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婚約編
68話
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帝都の外縁、南門を抜けた丘陵地に、王国の軍旗が再びはためいた。
先遣隊として現れたのは、正式な外交使節を装った、実質的な“回収部隊”。
その中央にあった一騎の馬が、風を切って帝都を目指していた。
その背には、王国第一王子――レオニス=フォン=シュトラールの姿があった。
かつて、婚約破棄を言い渡そうとした日に、ルゥナ=フェリシェは姿を消した。
王宮は混乱し、貴族たちは狼狽し、彼はただ、言葉を失って立ち尽くした。
だが今、彼の瞳にはかつての余裕も驕りもなかった。
ただ、焦りと後悔を帯びた切実な光だけが宿っていた。
「話さなければ……今度こそ、彼女自身の言葉で、答えを聞かせてほしい」
ルゥナが帝国で“祝福の姫”と呼ばれ、数々の奇跡と称賛を受けていることは報告で知っていた。
それでも、彼の胸にはひとつの甘い幻想が残っていた。
――自分が声をかければ、きっと振り返ってくれるはずだ。
その幻想は、初めて彼女を目にした瞬間、打ち砕かれた。
帝都中央庭園。
風に揺れる花々のなかで、ルゥナは微笑んでいた。
その隣には、リヒャルト=ヴァイスベルクが立っていた。
ただ並んでいるだけ。
ただ静かに、日常のひとときを過ごしているだけ。
なのに、その“隣”にあるものの確かさが、遠くからでも痛いほど伝わってきた。
レオニスは唇をかすかに噛んだ。
そして、ルゥナへと歩み寄る。
「ルゥナ……久しいな。ようやく、こうして向き合える。
君に、直接謝らなければならないことがあるんだ」
その声に、ルゥナはゆっくりと顔を上げた。
目を見開くことも、驚いた表情も浮かべなかった。
ただ、ごく自然に言葉を返す。
「まあ……王子様。やっと真実に気づかれましたの?」
レオニスの目が揺れる。
「わたくしの顔も、姿も、名前も……何もご覧になっておられなかったあなたが。
今さら目を見てくださるなんて、不思議なこともございますのね」
その声は、穏やかで、けれど冷たかった。
責めることも、恨むこともない。
ただ、静かに“終わったもの”として、彼女は受け止めていた。
レオニスは言葉を失い、その場に立ち尽くした。
その背に、帝国の風が吹く。
それは彼を歓迎するものではなく、
もう“戻れない”場所ができたことを、知らしめる風だった。
リヒャルトは、何も言わずにルゥナの隣に立ち続ける。
彼女の言葉に、わずかに目を伏せたその姿が、何より雄弁だった。
“遅すぎた恋”は、何も残さない。
だが、“選ばれた隣”には、確かなぬくもりがあった。
先遣隊として現れたのは、正式な外交使節を装った、実質的な“回収部隊”。
その中央にあった一騎の馬が、風を切って帝都を目指していた。
その背には、王国第一王子――レオニス=フォン=シュトラールの姿があった。
かつて、婚約破棄を言い渡そうとした日に、ルゥナ=フェリシェは姿を消した。
王宮は混乱し、貴族たちは狼狽し、彼はただ、言葉を失って立ち尽くした。
だが今、彼の瞳にはかつての余裕も驕りもなかった。
ただ、焦りと後悔を帯びた切実な光だけが宿っていた。
「話さなければ……今度こそ、彼女自身の言葉で、答えを聞かせてほしい」
ルゥナが帝国で“祝福の姫”と呼ばれ、数々の奇跡と称賛を受けていることは報告で知っていた。
それでも、彼の胸にはひとつの甘い幻想が残っていた。
――自分が声をかければ、きっと振り返ってくれるはずだ。
その幻想は、初めて彼女を目にした瞬間、打ち砕かれた。
帝都中央庭園。
風に揺れる花々のなかで、ルゥナは微笑んでいた。
その隣には、リヒャルト=ヴァイスベルクが立っていた。
ただ並んでいるだけ。
ただ静かに、日常のひとときを過ごしているだけ。
なのに、その“隣”にあるものの確かさが、遠くからでも痛いほど伝わってきた。
レオニスは唇をかすかに噛んだ。
そして、ルゥナへと歩み寄る。
「ルゥナ……久しいな。ようやく、こうして向き合える。
君に、直接謝らなければならないことがあるんだ」
その声に、ルゥナはゆっくりと顔を上げた。
目を見開くことも、驚いた表情も浮かべなかった。
ただ、ごく自然に言葉を返す。
「まあ……王子様。やっと真実に気づかれましたの?」
レオニスの目が揺れる。
「わたくしの顔も、姿も、名前も……何もご覧になっておられなかったあなたが。
今さら目を見てくださるなんて、不思議なこともございますのね」
その声は、穏やかで、けれど冷たかった。
責めることも、恨むこともない。
ただ、静かに“終わったもの”として、彼女は受け止めていた。
レオニスは言葉を失い、その場に立ち尽くした。
その背に、帝国の風が吹く。
それは彼を歓迎するものではなく、
もう“戻れない”場所ができたことを、知らしめる風だった。
リヒャルトは、何も言わずにルゥナの隣に立ち続ける。
彼女の言葉に、わずかに目を伏せたその姿が、何より雄弁だった。
“遅すぎた恋”は、何も残さない。
だが、“選ばれた隣”には、確かなぬくもりがあった。
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