手をお貸しいただけませんか?」

「冗談じゃない。俺は仕事中だ」

「まあ残念。わたくし、一度も大富豪で負けたことがないのですけれど」

「……」

その一言が、地雷だった。

「……やってやろうじゃねぇか。その自信、叩き潰してやるよ」



一時間後。

「革命されてる!? ってまたお前かよ!」

「革命返しですわ。……あら、まだ四枚残っておられますの?」

「ぐぬぬぬ……」

その場にトランプの山が積まれ、牢内の石台は完全にゲームテーブルと化していた。

「階段下りても負け……スペ三返されても負け……ちくしょう……!」

完全に火がついた監視長は、唸りながら札を切っていたが――

「……監視長? なにやってるんですか」

不意に背後から声がした。振り返ると、そこには若い監視官が目を丸くして立っていた。

「ち、違う! これは尋問の一環で――!」

牢の中に、再び笑いと嘆きが響いた。

こうしてルゥナ=フェリシェは、地下牢という閉ざされた空間ですら、自分のペースに引き込み、監視官すら巻き込んでいくのだった。
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