悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

文字の大きさ
28 / 70

29話

しおりを挟む
「ねぇ、知ってる? 最近、帝都に現れる“風の巫女”の話……!」

「ええ、“神の旅人”とも、“迷い姫”とも呼ばれてるらしいわ。  
歩くだけで花が咲いて、盗賊が改心して、落ち込んだ兵士が笑顔になるんですって」

「この前なんか、舞踏会の主賓になったって……しかも迷い込んだだけで!」

「婚約破棄寸前の貴族の恋仲を救ったって話も聞いたわ。たった一言で……“信じて待つ”、だっけ?」

「聞いた聞いた。市場では、彼女が一度通った店が三日連続で大繁盛だったとか……!」

「牢屋の看守が結婚式で泣きながら感謝したって噂もあるわね。  
あと、猫を肩に乗せているってところも、“神獣を連れた聖者”っぽくて最高!」

そんな声が、今、帝都中のあちこちでささやかれていた。  
貴族の社交界から、下町の露店まで、皆が口々に語る“謎の令嬢”。

誰も名前を知らず、誰も彼女の素性を知らない。

ただ、白い日傘と花の香りと、猫の鳴き声を思い出す。

「神の使いか、はたまた伝説の聖女か……いずれにしても、我が家の前も通ってほしいものだな」

「風が吹けば、彼女が来ると……」

そして、いつしか帝国の新聞には、こう記されるようになった。

【“神の旅人”ルゥナ・フェリシェ嬢、次はどこへ向かわれるのか】  
【民衆の祈りと共に動く“風”の行方を追う】

しかし、当の本人は――

「……道が分かれましたわね。右か左か……いえ、風が左へ吹いておりますわ。そちらへまいりましょう」

地図も持たず、案内もなく、ただ“風”の向くままに歩いていただけだった。

「猫さん、今日はどんな方と出会えるかしら。楽しみですわね」

その柔らかな声に、猫が小さく鳴いて応える。  
彼女の歩いた後に、誰かの笑顔と、ほんの少しの希望が残る。

けれど――

その足取りが、ただの迷子の旅路であると知っている者は、未だ誰ひとりとして存在しなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊
恋愛
病弱な王女として生きてきたけれど、実は転生者。 この世界は、私が前世で読んだ小説の中――そして、弟こそが私の“推し”だった。 本来なら、彼は若くして裏切られ、命を落とす未来。 そんなの、見過ごせるわけない。 病弱を装いながら、私は政敵を操り、戦争を避け、弟の道を整えていく。 そして、弟が王になった時。 「姉さんは、ずっと僕のそばにいて」 囲われることも、支配されることも、甘い囁きも……本望だった。 禁忌の距離で紡がれる、姉弟×謀略×溺愛の異世界転生譚。

逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。 なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。 ザル設定のご都合主義です。 最初はほぼ状況説明的文章です・・・

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

団長様、再婚しましょう!~お転婆聖女の無茶苦茶な求婚~

甘寧
恋愛
主人公であるシャルルは、聖女らしからぬ言動を取っては側仕えを困らせていた。 そんなシャルルも、年頃の女性らしく好意を寄せる男性がいる。それが、冷酷無情で他人を寄せ付けない威圧感のある騎士団長のレオナード。 「大人の余裕が素敵」 彼にそんな事を言うのはシャルルだけ。 実は、そんな彼にはリオネルと言う一人息子がいる。だが、彼に妻がいた事を知る者も子供がいたと知る者もいなかった。そんな出生不明のリオネルだが、レオナードの事を父と尊敬し、彼に近付く令嬢は片っ端から潰していくほどのファザコンに育っていた。 ある日、街で攫われそうになったリオネルをシャルルが助けると、リオネルのシャルルを見る目が変わっていき、レオナードとの距離も縮まり始めた。 そんな折、リオネルの母だと言う者が現れ、波乱の予感が……

元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)

モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。 そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!? 「わん!」(なんでよ!) (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

処理中です...