天才・新井場縁の災難

陽芹孝介

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第四話 海上攻防戦・前編

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  船に爆弾が仕掛けられた……。
  有村から電話越しに伝えれた縁の表情は険しくなる。
  桃子はそれを見逃さなかった。
 「縁……その電話、警視殿からだろ?いったい何の用件だ?」
  縁は桃子に小声で言った。
 「後で説明する……ここじゃちょっと……」
  ここラウンジには人が大勢いる。爆弾の話をこの場でするのは適切ではない。
  電話越しに有村が言った。
 「縁……もしかして、桃子ちゃんも一緒かい?」
 「そうだよ……」
  有村は電話越しからでもわかるくらいの、溜め息をして言った。
 「つくづく……厄介事がお好きなようだね……」
  縁は言った。
 「そんな事より……今、俺達は船のラウンジにいるんだ……その話は部屋に戻ってからしたい……」
  有村は言った。
 「それなら……船の責任者に縁と桃子ちゃんの事を伝えておくから……部屋で待っていてくれ……。捜査本部と船の操縦室と会議室は繋がってるから……」
 「わかった……協力するよ。俺達の部屋番号は『2035』だ……」
 「2035……と……。わかった……部屋で待機をしていてくれ……すぐにスタッフを向かわす」
  縁は有村との連絡を終えて、桃子に言った。
 「桃子さん……部屋に戻ろう」
  話のわからない桃子は縁に言った。
 「何があったんだ?事件か?」
  桃子の目は輝きを放っている。
  縁は頭を抱えて言った。
 「とりあえず部屋に戻ろう……話はそれからだ……」


  ……13時…2035号室……


 「爆弾が仕掛けられただとっ!!」
  桃子の大きな声が部屋に響き渡った。
  縁は言った。
 「声がでかいよ……興奮しすぎ……」
  桃子の興奮は収まらない。
 「興奮せずにいられるかっ!やはり事件が私を呼ぶのだ……小笠原桃子に安息は不用だと……」
  縁は呆れて言った。
 「何呑気な事を言ってんだ……」
  すると部屋のインターフォンが鳴った。
 縁がドアを開けると一人の若い男性が立っていた。
  ダークグレイの制服に帽子を被っている。おそらく有村が言っていたスタッフだろう。
  スタッフは縁と桃子を見て少し驚いて言った。
 「あなたが……新井場縁様で?」
  縁は言った。
 「はい……事情は有村警視から聞いています……」
  スタッフは言った。
 「では……あの奥の女性が、小笠原桃子様で?」
  桃子は言った。
 「そうだ……私が推理作家の小笠原桃子だ」
  桃子は自分が推理作家だと強調した。
  スタッフは縁と桃子が若すぎるためか、少し戸惑いながら言った。
 「そっ、そうですか……申し遅れました……私はスタッフの木山きやまと申します」
  縁は言った。
 「それで……状況は?」
  木山は言った。
 「いや、ここではちょっと……付いてきて下さい、会議室に案内します」
  縁と桃子は木山の案内で会議室へ向かった。
  木山が言った。
 「会議室に行く前に、オーナーの部屋に寄って行きます」
  縁が言った。
 「オーナーは今回の事を?」
  木山は困った表情で言った。
 「それが……まだ伝えていないのです……」
  縁は言った。
 「何故ですか?」
  木山は言った。
 「事件発覚後から連絡がとれないのです……。ですのでオーナーの部屋に直接……」
  桃子は言った。
 「なるほど……それでは急ぐとしよう……」
  オーナーの部屋は2層目D区間のVIPルームだ。
  木山はインターフォンを押した。しばらく応答をまったが無反応だ。
  木山はもう一度インターフォンを押したが、応答は無い。
  木山は言った。
 「いらっしゃらないのか?……」
  縁は言った。
 「携帯電話で連絡をとってみては?」
  木山は首を横に振った。
 「それが……携帯も繋がらないのです……」
  縁はドアに手を掛けて、ノブを回した。
 「開いている……」
  そう言うと縁はゆっくりとドアを引いた。
  開かれたドアから、木山は部屋の中を確認した。
  すると、木山は目を見開いて叫んだ。
 「うわあああああーーっ!!!」
  木山その場で腰を抜かし、座り込んでしまった。
  木山の表情は恐怖で満ちていた。
  縁はすぐさま部屋を確認した。
  するとそこには、胸から大量の血を流し、ベッドにもたれ掛かった恰幅のよい中年男性がいた。
  縁は木山に言った。
 「木山さん……すぐに船長と警視庁の有村警視にこの事を……」
  木山はなんとか立ち上がったが、気が動転している。
 「へっ?は、は……はいっ!」
  木山はフラフラしながら会議室へと走って行った。
  縁と桃子は部屋に入り、血を流している男性に近づいた。
  すると、桃子が言った。
 「縁……この男、ギャラリールームにいたやつだ……やはりこの船のオーナーだったか……」
  桃子言う通り、血を流している男性はギャラリールームで絵を自慢していた、恰幅のよい男性だった。
  縁は男性の首から脈を確認し、首を横に振った。
 「だめだ……もう……死んでいる」
  縁は遺体を触って確認した。
 「まだ硬直はしていないな……俺達がギャラリールームにいたのは、11時過ぎだ……その後に殺されたな……左胸と腹部に2つ、計3箇所の刺し傷か……」
  桃子は言った。
 「少し部屋を調べた方がいいな……」
  縁は立ち上がった。
 「そうだな……何か痕跡があるかも……」
  縁は部屋を見渡した。
  広い部屋だ……これが桃子が言っていたスイートルームだろう。
  すると縁は何かを発見した。
 「うん?……血痕か?」
  遺体から少し離れた木製デスクとベッドの間に、数滴の血痕があった。
  縁はしゃがんで血痕を確認して言った。
 「刺してからあの机に向かったな……血痕が机に向かった落ちかたをしている」
  血痕は雫のような形で、丸みとヒゲがあった。ヒゲのある方が進行方向だ。
  よって、この場合はヒゲが机に向かっているので、進行方向は入口の逆である机になる。
  桃子は言った。
 「では犯人は殺害した後に、机を物色したのか?」
 「そういう事になるな……」
  縁は机に向かった。
  机の上にはビジネスバッグがあり、縁は指紋が付かないように、ハンカチを使い、物色した。
  物色しながら縁は言った。
 「書類……財布……財布の中身は……現金は残ってる」
  桃子は言った。
 「元々鞄に何が入っていたか、わからないからな……」
  縁は頷いた。
 「確かに……入っていた物がわからないから、何かが盗られていても……わかんないよな。ただ、強盗ではないよ……現金が残ってるから」
  桃子が言った。
 「爆弾事件と関係があるのか?」
  縁は言った。
 「タイミング的にはそうかも知れないけど……まだなんとも……」
  縁はスマホで現場の写真を撮りだした。
  桃子は言った。
 「爆弾事件に殺人事件……映画のような展開だ……」
  縁は言った。
 「呑気な事を言ってる場合じゃないぜ……もし同一犯なら、爆弾を爆発させる事に躊躇しないぜ……」
  縁は表情を険しくした。
 「もう一人、人を殺してるんだから……」
  桃子は言った。
 「爆破するのに躊躇はしないか……」
 「そういう事……海上保安庁が乗り込んでくる気配が無いと言う事は……爆弾の形状が把握できてないんだろうな……」
 「ではまずは、爆弾を探して……それを警視殿に報告しなければ……」
 「それもそうだけど……犯人の特定もしないと、安易に動けないぜ」
  桃子は呟いた。
 「なかなか複雑だな……」


  ……警視庁捜査会議室……


  有村は模索していた。
  船に潜入し、爆弾を解除する方法を……しかし、船に潜入するのは困難だ。
  船に潜入すれば、船を爆破すると、犯人からの指定があったからだ。
  現状では爆弾の形状がわからない……時限式、遠隔式、着火式……どのような形状かわからない以上、うかつに手は出せない。
  唯一の救いは縁と桃子が船に乗っていた事だけだった。
  すると一人の刑事が有村に報告に来た。
 「警視っ!犯人グループが特定できましたっ!」
  有村は言った。
 「『紅い爪あかいつめ』かい?……」
  有村が先に答えたので、刑事は少したじろいだ。
 「えっ?……は、はいっ」
  有村は言った。
 「こんな法外な身代金の要求をしてくるのは、紅い爪くらいだからね……で?船の様子は?」
 「はっ!現状の位置で停泊中です」
 「今のところ……紅い爪の言われるままか……。海上保安庁とQueensshipに、くれぐれも動くなと伝えて……動くとドカンッだから……」
  刑事は言った。
 「はっ!わかりました!……しかし、紅い爪は75億なんて金を……いったい?」
  有村は疲れた表情で言った。
 「それがわかれば……苦労しないよ」
  また、縁と桃子に頼らなければいけない。そんな状況に有村は、自分達の無力さを痛感した。
  すると、会議室に一人の男性と少女が入ってきた。
  会議室にいた刑事たちは、男性に向かって敬礼をした。
  有村は言った。
 「警視長……どうされたのですか?それにその少女は?」
  警視長……警視である有村の上司だ。
  警視長は刑事たちに言った。
 「ご苦労……皆捜査に戻ってくれ」
  警視長は少女を連れて有村の席に来た。
 「有村君……捜査の方はどうだ? 」
  警視長の問に、有村は頭をかいた。
 「膠着状態ですね……。しかし、おそらく……もうすぐ爆弾の形状はわかります」
 「ほう……どうしてだね?」
 「以前お話した、新井場縁が船に偶然乗っていまして……」
  警視長は驚いたように言った。
 「おお……あの少年か……」
  有村は少女を見て言った。
 「警視長……その少女は?」
  少女は小柄で黒のワンピースを纏い、深々と麦わら帽子を被っている。
  少女は呟いた。
 「To be able to meet in such situation.(こんな状況で会えるなんて)」
 「It is faet.(運命ね)」
 「Enishi……」
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