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28話
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「……あら、こんなところにハンカチを落としている方が」
帝都西の石畳通り、噴水広場の片隅。
ルゥナ=フェリシェは風に舞うように落ちていた白い布に気づき、しゃがみ込んで手を伸ばした。
その下に、光が一瞬だけ鋭く反射する。
「……ん?」
ちょうどそのとき、彼女の猫が「にゃあ」と鳴きながら足元を横切り――
その拍子にルゥナの足がもつれた。
ふらりと前につんのめり、体勢を崩す。
「あら、まあ――」
転びかけた身体が軽くひねられ、ドレスの裾が風を巻き起こす。
その足先が――
ハンカチの下に潜んでいた毒針付きの短剣を握る男の手元を、正確に蹴り上げた。
「ぐぼっ!」
叫びを上げ、何かを取り落としてそのまま気絶する黒衣の男。
人々の視線が集中する中、ルゥナは倒れた体勢から、自然にすとんと腰を下ろし、そっと拾い上げる。
「……このハンカチ、刺繍も丁寧ですわね。落とし主の方にお返ししなくては」
周囲、沈黙。
そして次の瞬間――
「今のは……!」
「毒針を見抜いた上での回避か!?」
「いや、あれは“風”が知らせたのでは……!」
「待って、今の体勢……暗殺を跳ね返す“聖なる転身”の型と一致してる……!」
一人、また一人と騒ぎ出す通行人たち。
中には刺客の正体を知る者もいたようで、その名を聞いた人々は口々に呟き始めた。
「帝都の裏通りで名を馳せた影の処刑人……」
「一度も顔を見られたことがない幻の殺し屋……」
「それが……“花摘み”の途中で無力化されたと……?」
「……また一つ、伝説が増えたな……」
その中心で、ルゥナは落としたハンカチをきちんと畳み、帽子の下で首を傾げていた。
「……皆さま、どうかなさいましたの? 刺繍にご興味でも?」
誰かがその姿を“無垢なる審判者”と呼び、
誰かが“導きの偶然”と記録し、
さらに誰かが“彼女が通ると罪が暴かれる”という新たな風説を広め始める。
そして、その日以降。
帝都の闇の住人たちは、ひとつの新しい戒律を囁き始めた。
『白い猫と花の香りがしたら、近づくな――“神が歩く”のだから』
ルゥナ本人は、その翌日もまた、ハーブを摘みに郊外へ出かけていた。
「昨日はにぎやかでしたわね。今日は、もう少し静かな場所がよろしゅうございますわ」
ただそれだけの、“日常の選択”。
だが、その足取りがまた、知らぬ誰かを救い出すのだった。
帝都西の石畳通り、噴水広場の片隅。
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「あら、まあ――」
転びかけた身体が軽くひねられ、ドレスの裾が風を巻き起こす。
その足先が――
ハンカチの下に潜んでいた毒針付きの短剣を握る男の手元を、正確に蹴り上げた。
「ぐぼっ!」
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「待って、今の体勢……暗殺を跳ね返す“聖なる転身”の型と一致してる……!」
一人、また一人と騒ぎ出す通行人たち。
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「それが……“花摘み”の途中で無力化されたと……?」
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そして、その日以降。
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だが、その足取りがまた、知らぬ誰かを救い出すのだった。
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