24 / 76
第四話 海上攻防戦・前編
②
しおりを挟む
出港したことにより、船内は自由行動をしてよくなり、縁と桃子は船内を見学する事にした。
部屋を出た通路の奥に、ラウンジに出るガラス扉がある。
縁は言った。
「桃子さん……ラウンジに行ってみようぜ……」
桃子は言った。
「そうだな……昼食までまだ時間もある。行ってみよう……」
二人がラウンジに出ると、そこには家族連れの人や、若いカップルらがたくさんいた。
ラウンジは船の2層目前方部分で、先端付近に望遠鏡が数基付いており、見晴らしもよさそうだ。
桃子が言った。
「風が気持ちいいな……」
桃子は風で麦わら帽子を手で押さえて、風を満喫している。
ワンピースが風でヒラヒラ舞い、日を浴びたその姿は画になった。
縁は遠くを見て言った。
「もうだいぶ沖に来たみたいだぜ……」
縁の言うように、遠方には陸地が肉眼でなんとか確認できるくらいまで、船は沖へと来ていた。
桃子は縁が楽しそうなのを見て、笑顔で言った。
「縁……来て良かったか?」
「ああ……昔一度、ジジイとこういう船には乗った事があるけど……やっと夏休みっぽくなって来て、素直に嬉しいよ……」
「そうか……お前に喜んでもらって、私も嬉しいよ……」
縁は言った。
「何だよ?あらたまって……それより桃子さんも楽しめよっ……」
「ああ……わかってるさ……」
二人はしばらくラウンジで風を満喫し、船内に戻った。
パンフレットを見て桃子が言った。
「この船には『美術ギャラリー』があるみたいだな……」
「へぇー……色々あるんだな……」
「私は少し興味がある」
「行ってみるか?時間はまだあるから……」
二人は美術ギャラリーへ行くと、そこにも数人の客がいた。
部屋は真っ白な空間で、壁一面に絵画が飾られている。
桃子は言った。
「美術ギャラリーと言うよりは、絵画ギャラリーだな……」
絵画を見学していくと、そのほとんどは日本人画家が描いたもので、中でも目立っていたのは神山泰山という画家の作品だ。
神山泰山とは日本では有名な画家だが、すでに他界している。
すると一つの小さな絵の前に一人の中年男性が立っていた。
その絵も神山泰山の作品のようで、子供が描かれた肖像画だった。
その男性はその絵を微笑ましい表情で見ていた。
男性は船員だろうか?ダークグレイの制服に帽子を被っている。
縁と桃子の視線に気付いたのか、男性はその場を去っていった。
するとギャラリーに恰幅のよい50歳程の男性と、スーツを来た背の高い眼鏡を掛けた30歳程の男性がやって来た。
「素晴らしいコレクションだろ?高山君……」
恰幅のよい男性は、高山と呼ばれる眼鏡の男性に言った。
高山は言った。
「さすがは堂上オーナー……お目が高いですなぁ……神山泰山の作品がこんなに……」
堂上は高笑いをした。
「ははははっ!私は泰山に目がなくてな……」
高山は言った。
「泰山以外にも作品が多数ありますねぇ……」
堂上は言った。
「ははははっ!君、それは私の人徳だよ……」
大人二人が下世話な話に華を咲かせている。
縁は桃子に言った。
「この船のオーナーか?」
桃子は言った。
「おそらくそうだろうな……金持ちの道楽船のようだな……そろそろ食事に行くか……」
「そうだね……そうしよう……」
下世話な大人の登場により、二人は居心地の悪くなったギャラリーを後にした。
ギャラリーを出て二人は船の1層目にあるレストランに訪れた。
バイキング形式になっており、美味しそうな料理が色々とあった。
縁はステーキにミートスパゲッティ、エビピラフと……採れるだけ採って席に着いた。
縁の食べる量に桃子は呆れ気味だ。
「少し食べ過ぎではないのか?」
縁はステーキを頬張りながら言った。
「何言ってんだよ!この後デザートを食べるんだぜ……」
桃子は顔をひきつらせた。
「そっ、そうか……育ち盛りだからな」
レストランはテーブル席が50席程あり、かなり広い。
少し時間が早いためか、席にはまだ少し空きがある。
縁と桃子は昼食を終え、席でくつろいでいた。
満足そうに縁は言った。
「あー美味かったっ!良い肉使ってるよ……柔らかくてさぁ……来て良かった」
桃子も言った。
「確かに……料理には良い素材を使っているようだな」
その時だった……レストラン……いや、船内に全域に非常用のサイレンが鳴り響いた。
かん高いサイレンの音に、レストラン内の客がざわざわした。
縁は言った。
「何だよ?うるせぇな……誤作動か?」
すると、やがてサイレンは収まり、客のざわつきも引いていった。
桃子は言った。
「運航したばかりだから……トラブルでもあったか?」
縁は少し嫌な予感がしたが……気にしないように言った。
「よくある事だよ……うるさいかったが、気にしない方が良い……」
食事を終えた二人は再びラウンジに向かった。
すると向かう途中で船内アナウンスが入った。
『只今よりメンテナンスのため、D~F区間への立入を禁止します。ご迷惑をお掛けしますがご了承下さい……』
縁は言った。
「さっきの誤作動と関係があるのか?」
パンフレットには、区間はA~Fまでとあった。よって、D~F区間は船の後尾だ。
桃子は言った。
「我々にはあまり関係のない区間だな……」
その時向かいから、二人の女性客が何かを話ながら歩いてきた。
「やっぱりさっきのぼや騒ぎじゃない?」
「やっぱそうよね……凄い煙だったもん」
縁はその女性客を呼び止めた。
「すいません……ぼや騒ぎって?」
女性客は立ち止まり、縁の顔を見て少しニヤけた。
「すっごい美男子……君いくつ?」
すると桃子は女性客を睨み付けて言った。
「質問に答えろ……」
二人の女性客は桃子に圧倒されて、背筋を伸ばした。
こういう時は桃子が役に立つと縁は密かに思った。
女性客は言った。
「さっきギャラリールームの手前で白い煙が出たんです」
縁は言った。
「白い煙?」
女性客は言った。
「凄い勢いでした……それで火が出たんじゃないかって、スタッフの人達が慌ててて……」
桃子が言った。
「それでセンサーが反応してサイレンが鳴ったんだな……」
縁は女性客に言った。
「すいません……ありがとうごさいました」
縁が礼を言うと、女性客の二人は去って言った。
縁は桃子に言った。
「ギャラリールームへ行ってみよう」
二人がギャラリールームに向かうと、ギャラリールームの入口手前にはバリケードが掛けられていた。
縁は呟いた。
「ここから立入禁止か……」
縁は考え事をしている。
それを見て桃子が言った。
「どうした縁?」
縁は言った。
「ギャラリールームはD区間でそれから後ろ、E区間F区間はスタッフルームであったり、会議室、機械室など…俺たちには関係ない場所だ」
「それで?」
「この船で自然発火する可能性のある場所は、レストランのあるB区間、操縦席のあるA区間、それと機械室のあるEF区間だ……」
「確かに……」
「でも、このギャラリールームがあるD区間から自然発火するのはあり得無い……だとすれば、誰が火を着けた……しかし……」
「しかし……何だ?」
「煙が上がったのはこの辺りなのに……焦げ付いた臭いが全くしないし、スプリンクラーが作動した痕跡もない……それにこれは……火薬の臭いだ」
「火薬の?それは……」
「ああ……つまり誰が発煙筒か何かを使って煙を出したんだ……」
「何のために?」
「イタズラか……だといいけど……」
縁と桃子は一度部屋に戻ることにした。
部屋に戻りベッドに座りくつろいでいる桃子とは別に、縁は窓の外を眺めていた。
ふと、縁が言った。
「桃子さん……今何時だ?」
桃子は腕時計を確認して言った。
「今は……12時40分過ぎだ……」
縁は首を傾げた。
「妙だな……」
桃子は怪訝な表情をした。
「何が妙何だ?」
「出港したのが10時……それから2時間半以上の経過しているのに……沖に出てから動いてる気配が無い……。桃子さん船の運航予定は?」
縁に言われ、桃子はパンフレットを開いた。
「港から出港して沖へ出て、南東に進み折り返して港に戻る予定だ……」
縁が言った。
「だとすれば動いていないとおかしい……」
窓から外を眺めていた縁は何かに気付いた。
「うん?あれは……船?……ここからじゃよくわからないな……」
桃子が言った。
「何かを見つけたのか?」
「ああ……でもこの部屋からじゃ……よくわからない……」
桃子は立ち上がった。
「ならラウンジに行こう……あそこなら望遠鏡がある」
二人は再びラウンジに向かった。
ラウンジに到着すると、相変わらず人が大勢いた。行動範囲が規制されているので、自然とこの場所にあつまるのだろうか……先程より人が多く感じる。
縁は海を見渡した。
先程肉眼で確認出来た陸地がまだ見える。
「やっぱり船は動いていない……うん?」
桃子は言った。
「どうしたんだ?」
「船が1隻、2隻、3隻……同じ間隔でいるな……さっきの船だな」
縁は望遠鏡が備え付けてある場所まで行った。
桃子もその後を追った。
縁は望遠鏡に目を当てて船を確認した
「あれは……海上保安庁の巡視船だ」
縁は望遠鏡を旋回して、残りの船も確認した。
「3隻共、海上保安庁の巡視船……」
縁は望遠鏡から離れ、顎を撫でて考え出した。
桃子はそんな様子の縁に言った。
「いったい何なんだ?」
縁は言った。
「やっぱり……この船、おかしいぜ……」
「さっきのぼや騒ぎか?」
「それもあるけど……停止しているこの船を、海上保安庁の巡視船が囲っている……」
桃子の表情も険しくなる。
「よからぬ事か?」
「違うと言いたいところだけど……たぶんよからぬ事だね……」
その時縁のスマホに着信が入った。
有村からだった。
縁は電話に出た。
「もしもし……有村さん……どうしたの?」
「縁か?今何処に?」
「何処にって……俺はいまバカンス中だよ……」
「バカンス?とんでもない事が起きてて、力を貸して欲しいんだけど……近くなら迎えに行くぞ?」
有村は深刻そうだ。
縁は言った。
「どうしたの?珍しく深刻そうだけど……まぁ助力したいのはやまやまなんだけど……俺、今は船の上だから……」
有村の様子が変わった。
「船?太平洋か?」
「ああ……『Queensship』って言う、客船に乗ってんだよ」
電話越しの有村の声は大きくなった。
「何だってっ!?ほっ、ほんとかい?」
「何だよ?急に……ほんとだよ……。まぁ様子が少し変だけど……」
「変?どういう事だい?」
「船が停止していて、回りに海上保安庁の巡視船が、確認できるだけで、3隻いる」
有村は落ち着きを取り戻して言った。
「いいかい、縁……落ち着いて聞いてくれ……」
「何だよ?」
「その船には爆弾が仕掛けらている」
それを聞いた縁は、目を見開いた。
やはりこの船旅はただでは済まなかったようだ。
部屋を出た通路の奥に、ラウンジに出るガラス扉がある。
縁は言った。
「桃子さん……ラウンジに行ってみようぜ……」
桃子は言った。
「そうだな……昼食までまだ時間もある。行ってみよう……」
二人がラウンジに出ると、そこには家族連れの人や、若いカップルらがたくさんいた。
ラウンジは船の2層目前方部分で、先端付近に望遠鏡が数基付いており、見晴らしもよさそうだ。
桃子が言った。
「風が気持ちいいな……」
桃子は風で麦わら帽子を手で押さえて、風を満喫している。
ワンピースが風でヒラヒラ舞い、日を浴びたその姿は画になった。
縁は遠くを見て言った。
「もうだいぶ沖に来たみたいだぜ……」
縁の言うように、遠方には陸地が肉眼でなんとか確認できるくらいまで、船は沖へと来ていた。
桃子は縁が楽しそうなのを見て、笑顔で言った。
「縁……来て良かったか?」
「ああ……昔一度、ジジイとこういう船には乗った事があるけど……やっと夏休みっぽくなって来て、素直に嬉しいよ……」
「そうか……お前に喜んでもらって、私も嬉しいよ……」
縁は言った。
「何だよ?あらたまって……それより桃子さんも楽しめよっ……」
「ああ……わかってるさ……」
二人はしばらくラウンジで風を満喫し、船内に戻った。
パンフレットを見て桃子が言った。
「この船には『美術ギャラリー』があるみたいだな……」
「へぇー……色々あるんだな……」
「私は少し興味がある」
「行ってみるか?時間はまだあるから……」
二人は美術ギャラリーへ行くと、そこにも数人の客がいた。
部屋は真っ白な空間で、壁一面に絵画が飾られている。
桃子は言った。
「美術ギャラリーと言うよりは、絵画ギャラリーだな……」
絵画を見学していくと、そのほとんどは日本人画家が描いたもので、中でも目立っていたのは神山泰山という画家の作品だ。
神山泰山とは日本では有名な画家だが、すでに他界している。
すると一つの小さな絵の前に一人の中年男性が立っていた。
その絵も神山泰山の作品のようで、子供が描かれた肖像画だった。
その男性はその絵を微笑ましい表情で見ていた。
男性は船員だろうか?ダークグレイの制服に帽子を被っている。
縁と桃子の視線に気付いたのか、男性はその場を去っていった。
するとギャラリーに恰幅のよい50歳程の男性と、スーツを来た背の高い眼鏡を掛けた30歳程の男性がやって来た。
「素晴らしいコレクションだろ?高山君……」
恰幅のよい男性は、高山と呼ばれる眼鏡の男性に言った。
高山は言った。
「さすがは堂上オーナー……お目が高いですなぁ……神山泰山の作品がこんなに……」
堂上は高笑いをした。
「ははははっ!私は泰山に目がなくてな……」
高山は言った。
「泰山以外にも作品が多数ありますねぇ……」
堂上は言った。
「ははははっ!君、それは私の人徳だよ……」
大人二人が下世話な話に華を咲かせている。
縁は桃子に言った。
「この船のオーナーか?」
桃子は言った。
「おそらくそうだろうな……金持ちの道楽船のようだな……そろそろ食事に行くか……」
「そうだね……そうしよう……」
下世話な大人の登場により、二人は居心地の悪くなったギャラリーを後にした。
ギャラリーを出て二人は船の1層目にあるレストランに訪れた。
バイキング形式になっており、美味しそうな料理が色々とあった。
縁はステーキにミートスパゲッティ、エビピラフと……採れるだけ採って席に着いた。
縁の食べる量に桃子は呆れ気味だ。
「少し食べ過ぎではないのか?」
縁はステーキを頬張りながら言った。
「何言ってんだよ!この後デザートを食べるんだぜ……」
桃子は顔をひきつらせた。
「そっ、そうか……育ち盛りだからな」
レストランはテーブル席が50席程あり、かなり広い。
少し時間が早いためか、席にはまだ少し空きがある。
縁と桃子は昼食を終え、席でくつろいでいた。
満足そうに縁は言った。
「あー美味かったっ!良い肉使ってるよ……柔らかくてさぁ……来て良かった」
桃子も言った。
「確かに……料理には良い素材を使っているようだな」
その時だった……レストラン……いや、船内に全域に非常用のサイレンが鳴り響いた。
かん高いサイレンの音に、レストラン内の客がざわざわした。
縁は言った。
「何だよ?うるせぇな……誤作動か?」
すると、やがてサイレンは収まり、客のざわつきも引いていった。
桃子は言った。
「運航したばかりだから……トラブルでもあったか?」
縁は少し嫌な予感がしたが……気にしないように言った。
「よくある事だよ……うるさいかったが、気にしない方が良い……」
食事を終えた二人は再びラウンジに向かった。
すると向かう途中で船内アナウンスが入った。
『只今よりメンテナンスのため、D~F区間への立入を禁止します。ご迷惑をお掛けしますがご了承下さい……』
縁は言った。
「さっきの誤作動と関係があるのか?」
パンフレットには、区間はA~Fまでとあった。よって、D~F区間は船の後尾だ。
桃子は言った。
「我々にはあまり関係のない区間だな……」
その時向かいから、二人の女性客が何かを話ながら歩いてきた。
「やっぱりさっきのぼや騒ぎじゃない?」
「やっぱそうよね……凄い煙だったもん」
縁はその女性客を呼び止めた。
「すいません……ぼや騒ぎって?」
女性客は立ち止まり、縁の顔を見て少しニヤけた。
「すっごい美男子……君いくつ?」
すると桃子は女性客を睨み付けて言った。
「質問に答えろ……」
二人の女性客は桃子に圧倒されて、背筋を伸ばした。
こういう時は桃子が役に立つと縁は密かに思った。
女性客は言った。
「さっきギャラリールームの手前で白い煙が出たんです」
縁は言った。
「白い煙?」
女性客は言った。
「凄い勢いでした……それで火が出たんじゃないかって、スタッフの人達が慌ててて……」
桃子が言った。
「それでセンサーが反応してサイレンが鳴ったんだな……」
縁は女性客に言った。
「すいません……ありがとうごさいました」
縁が礼を言うと、女性客の二人は去って言った。
縁は桃子に言った。
「ギャラリールームへ行ってみよう」
二人がギャラリールームに向かうと、ギャラリールームの入口手前にはバリケードが掛けられていた。
縁は呟いた。
「ここから立入禁止か……」
縁は考え事をしている。
それを見て桃子が言った。
「どうした縁?」
縁は言った。
「ギャラリールームはD区間でそれから後ろ、E区間F区間はスタッフルームであったり、会議室、機械室など…俺たちには関係ない場所だ」
「それで?」
「この船で自然発火する可能性のある場所は、レストランのあるB区間、操縦席のあるA区間、それと機械室のあるEF区間だ……」
「確かに……」
「でも、このギャラリールームがあるD区間から自然発火するのはあり得無い……だとすれば、誰が火を着けた……しかし……」
「しかし……何だ?」
「煙が上がったのはこの辺りなのに……焦げ付いた臭いが全くしないし、スプリンクラーが作動した痕跡もない……それにこれは……火薬の臭いだ」
「火薬の?それは……」
「ああ……つまり誰が発煙筒か何かを使って煙を出したんだ……」
「何のために?」
「イタズラか……だといいけど……」
縁と桃子は一度部屋に戻ることにした。
部屋に戻りベッドに座りくつろいでいる桃子とは別に、縁は窓の外を眺めていた。
ふと、縁が言った。
「桃子さん……今何時だ?」
桃子は腕時計を確認して言った。
「今は……12時40分過ぎだ……」
縁は首を傾げた。
「妙だな……」
桃子は怪訝な表情をした。
「何が妙何だ?」
「出港したのが10時……それから2時間半以上の経過しているのに……沖に出てから動いてる気配が無い……。桃子さん船の運航予定は?」
縁に言われ、桃子はパンフレットを開いた。
「港から出港して沖へ出て、南東に進み折り返して港に戻る予定だ……」
縁が言った。
「だとすれば動いていないとおかしい……」
窓から外を眺めていた縁は何かに気付いた。
「うん?あれは……船?……ここからじゃよくわからないな……」
桃子が言った。
「何かを見つけたのか?」
「ああ……でもこの部屋からじゃ……よくわからない……」
桃子は立ち上がった。
「ならラウンジに行こう……あそこなら望遠鏡がある」
二人は再びラウンジに向かった。
ラウンジに到着すると、相変わらず人が大勢いた。行動範囲が規制されているので、自然とこの場所にあつまるのだろうか……先程より人が多く感じる。
縁は海を見渡した。
先程肉眼で確認出来た陸地がまだ見える。
「やっぱり船は動いていない……うん?」
桃子は言った。
「どうしたんだ?」
「船が1隻、2隻、3隻……同じ間隔でいるな……さっきの船だな」
縁は望遠鏡が備え付けてある場所まで行った。
桃子もその後を追った。
縁は望遠鏡に目を当てて船を確認した
「あれは……海上保安庁の巡視船だ」
縁は望遠鏡を旋回して、残りの船も確認した。
「3隻共、海上保安庁の巡視船……」
縁は望遠鏡から離れ、顎を撫でて考え出した。
桃子はそんな様子の縁に言った。
「いったい何なんだ?」
縁は言った。
「やっぱり……この船、おかしいぜ……」
「さっきのぼや騒ぎか?」
「それもあるけど……停止しているこの船を、海上保安庁の巡視船が囲っている……」
桃子の表情も険しくなる。
「よからぬ事か?」
「違うと言いたいところだけど……たぶんよからぬ事だね……」
その時縁のスマホに着信が入った。
有村からだった。
縁は電話に出た。
「もしもし……有村さん……どうしたの?」
「縁か?今何処に?」
「何処にって……俺はいまバカンス中だよ……」
「バカンス?とんでもない事が起きてて、力を貸して欲しいんだけど……近くなら迎えに行くぞ?」
有村は深刻そうだ。
縁は言った。
「どうしたの?珍しく深刻そうだけど……まぁ助力したいのはやまやまなんだけど……俺、今は船の上だから……」
有村の様子が変わった。
「船?太平洋か?」
「ああ……『Queensship』って言う、客船に乗ってんだよ」
電話越しの有村の声は大きくなった。
「何だってっ!?ほっ、ほんとかい?」
「何だよ?急に……ほんとだよ……。まぁ様子が少し変だけど……」
「変?どういう事だい?」
「船が停止していて、回りに海上保安庁の巡視船が、確認できるだけで、3隻いる」
有村は落ち着きを取り戻して言った。
「いいかい、縁……落ち着いて聞いてくれ……」
「何だよ?」
「その船には爆弾が仕掛けらている」
それを聞いた縁は、目を見開いた。
やはりこの船旅はただでは済まなかったようだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる