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第三話 天才美人作家・小笠原桃子の災難
②
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……午後…喫茶店風の声……
縁と桃子は大学をあとにし、昼食をしに喫茶店風の声に来ていた。
縁はナポリタンを食べながら、巧から借りたノートPCで何かを調べている。
隣にいる桃子はオムライスを食べながら、縁に言った。
「さっきから何をしている?」
「ネットで桃子さんに関する事を調べている……」
桃子は少し嬉しそうに言った。
「私ってそんなに有名なのか?」
「テレビに出た位だからなぁ……それにファンも多いみたいだから……」
桃子の表情は緩んでいた。
「それで何を調べている?」
縁は桃子の表情を見て言った。
「しまりがねぇぞ……。まぁ、桃子さんは有名で、ファンもそれなりにいるから……専用の掲示板があると思ってさ……」
桃子は感心した。
「そんな物があるのか……」
「うん……案の定あったよ……『小笠原桃子の板』ってサイトが……」
巧が興味津々で言った。
「どんなサイトだよ?」
縁は言った。
「至って普通の掲示板だよ……良い事も悪い事も書いてある……。まぁ、本人は見ない方がいいよ……」
桃子は言った。
「私の悪口が書いてあるのか?」
縁は言った。
「まぁ、有名人の宿命だよ……」
巧も言った。
「そうだな……有名人の誹謗中傷は、今の世の中じゃ、当たり前だよ……」
桃子は言った。
「そうなのか?」
縁は言った。
「確かに悪意しかない書き込みもあるけど……それは一部だよ。大半は作品に関する賛否や、桃子さんのルックスに対する評価だね……」
桃子は言った。
「あまりいい気分ではない……。で、縁はそれで何を調べてるんだ?」
縁は言った。
「その手紙を送った人物を探してる……」
桃子は驚いた様子で言った。
「わかるのかっ?」
「う~ん……わかんないけど、手掛かりはあると思うよ……」
巧が言った。
「アクセスは全国だろ?数が多すぎるぞ……」
縁は言った。
「絞り混むさ……まずこの手紙、切手は付いてなかったんだよね?」
縁が手紙をヒラヒラさせると、桃子は言った。
「ああ……封筒にも入ってなく、そのままポストに入ってた」
「て、事は……この辺の人間って事だ。それに、この『モモタン』って言う、桃子さんの呼び方……特徴的だ」
縁は掲示板を見ながら言った。
「この掲示板の大半が『桃子様』『桃ちゃん』って呼び方だ……」
巧は縁に言った。
「確かに特徴的な呼び方だけど……そいつがこの掲示板にいるとは限らないぜ……」
縁は言った。
「いや、必ずいる……ストーカーするくらいのファンだ……そんなファンが応援サイトにいないはずが無いよ……自分しか発信できない情報で、他より優越感を得るために……」
桃子が言った。
「それで、『モモタン』を使っている者はいるのか?」
縁は頷いた。
「いるよ……100人程……」
桃子と巧は声を揃えた。
「ひゃ、100人っ!?」
縁は淡々と言った。
「当たり前だろ……何人のユーザーがいると思ってんだ?100人ぐらい普通にいるよ……」
桃子が言った。
「まさか……それを一人づつ当たるのか?」
縁は呆れ気味に言った。
「んなわけねぇだろ……。そんな事やってたら、イベントの日に間に合わないよ……」
巧が言った。
「どうすんの?」
「有村さんに頼んで、発信源を調べてもらう……それで、この辺から発信された物を当たるわけ……」
桃子が言った。
「なるほど……」
「そう言う事だから……今『モモタン』を使っているハンドルネームのリストアップをしている。それをUSBに保存して、俺のPCから有村さんにメールする」
巧が言った。
「いいのか?警視さんに借作って……」
縁は言った。
「この間から借を作りっぱなしだけど……仕方ないよ……。こっから先、俺にはどうにも出来ない……時間もないからね」
桃子は頬を少し紅くし……感動した。
「縁……お前というやつは……そんなにも私の事を……」
縁は少し照れながら言った。
「な、何だよ……まぁ、なんだ……変態野郎を放っておくわけにもいかないからな……」
巧は少し縁を冷やかした。
「照れてるよ、こいつ……まだまだガキだな……」
縁は言った。
「うるせぇよっ!」
……夕方…新井場邸……
喫茶店風の声から、新井場邸に帰ってきた二人は、リビングで寛いでいた。
縁は言った。
「有村さんが調べてくれるみたいだから……連絡待ちだな……」
桃子は言った。
「間に合うといいが……」
「それは大丈夫だよ……日本の警察は凄いから……。それより、ストーカーが特定出来たらどうするの?」
桃子は不適な笑みをして言った。
「ただではすまさん……」
縁は恐怖した。
「ま、間違っても……殺すなよ……」
「心配するな……乗り込んで、真意を確かめるだけだ……」
「今、ただではすまさんって……」
「冗談だ……」
縁と桃子はこれで事件は解決すると思っていた。
しかし、翌朝事態は急変する。
……翌朝…新井場邸……
縁の母は正門にあるポストに手を伸ばし、新聞やチラシなどを取り出した。
新聞やチラシの束から、白い封筒がポロリと地面に落ちた。
「あらあら……落としちゃった……」
縁の母は落ちた封筒を拾った。
「何かしら?……あら、縁宛だわ……」
封筒には『縁君へ』とだけ、書いてあった。
家に戻った母は縁に封筒を渡した。
縁は母から受け取った封筒を確認した。
「切手は……付いてない……送り主も不明……」
縁は封筒の中身を確認するため、開けようとしたら、リビングに桃子がやって来た。
桃子はまだ眠たそうな表情だ。
「おはよう……何だそれは?」
桃子は縁が持っている封筒を指差した。
「さぁ……今、中身を確認しようとしてたんだ……」
縁はそう言うと、封筒の中身を確認し、入っていた紙切れを取り出した。
紙は4つ折にされていて、縁はそれを開いた。
縁は内容を見て、目を見開き言った。
「厄介な事になった……」
桃子は縁の様子を見て言った。
「どうした?」
縁は桃子に紙切れを渡した。
桃子は内容を確認した。
桃子も縁と同様、目を見開いた。
紙切れは手紙で、内容は『モモタンは裏切り者だ…イベントを中止するつもりも無く…あげくにそんなガキを引き連れて…君には失望した…。そのガキと別れて、イベントを中止しなければ…』
桃子は最後の一文を読んだ。
「『僕は死ぬ…』」
縁は言った。
「面倒な事になった……」
桃子は言った。
「放っておけばいいではないか……」
「バカ……そんなわけにもいかない……。とにかく有村さんに連絡をする」
縁はスマホで有村に連絡を入れた。
「あっ、有村さん?俺……縁……実は……」
縁は手紙の内容を有村に説明した。
有村との電話を終えて、縁は言った。
「とにかく、ストーカーの特定を急がないといけない……有村さんからは、昨日頼んでおいた事の返信メールがもうすぐ届く……」
桃子は言った。
「もうわかったのか?」
「ああ……昨晩のうちにわかっていたようだよ……」
桃子は感心した。
「日本の警察も捨てたもんじゃないな……」
縁は言った。
「俺の家に手紙が届いたと言う事は……ストーカーは、桃子さんが俺の家で寝泊まりしてる事を知っている……」
桃子は言った。
「つけられているだから、知ってるだろ……」
縁はスッキリしない表情だ。
「確かにそうなんだけど……」
縁はどこか引っ掛かっていた。
ストーカーは性質上、相手が自分の事を愛していると思い込んでいる傾向がある。
昨日部員達が言っていたように、待ち伏せをしたりして、自分の存在を相手に認識させる事も行う。
しかし、縁と桃子はつけられているのに気付かなかった。
すなわちそれは、自分の存在を隠すことに比重を置き、こちらの行動を監視するのを目的にしているようで、性質が異なる。
そして有村からのメールを待つ事一時間……ようやく縁のスマホにメールが届いた。
縁はすぐさまメールを開いた。
縁はそれを確認して言った。
「該当者は3名……百合根町南と、東に、北……ここから一番近いのは、南だ……」
桃子は言った。
「とにかく行くしかない……」
縁は言った。
「この手紙が届いたのは……おそらく深夜……。今は午前11時……間に合うか?」
二人は新井場邸から一番近い、百合根町南へ向かった。
二人は桃子の車に乗り込み、縁はカーナビに、メールに記載されている住所を入力した。
桃子は言った。
「なんてやつだ?」
縁は言った。
「熊川徹也……30歳のアルバイト店員だ」
桃子は感心した。
「凄いな、日本の警察は……」
二人は熊川の自宅へ向かった。
少し車を走らせると、カーナビが目的地付近に到着した事を、二人に伝えた。
二人は適当な場所に車を駐車させた。
車を降りた縁は前方を指差して、言った。
「桃子さん……あのアパートだ……」
縁の指差す方向に、古い2階建てのアパートがあった。
「あそこの103号室だと思うよ……」
縁がそう言うと、二人はアパートに向かった。
アパートの103号室には『熊川』と書かれた、安っぽい表札があった。
「ここだ……」
縁はそう言うと、ドアをノックした。
しばらくすると、ドアが開き無精髭でパジャマ姿の男が出て来た。
男は言った。
「誰だ?」
縁は言った。
「熊川徹也さんですね?」
「そうだけど……うん?あっ、あなたは……」
熊川は縁の後ろに立っている桃子に気付いたようで、目を輝かせている。
「嘘だろ?モモタン……」
感激のあまりやっと絞り出した言葉が『モモタン』だった。
桃子は熊川を睨み付けた。
「貴様か?私をつきまとっていたのは……」
熊川は何の事かわからないと、いった表情だ。
「つきまとう?僕が?モモタンに?」
桃子は激昂した。
「貴様っ!しらばっくれるなっ!それと、そのモモタンはやめろっ!」
桃子の様子に熊川は怯えだした。
「ヒッ、ヒィーッ!で、でも憧れのモモタンに怒られてるっ!」
どうやら熊川は色々な感情が入り交じっているようだ。
縁は桃子を抑えた。
「ちょっ……桃子さんっ!落ち着いて……まだこの人だって決まったわけじゃ……」
桃子の怒りは収まらないようだ。
「離せ、縁っ!こいつがやったに決まっている……この顔はやってる顔だ」
ひどい決めつけだ。
そんな縁と桃子の様子を見て、熊川は言った。
「さっきから何の話を?」
桃子は言った。
「貴様が怪文書を私と縁の家に、送ってきたんだろっ!」
「あの~、さっぱりわからないんですけど……」
「貴様ーっ!」
縁は言った。
「待てって、桃子さん……。とにかく話を聞かないと、あと2件もあるんだぞ……」
桃子は怒りを堪えた。
「くっ!わかった……」
縁は言った。
「すみません……少し聞きたいことがあって……」
縁は手紙の事とイベントの事を熊川に聞いた。
熊川は言った。
「そんな事するわけないじゃないですかぁ……それに、僕……明後日のイベント楽しみにしてるんですよっ!中止なんてされたら、たまったもんじゃない……」
縁は言った。
「では昨晩はどちらに?」
「昨日は夜勤で、この先のコンビニでレジしてましたよ……疑うのなら店に聞いて下さいよ……」
桃子は言った。
「貴様、嘘はないな?」
「僕がモモタンに嘘をつくはずないですよ……」
桃子はまた怒った。
「貴様……まだモモタンと言うかっ!」
熊川はまたまた怯えだした。
「すっ、すみませんっ!でも怒られてる……感激だ……」
熊川はそうとう屈折している。
縁は桃子に言った。
「桃子さん……次へ行こう……」
すると熊川は縁に食って掛かった。
「君はモモタンの何なんだっ!?」
急な逆質問に縁は戸惑った。
「へっ?何なんだって……」
桃子は熊川に言った。
「縁は私の大事な人間だっ!」
熊川は仰天した。
桃子は縁に言った。
「行くぞ、縁……」
「おっ、おう……」
熊川は二人の後ろ姿に向かって、叫んだ。
「くやし~っ!あんなガキにぃ~っ!でも、サイン会には行くから~っ!」
縁は熊川の声を聞かないために、耳を塞いだ。
二人が次に向かった先は百合根町東……該当者は村山潤……20歳の大学生だ。
ナビに従い車を走らせると、一軒家の並ぶ住宅地に出た。
やがてカーナビに目的地に到着した事を伝えられ、二人は車を降りた。
村山潤の家は2階建ての一軒家だった。
どうやら実家暮らしのようだ。
縁は表札を確認した。表札には『村山』と記載されていた。
縁はインターフォンを押した。
するとインターフォン越しに声がした。
「はい?」
女性の声だ。
縁は答えた。
「新井場と言いますが……潤さんは?」
「少々お待ち下さい……」
しばらくすると、玄関のドアが開き、人が出てきた。
縁は少し驚いて言った。
「あなたが……潤さん?」
村山潤は髪の長い……女性だった。縁は名前で村山潤を男だと思ったようだ。
「誰?君………あっ!」
村山は熊川の時と同様に、縁の後ろにいる桃子に気付いた。
「うそぉっ!モモタンだっ!」
「またモモタンか……」
そう言って桃子は頭を抱えた。
縁は言った。
「仕方ないよ……モモタンで絞ったんだから……」
村山は興奮気味に言った。
「何でモモタンが家に?それにこの子スッゴい格好いいっ!」
桃子は怒りで震えている。
縁は言った。
「桃子さん……抑えて……。あの~、村山さん……聞きたい事が?」
「何、何?」
縁は熊川の時と同様に説明した。
村山は笑って答えた。
「ははは……そんなわけないじゃんっ!そんなに暇じゃないし……それに、サイン会を楽しみにしてんのよっ!……。そんな事より君いくつ?彼女は?モモタンとどういう関係?」
縁は村山からの逆質問攻めに、困っている。
桃子は村山を睨み付けて言った。
「貴様……質問しているのはこっちだぞっ!」
桃子の怒号に村山は背筋を伸ばした。
「はっ、はいっ!すみませんっ!」
桃子は言った。
「貴様……嘘は付いてないだろうな?」
「うっ、嘘なんて……そんな……モモタンに……」
桃子は激昂した。
「モモタンと、言うなっ!!」
「はっ、はいっ!すみませんっ!桃子様っ!」
縁は頭を抱えた。
「こんなやつばっかかよ……」
村山は言った。
「昨日はずっと家にいました……母に聞いてもらえばわかりますっ!」
桃子は言った。
「本当だろうな?」
「天地天命に誓い、嘘はついておりませんっ!」
縁は言った。
「桃子さん……もう行こう……」
そう言うと縁は車に向かった。
桃子は去り際に、村山に言った。
「私のファンなのは感謝するが……縁に色目を使うなよ……」
桃子はそう言うと縁の後を追った。
村山は呟いた。
「美男美女……格好いい……」
二人が最後に向かった先は百合根町北……該当者は立花祐也……21歳学生だ。
運転をしながら桃子は言った。
「次が最後か……」
「そうだ……最後になっちまった……」
「だいぶ、時間をロスしたな……」
「あの手紙がはったりである事を祈るよ……」
二人を乗せた車は、やがて古いアパートに到着した。
百合根町の端の方で、民家は点々とあるくらいで数は少ない……。
それに辺りには畑などが広がっており、人気もあまり無い。
縁は言った。
「このアパートの102号室だ」
縁はドアの前に立ち、確認した。
表札には『立花』とあり、インターフォンはない。
縁は一応警戒をしてノックをした。
しかし、反応は無い。縁はもう一度ノックをしたが、やはり反応は無かった。
縁は嫌な予感がした。
桃子にも先程の怒りの表情は無く、緊張感のある表情になっていた。
相手がノックを警戒しているのか?……それとも……はったりでは無く、すでに自殺を?……それともただ外出しているだけか?……などと、様々な可能性を縁は考えた。
縁はドアノブに手を掛けた。
鍵は……開いている……。
縁は桃子を見た。桃子は黙って頷いてる。
そして縁は意を決して、ドア開けた。
開けた瞬間だった……物凄い臭いが鼻を刺した……。この臭いは……知っている。
縁はゆっくりとドアを開き、部屋の奥を見た。
視線の先には、その匂いの元があった。
それは……黒い服を身に纏った……。首吊り死体だった……。
縁と桃子は大学をあとにし、昼食をしに喫茶店風の声に来ていた。
縁はナポリタンを食べながら、巧から借りたノートPCで何かを調べている。
隣にいる桃子はオムライスを食べながら、縁に言った。
「さっきから何をしている?」
「ネットで桃子さんに関する事を調べている……」
桃子は少し嬉しそうに言った。
「私ってそんなに有名なのか?」
「テレビに出た位だからなぁ……それにファンも多いみたいだから……」
桃子の表情は緩んでいた。
「それで何を調べている?」
縁は桃子の表情を見て言った。
「しまりがねぇぞ……。まぁ、桃子さんは有名で、ファンもそれなりにいるから……専用の掲示板があると思ってさ……」
桃子は感心した。
「そんな物があるのか……」
「うん……案の定あったよ……『小笠原桃子の板』ってサイトが……」
巧が興味津々で言った。
「どんなサイトだよ?」
縁は言った。
「至って普通の掲示板だよ……良い事も悪い事も書いてある……。まぁ、本人は見ない方がいいよ……」
桃子は言った。
「私の悪口が書いてあるのか?」
縁は言った。
「まぁ、有名人の宿命だよ……」
巧も言った。
「そうだな……有名人の誹謗中傷は、今の世の中じゃ、当たり前だよ……」
桃子は言った。
「そうなのか?」
縁は言った。
「確かに悪意しかない書き込みもあるけど……それは一部だよ。大半は作品に関する賛否や、桃子さんのルックスに対する評価だね……」
桃子は言った。
「あまりいい気分ではない……。で、縁はそれで何を調べてるんだ?」
縁は言った。
「その手紙を送った人物を探してる……」
桃子は驚いた様子で言った。
「わかるのかっ?」
「う~ん……わかんないけど、手掛かりはあると思うよ……」
巧が言った。
「アクセスは全国だろ?数が多すぎるぞ……」
縁は言った。
「絞り混むさ……まずこの手紙、切手は付いてなかったんだよね?」
縁が手紙をヒラヒラさせると、桃子は言った。
「ああ……封筒にも入ってなく、そのままポストに入ってた」
「て、事は……この辺の人間って事だ。それに、この『モモタン』って言う、桃子さんの呼び方……特徴的だ」
縁は掲示板を見ながら言った。
「この掲示板の大半が『桃子様』『桃ちゃん』って呼び方だ……」
巧は縁に言った。
「確かに特徴的な呼び方だけど……そいつがこの掲示板にいるとは限らないぜ……」
縁は言った。
「いや、必ずいる……ストーカーするくらいのファンだ……そんなファンが応援サイトにいないはずが無いよ……自分しか発信できない情報で、他より優越感を得るために……」
桃子が言った。
「それで、『モモタン』を使っている者はいるのか?」
縁は頷いた。
「いるよ……100人程……」
桃子と巧は声を揃えた。
「ひゃ、100人っ!?」
縁は淡々と言った。
「当たり前だろ……何人のユーザーがいると思ってんだ?100人ぐらい普通にいるよ……」
桃子が言った。
「まさか……それを一人づつ当たるのか?」
縁は呆れ気味に言った。
「んなわけねぇだろ……。そんな事やってたら、イベントの日に間に合わないよ……」
巧が言った。
「どうすんの?」
「有村さんに頼んで、発信源を調べてもらう……それで、この辺から発信された物を当たるわけ……」
桃子が言った。
「なるほど……」
「そう言う事だから……今『モモタン』を使っているハンドルネームのリストアップをしている。それをUSBに保存して、俺のPCから有村さんにメールする」
巧が言った。
「いいのか?警視さんに借作って……」
縁は言った。
「この間から借を作りっぱなしだけど……仕方ないよ……。こっから先、俺にはどうにも出来ない……時間もないからね」
桃子は頬を少し紅くし……感動した。
「縁……お前というやつは……そんなにも私の事を……」
縁は少し照れながら言った。
「な、何だよ……まぁ、なんだ……変態野郎を放っておくわけにもいかないからな……」
巧は少し縁を冷やかした。
「照れてるよ、こいつ……まだまだガキだな……」
縁は言った。
「うるせぇよっ!」
……夕方…新井場邸……
喫茶店風の声から、新井場邸に帰ってきた二人は、リビングで寛いでいた。
縁は言った。
「有村さんが調べてくれるみたいだから……連絡待ちだな……」
桃子は言った。
「間に合うといいが……」
「それは大丈夫だよ……日本の警察は凄いから……。それより、ストーカーが特定出来たらどうするの?」
桃子は不適な笑みをして言った。
「ただではすまさん……」
縁は恐怖した。
「ま、間違っても……殺すなよ……」
「心配するな……乗り込んで、真意を確かめるだけだ……」
「今、ただではすまさんって……」
「冗談だ……」
縁と桃子はこれで事件は解決すると思っていた。
しかし、翌朝事態は急変する。
……翌朝…新井場邸……
縁の母は正門にあるポストに手を伸ばし、新聞やチラシなどを取り出した。
新聞やチラシの束から、白い封筒がポロリと地面に落ちた。
「あらあら……落としちゃった……」
縁の母は落ちた封筒を拾った。
「何かしら?……あら、縁宛だわ……」
封筒には『縁君へ』とだけ、書いてあった。
家に戻った母は縁に封筒を渡した。
縁は母から受け取った封筒を確認した。
「切手は……付いてない……送り主も不明……」
縁は封筒の中身を確認するため、開けようとしたら、リビングに桃子がやって来た。
桃子はまだ眠たそうな表情だ。
「おはよう……何だそれは?」
桃子は縁が持っている封筒を指差した。
「さぁ……今、中身を確認しようとしてたんだ……」
縁はそう言うと、封筒の中身を確認し、入っていた紙切れを取り出した。
紙は4つ折にされていて、縁はそれを開いた。
縁は内容を見て、目を見開き言った。
「厄介な事になった……」
桃子は縁の様子を見て言った。
「どうした?」
縁は桃子に紙切れを渡した。
桃子は内容を確認した。
桃子も縁と同様、目を見開いた。
紙切れは手紙で、内容は『モモタンは裏切り者だ…イベントを中止するつもりも無く…あげくにそんなガキを引き連れて…君には失望した…。そのガキと別れて、イベントを中止しなければ…』
桃子は最後の一文を読んだ。
「『僕は死ぬ…』」
縁は言った。
「面倒な事になった……」
桃子は言った。
「放っておけばいいではないか……」
「バカ……そんなわけにもいかない……。とにかく有村さんに連絡をする」
縁はスマホで有村に連絡を入れた。
「あっ、有村さん?俺……縁……実は……」
縁は手紙の内容を有村に説明した。
有村との電話を終えて、縁は言った。
「とにかく、ストーカーの特定を急がないといけない……有村さんからは、昨日頼んでおいた事の返信メールがもうすぐ届く……」
桃子は言った。
「もうわかったのか?」
「ああ……昨晩のうちにわかっていたようだよ……」
桃子は感心した。
「日本の警察も捨てたもんじゃないな……」
縁は言った。
「俺の家に手紙が届いたと言う事は……ストーカーは、桃子さんが俺の家で寝泊まりしてる事を知っている……」
桃子は言った。
「つけられているだから、知ってるだろ……」
縁はスッキリしない表情だ。
「確かにそうなんだけど……」
縁はどこか引っ掛かっていた。
ストーカーは性質上、相手が自分の事を愛していると思い込んでいる傾向がある。
昨日部員達が言っていたように、待ち伏せをしたりして、自分の存在を相手に認識させる事も行う。
しかし、縁と桃子はつけられているのに気付かなかった。
すなわちそれは、自分の存在を隠すことに比重を置き、こちらの行動を監視するのを目的にしているようで、性質が異なる。
そして有村からのメールを待つ事一時間……ようやく縁のスマホにメールが届いた。
縁はすぐさまメールを開いた。
縁はそれを確認して言った。
「該当者は3名……百合根町南と、東に、北……ここから一番近いのは、南だ……」
桃子は言った。
「とにかく行くしかない……」
縁は言った。
「この手紙が届いたのは……おそらく深夜……。今は午前11時……間に合うか?」
二人は新井場邸から一番近い、百合根町南へ向かった。
二人は桃子の車に乗り込み、縁はカーナビに、メールに記載されている住所を入力した。
桃子は言った。
「なんてやつだ?」
縁は言った。
「熊川徹也……30歳のアルバイト店員だ」
桃子は感心した。
「凄いな、日本の警察は……」
二人は熊川の自宅へ向かった。
少し車を走らせると、カーナビが目的地付近に到着した事を、二人に伝えた。
二人は適当な場所に車を駐車させた。
車を降りた縁は前方を指差して、言った。
「桃子さん……あのアパートだ……」
縁の指差す方向に、古い2階建てのアパートがあった。
「あそこの103号室だと思うよ……」
縁がそう言うと、二人はアパートに向かった。
アパートの103号室には『熊川』と書かれた、安っぽい表札があった。
「ここだ……」
縁はそう言うと、ドアをノックした。
しばらくすると、ドアが開き無精髭でパジャマ姿の男が出て来た。
男は言った。
「誰だ?」
縁は言った。
「熊川徹也さんですね?」
「そうだけど……うん?あっ、あなたは……」
熊川は縁の後ろに立っている桃子に気付いたようで、目を輝かせている。
「嘘だろ?モモタン……」
感激のあまりやっと絞り出した言葉が『モモタン』だった。
桃子は熊川を睨み付けた。
「貴様か?私をつきまとっていたのは……」
熊川は何の事かわからないと、いった表情だ。
「つきまとう?僕が?モモタンに?」
桃子は激昂した。
「貴様っ!しらばっくれるなっ!それと、そのモモタンはやめろっ!」
桃子の様子に熊川は怯えだした。
「ヒッ、ヒィーッ!で、でも憧れのモモタンに怒られてるっ!」
どうやら熊川は色々な感情が入り交じっているようだ。
縁は桃子を抑えた。
「ちょっ……桃子さんっ!落ち着いて……まだこの人だって決まったわけじゃ……」
桃子の怒りは収まらないようだ。
「離せ、縁っ!こいつがやったに決まっている……この顔はやってる顔だ」
ひどい決めつけだ。
そんな縁と桃子の様子を見て、熊川は言った。
「さっきから何の話を?」
桃子は言った。
「貴様が怪文書を私と縁の家に、送ってきたんだろっ!」
「あの~、さっぱりわからないんですけど……」
「貴様ーっ!」
縁は言った。
「待てって、桃子さん……。とにかく話を聞かないと、あと2件もあるんだぞ……」
桃子は怒りを堪えた。
「くっ!わかった……」
縁は言った。
「すみません……少し聞きたいことがあって……」
縁は手紙の事とイベントの事を熊川に聞いた。
熊川は言った。
「そんな事するわけないじゃないですかぁ……それに、僕……明後日のイベント楽しみにしてるんですよっ!中止なんてされたら、たまったもんじゃない……」
縁は言った。
「では昨晩はどちらに?」
「昨日は夜勤で、この先のコンビニでレジしてましたよ……疑うのなら店に聞いて下さいよ……」
桃子は言った。
「貴様、嘘はないな?」
「僕がモモタンに嘘をつくはずないですよ……」
桃子はまた怒った。
「貴様……まだモモタンと言うかっ!」
熊川はまたまた怯えだした。
「すっ、すみませんっ!でも怒られてる……感激だ……」
熊川はそうとう屈折している。
縁は桃子に言った。
「桃子さん……次へ行こう……」
すると熊川は縁に食って掛かった。
「君はモモタンの何なんだっ!?」
急な逆質問に縁は戸惑った。
「へっ?何なんだって……」
桃子は熊川に言った。
「縁は私の大事な人間だっ!」
熊川は仰天した。
桃子は縁に言った。
「行くぞ、縁……」
「おっ、おう……」
熊川は二人の後ろ姿に向かって、叫んだ。
「くやし~っ!あんなガキにぃ~っ!でも、サイン会には行くから~っ!」
縁は熊川の声を聞かないために、耳を塞いだ。
二人が次に向かった先は百合根町東……該当者は村山潤……20歳の大学生だ。
ナビに従い車を走らせると、一軒家の並ぶ住宅地に出た。
やがてカーナビに目的地に到着した事を伝えられ、二人は車を降りた。
村山潤の家は2階建ての一軒家だった。
どうやら実家暮らしのようだ。
縁は表札を確認した。表札には『村山』と記載されていた。
縁はインターフォンを押した。
するとインターフォン越しに声がした。
「はい?」
女性の声だ。
縁は答えた。
「新井場と言いますが……潤さんは?」
「少々お待ち下さい……」
しばらくすると、玄関のドアが開き、人が出てきた。
縁は少し驚いて言った。
「あなたが……潤さん?」
村山潤は髪の長い……女性だった。縁は名前で村山潤を男だと思ったようだ。
「誰?君………あっ!」
村山は熊川の時と同様に、縁の後ろにいる桃子に気付いた。
「うそぉっ!モモタンだっ!」
「またモモタンか……」
そう言って桃子は頭を抱えた。
縁は言った。
「仕方ないよ……モモタンで絞ったんだから……」
村山は興奮気味に言った。
「何でモモタンが家に?それにこの子スッゴい格好いいっ!」
桃子は怒りで震えている。
縁は言った。
「桃子さん……抑えて……。あの~、村山さん……聞きたい事が?」
「何、何?」
縁は熊川の時と同様に説明した。
村山は笑って答えた。
「ははは……そんなわけないじゃんっ!そんなに暇じゃないし……それに、サイン会を楽しみにしてんのよっ!……。そんな事より君いくつ?彼女は?モモタンとどういう関係?」
縁は村山からの逆質問攻めに、困っている。
桃子は村山を睨み付けて言った。
「貴様……質問しているのはこっちだぞっ!」
桃子の怒号に村山は背筋を伸ばした。
「はっ、はいっ!すみませんっ!」
桃子は言った。
「貴様……嘘は付いてないだろうな?」
「うっ、嘘なんて……そんな……モモタンに……」
桃子は激昂した。
「モモタンと、言うなっ!!」
「はっ、はいっ!すみませんっ!桃子様っ!」
縁は頭を抱えた。
「こんなやつばっかかよ……」
村山は言った。
「昨日はずっと家にいました……母に聞いてもらえばわかりますっ!」
桃子は言った。
「本当だろうな?」
「天地天命に誓い、嘘はついておりませんっ!」
縁は言った。
「桃子さん……もう行こう……」
そう言うと縁は車に向かった。
桃子は去り際に、村山に言った。
「私のファンなのは感謝するが……縁に色目を使うなよ……」
桃子はそう言うと縁の後を追った。
村山は呟いた。
「美男美女……格好いい……」
二人が最後に向かった先は百合根町北……該当者は立花祐也……21歳学生だ。
運転をしながら桃子は言った。
「次が最後か……」
「そうだ……最後になっちまった……」
「だいぶ、時間をロスしたな……」
「あの手紙がはったりである事を祈るよ……」
二人を乗せた車は、やがて古いアパートに到着した。
百合根町の端の方で、民家は点々とあるくらいで数は少ない……。
それに辺りには畑などが広がっており、人気もあまり無い。
縁は言った。
「このアパートの102号室だ」
縁はドアの前に立ち、確認した。
表札には『立花』とあり、インターフォンはない。
縁は一応警戒をしてノックをした。
しかし、反応は無い。縁はもう一度ノックをしたが、やはり反応は無かった。
縁は嫌な予感がした。
桃子にも先程の怒りの表情は無く、緊張感のある表情になっていた。
相手がノックを警戒しているのか?……それとも……はったりでは無く、すでに自殺を?……それともただ外出しているだけか?……などと、様々な可能性を縁は考えた。
縁はドアノブに手を掛けた。
鍵は……開いている……。
縁は桃子を見た。桃子は黙って頷いてる。
そして縁は意を決して、ドア開けた。
開けた瞬間だった……物凄い臭いが鼻を刺した……。この臭いは……知っている。
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視線の先には、その匂いの元があった。
それは……黒い服を身に纏った……。首吊り死体だった……。
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