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婚約編
70話
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春の陽が満ちる帝都の中央広場。
昨日までの騒ぎがまるで幻だったかのように、風は柔らかく、空は高く澄んでいた。
けれど、そこに集う誰もが知っていた――今日は、特別な日だと。
広場には花が敷き詰められ、音楽が流れ、人々の視線はひとつの場所に注がれていた。
その中心、緋色の絨毯を歩くのは、白きドレスに身を包んだ令嬢。
――ルゥナ=フェリシェ。
その歩みは迷いなく、まっすぐに“隣にいてほしいと願った人”のもとへ向かっていた。
騎士団長リヒャルト=ヴァイスベルクは、変わらぬ無表情のまま、
だが確かに、彼女の歩みに応えるように、そこで静かに待っていた。
群衆が息を呑む中、ルゥナは彼の前に立ち、
いつものように、けれど今までとは違う声音で言葉を紡ぐ。
「リヒャルト様。あなたが、わたくしの隣を望んでくださるなら……」
一歩、彼に近づく。
「――では、わたくしの隣に、どうぞ」
その瞬間、風が広場を吹き抜けた。
誰もが思った。
ああ、この風は、祝福の風だと。
リヒャルトは言葉を持たなかった。
だが、彼はゆっくりとルゥナの手を取る。
これまでどんな戦場でも抜かれなかったその手が、いま、ただひとりのために伸ばされた。
ルゥナはその手を優しく握り返し、
初めて、自分からその名を呼んだ。
「リヒャルト様」
その声に、彼の瞳がわずかに揺れた。
そして、微かに、確かに――口元が緩む。
帝都の空に歓声が沸き上がる。
民が手を打ち、花びらが舞い、楽団の音色が高らかに鳴り響く。
猫が足元でくるりと回り、
皇帝は満足げに頷き、
空には、どこまでも穏やかな春風が吹いていた。
ルゥナ=フェリシェとリヒャルト=ヴァイスベルク。
出会いは偶然、歩みは風任せ。
けれど今、二人は“自らの意志で”隣に立つ。
これは終わりではない。
新たな“未来”のはじまり。
そしてその隣には、いつも――
やさしい風が、そっと吹いている。
昨日までの騒ぎがまるで幻だったかのように、風は柔らかく、空は高く澄んでいた。
けれど、そこに集う誰もが知っていた――今日は、特別な日だと。
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その中心、緋色の絨毯を歩くのは、白きドレスに身を包んだ令嬢。
――ルゥナ=フェリシェ。
その歩みは迷いなく、まっすぐに“隣にいてほしいと願った人”のもとへ向かっていた。
騎士団長リヒャルト=ヴァイスベルクは、変わらぬ無表情のまま、
だが確かに、彼女の歩みに応えるように、そこで静かに待っていた。
群衆が息を呑む中、ルゥナは彼の前に立ち、
いつものように、けれど今までとは違う声音で言葉を紡ぐ。
「リヒャルト様。あなたが、わたくしの隣を望んでくださるなら……」
一歩、彼に近づく。
「――では、わたくしの隣に、どうぞ」
その瞬間、風が広場を吹き抜けた。
誰もが思った。
ああ、この風は、祝福の風だと。
リヒャルトは言葉を持たなかった。
だが、彼はゆっくりとルゥナの手を取る。
これまでどんな戦場でも抜かれなかったその手が、いま、ただひとりのために伸ばされた。
ルゥナはその手を優しく握り返し、
初めて、自分からその名を呼んだ。
「リヒャルト様」
その声に、彼の瞳がわずかに揺れた。
そして、微かに、確かに――口元が緩む。
帝都の空に歓声が沸き上がる。
民が手を打ち、花びらが舞い、楽団の音色が高らかに鳴り響く。
猫が足元でくるりと回り、
皇帝は満足げに頷き、
空には、どこまでも穏やかな春風が吹いていた。
ルゥナ=フェリシェとリヒャルト=ヴァイスベルク。
出会いは偶然、歩みは風任せ。
けれど今、二人は“自らの意志で”隣に立つ。
これは終わりではない。
新たな“未来”のはじまり。
そしてその隣には、いつも――
やさしい風が、そっと吹いている。
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