悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

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25話

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「だから君は、いつも僕の立場を考えずに……!」

「考えておりますわ! ですが、貴方が少しも私の話を聞かないから……!」

帝都近郊の石畳の通り。  
早朝の光の下、身なりの整った騎士と、美しいドレスの令嬢が、人目もはばからず言い争っていた。

険しい表情のまま歩き出そうとする騎士。  
その手が、令嬢の婚約指輪にかかるその瞬間――

「まぁまぁ。落ち着いて深呼吸なさいませ」

突然、ふわりと割って入った人物がいた。  
花かごを抱え、猫を腕に乗せたひとりの令嬢。  
白と薄桃色の花冠を頭に載せた、どこか浮世離れしたその存在――

「お、お嬢様、こちらは……!」

「あら、通りすがりですのよ? おふたりの言葉があまりにも春風より激しくて、つい」

ルゥナ=フェリシェは微笑みながら、足元に咲いていた小さな白い花を摘み取った。

「このお花、ミルリーフと申しますの。花言葉は――“信じて待つ”」

彼女はその花を令嬢の手にそっと乗せた。

「今、必要なのは怒りではなく、“待つこと”なのかもしれませんわね」

そう言って、再び猫を撫でながら立ち去ろうとした、その後ろ姿に――

「……待ってください!」

騎士が、叫んだ。

「僕は……僕は、君の気持ちを疑っていたのかもしれない。信じることが、できなくなっていた……!」

「……わたくしも、貴方の言葉が足りないと責めてばかりで……」

ふたりは目を見合わせ、ほどけていた手が再び結ばれた。

「……ありがとうございます。あなたのおかげです」

令嬢が頭を下げたときには、ルゥナはもう別の通りへと歩き出していた。

「お礼? いえ、わたくし、ただ花言葉をお伝えしただけですのよ?」

猫が「にゃあ」と鳴く。

「ふふ、そうですわね。今日も良き散歩でございました」

その一部始終を、近くで観察していた書記官が震える手で記録を取り始めた。

【帝都通りにて、“婚約破棄未遂”が発生】  
【謎の花冠令嬢、奇跡の一言で和解を導く】  
【その名は、“恋の巫女”――またひとつ、伝説が増えました】

街ではその日から、「花言葉を授けてくれる旅の貴婦人」の話が広まり始める。  
本当の奇跡は、何もせずに起きることなのだと、誰もが信じたくなるほどに。

ルゥナ本人は、道端に咲いた新しい花を見て、のんびり呟く。

「この子の言葉は何でしょう……“心に春を”かしら? ふふ、どれも素敵ですわね」
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