悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

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31話

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「陛下、王国よりの使者が帝都に入ったとの報が入りました」

重厚な扉を開けて告げられた報告に、帝国の文官たちがざわめいた。  
その一団の中でも、ひときわ異彩を放つ男の姿があった。  
凛々しい軍装、整った金茶の髪、鋭くも優しげな眼差し。

ユリウス=フェリシェ。  
王国ベルヴァイン侯爵家の嫡男にして、失踪した妹ルゥナを捜し続ける兄である。

「……この地に、ルゥナがいる。私はそう信じている」

そう告げて帝国入りしたその日から、彼の名は帝都の耳目を引きつけた。  
だが、帝国はすでにひとつの名をめぐって熱を帯びていた。

風の巫女  
祝福の姫  
神の旅人  
迷いの聖女

あらゆる呼び名で語られる、白き日傘を差した令嬢の存在。  
その描写を聞けば聞くほど、ユリウスは確信を深めていく。

――間違いない。ルゥナだ。

彼は各地の村を巡った。  
ある村では、祭壇に立ち花を咲かせた令嬢の話。  
ある村では、魔物を追い払ったとされる姿なき聖女の話。  
さらには、舞踏会の主賓に“なってしまった”令嬢や、牢番の婚礼に“偶然参加した”白衣の旅人まで。

すべてが、妹の行動とは信じがたい……だが、あまりにも彼女らしい。

「ただ花を渡しただけで婚約が修復された、ですって……?」

「偶然転んだら刺客を倒した……? いや、あいつならやりかねない……」

「黒鉄の塔に“花見に訪れた”……塔って、牢獄じゃなかったか?」

記録が多すぎて、本人に会う前にすでに神話と化しつつある現実に、  
ユリウスは額を押さえるしかなかった。

「……どれだけの奇跡を引き起こせば、ようやく戻ってくる気なんだ、ルゥナ」

帝都の風は、まるで彼の肩を優しく撫でるように吹いていた。

その頃、ルゥナ本人はというと。  
郊外の葡萄畑で猫と共に昼寝中だった。

「……兄上、お元気かしら」

風に揺れるブドウの葉が、くすぐるように頬を撫でた。

再会の気配すら、まだ感じぬまま。  
だが、確かに世界は、ふたりを少しずつ近づけ始めていた。
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