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未練と決別 2
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先週は娘の電話にキレてスマートフォンを投げ捨て壊していた。
やっと新しい物に交換したと思ったらまた娘からだった。
「なんだ、どうした?」
先生は娘のヒステリーに巻き込まれないように用心深く電話を受けた。
『ダッドっ、ずっと電話してたのに、不在ばっかりっ…何処かに出かけてたの?』
「いや…スマフォの調子が悪くて修理に出していたんだ」
『そうなんだ……じゃ固定電話ででも連絡頂戴よっ 心配して損しちゃった…』
電話の向こう側の膨れっ面が目に浮かぶと、先生も娘がまだまだ子供っぽい事に安心する。
「用は何だ?」
『明後日こっちを先生と発つの…ちょうど試験も済んだし…ちょっ早いクリスマスバケーションってわけ…初めてっ!ファーストクラスよ!』
「それで…」
『それでじゃないよ…ダッドぉ…先生の泊まるホテルに診察に来てくれるんでしょ?』
「いや…町田はT大学で入院してもらう、検査だ」
『…え~聞いてないっ………せっかく鎌倉のグランマの所でゆっくりして貰おって思っていたの…に…』
我が子の一途な恋心がいじらしいと思わないでも無い先生は、
「まあ…検査が問題無ければ一泊ぐらいは鎌倉に行けるんじゃないか?」
『マジーッワオーオーッマイガーッヤッターッ―!!』
(全く…げんきんな奴…)
「勘違いするなっ お前は町田の家族でも何でもないから病棟には入れないぞっ、 これはお前がどんなに〝ゴネても〟病院の規則だからな」
…………
急に無言になり、応答が無くなった。
「ユキィ…! ユキっ!そこに町田はいるのか?」
先生は何とは無く娘が町田と暮らし始めているような厭な予感がしていた。
『居るよぉ~
居るに決まってんじゃん、先生が退院した日からずっと居る!…今入院中は会えないって言ってたところ…』
…ふんっ…町田だってお前みたいな喧しい女は側に置きたくないさ…
先生の愛娘は若い時の先生以上に無鉄砲な行動をする。
『黒崎っちょっと代われ…』
側から町田柊士の代われの声が先生にも聴こえた。
『先生ぇ―っ!あ―――っ』
『ドクター、ご心配いりませんよ…娘さんには指一本触れてませんから…………………』
「当たり前だっ…お前にはしっかり藍川繭との後始末付けて貰わねぇとな…しかしお前っ 本気じゃないだろ?(ユキちゃんの事)本気じゃないなら 早いとこテキトーにあしらって捨てろっ!俺に遠慮は無用だからな…全く誰に似たんだか、ただの小うるさいガキじゃないか…魅力も何もねぇ…」
『〝その事〟(藍川繭)は、優秀な弁護士も付いてますし、きっちりカタつけます。そのために、二度と帰らないと誓った日本に帰るんですから…
……………………………
同じ過ちは繰り返しませんよ、もう俺も、先生の言うところの〝ガキ〟は卒業してるんで…お嬢さんの事については、改めて帰国したら話しさせてください。』
町田は旧態然とした日本の芸術界から追い出されるように日本を後にした。日本では全く認められず、同棲までして愛した女を紙くず同然に棄ててあても無くバルセロナへ向かった。
その日本の芸術界が両手を上げて 世界中でアート旋風を巻き起こしている町田柊士を日本に凱旋させようとあの手この手で町田のエージェントにオファーをかけてきた。町田は日本文化には全く興味が無いと突っぱねていたが…
棄てた女への償いが必要な事情が出来た。
(…同じ過ち繰り返されちゃこっちが困るんだよっ…ユキが下げマンだったら また 棄てるのか!…その時は 俺がお前の息の根止めてやるから…)
「ただよ…捨てられたって、生きてりゃまた縁もあるだろうが、死なれるとだな…残っちまって先に行けないんだよな…それだけは娘に味合わせたくはない。だから、入院中は俺に従ってもらう。部屋はお前がリザーブしていた部屋のもうワンランク上を用意してあるから…マスコミにも絶対嗅ぎ付られ無いように皇室並のVIP待遇だぜ…」
『わかりました…会見は改めてっ事ですか?』
「まあーそうゆう事だ…検査結果がよければ…だ…無罪放免!ユキのバカが鎌倉のうちの旅館に招待するって息巻いてたからな…
覚悟しとけよ…………………ひょっとして…年貢の納め時かもな、言っとくが、俺の家族は相当ヤバいから…意味は自分で考えろよ」
『お会い出来る事を楽しみにしています』
(…っち…脅かし効かねえじゃんっ…)
町田柊士は黒崎先生に全てを任せてみる気になっていた。
町田柊士の帰国が一週間早まった。
先生は早速、週明けから代診のドクターを遣すよう黒崎総合病院に連絡していた。
午前中だけとは言え、限界集落の僻地へ長丁場の代診…町田柊士が帰国するまで黒崎先生はドクターチームのリーダーとしてT大学の設備を利用し彼の体調管理をする事が決まっていた。
全てが自由診療の今回のオファーは黒崎先生の臨時講義のオマケまでついているとあって大学側も快諾していた。
先生は東京行きの新幹線の中で義妹黒崎ミチコからのメールを見た。
[お兄様…申し訳ございません、うちも人手不足で今回二週間全てにドクターの派遣が難しくて…中何日か…他をあたって頂けませんか…?]
(だろうなぁ……今回の件で大学は無理だろう―リノに聴いてみるか………)
「リノか?」
『くろさきぃ!?黒崎なのぉ!!!!』
受話器の向こうから、跳び上がらんばかりの甲高い声が返ってきた。
「おう…久しぶりだな―――お前は別として…宗方先生は元気か」
『元気に決まってるわよっ! 何年ぶりぃ―っ⁈ あんたが日本に帰って来て…田舎に引っ込んじゃってからだから―ぁ…』
「4年経つか?」
『どうしたのよ……何かあった?』
「ちょっと、頼みがある…俺の代わりに4、5日診療所で診察してくれる暇なドクターの心当たりないか?」
『つまり…代診ってこと?』
「そうだっ、」
先生は歳の離れた同級生、宗方リノにいきさつを話した。
宗方リノは大学病院時代の指導医宗方シンジと結婚し、大学病院を退職して実家のクリニックを継いでいたが
夫が定年を迎えたのを機に 夫婦でクリニックを開業していた。
『いる、いる~めっちゃ暇なのが…ただし、条件が、………』
「条件?…何だぁ…ギャラか?」
『ううん、違うの…子連れなのよ…そのドクターが』
「子連れぇ―!?…………まあ―なぁ、ガキをちゃんと監視できるんなら…問題ない…が」
先生は子連れに引っ掛かりはしたが、この際つべこべ言ってられない、時間が逼迫していると諦めた。
『はいっじゃぁっ決まりっ!………アタシが代わるわ――4、5日って言わず10日でも――だって1日百人とかないでしょ?ー―♪』
「おっ、お前ぇっ “アタシが代わる” って…いつから子連れになったんだ!………」
『一昨年の8月…妊娠に気がついた時はもう6ヶ月で…高齢出産のリスク考えてシンジと子供は作らないって決めてたのにぃ…………アタシ子供って好きじゃなかったし…』
話しが長くなりそうで先生は途中で宗方リノの話しを遮り、
「わかった、後で詳しく連絡する、ガキ連れてくるんなら、ベビーシッターを一緒に連れて来いよ…無ければ、俺が知り合いを当たっておくから…」
『わかった~土日を入れてよねじゃ、シンジも呼んで週末温泉三昧』
「…」
先生の居ない2週間の岬診療所の代診のドクターのめぼしがついた…
先生の乗った新幹線は定刻通り東京駅に到着した。
久しぶりの東京駅が随分様変わりしているので注意ぶかく順路表示を辿りながら八重洲南口からタクシーに乗り込んだ。
「T大病院まで…」
(……明日は町田柊士が羽田に到着する、直ぐ検査だな…)
T大学病院消化器外科の教授は18年前の同僚原医師。病院院長は当時の循環器内科教授。三浦ハルヒは胸部外科教授兼高度救命救急センター長。
( …病院院長と原先生は仲がいいか、原先生は今年64歳、…消化器外科教授選…原先生を担いで病院長を総長に押し上げ 病院長の後釜か… 原先生の天下り先…だな♪原先生知らぬ間に良いポジショニングじゃないですか…使わせてもらいますよ…ちょっ面白くなってきたなぁ、先ず消化器外科教授選…か…フン フン♪)
タクシーの中で鼻歌が出てくるほどご機嫌な先生だった。
先生はあらかじめ三浦先生から送って貰った今の病院内の勢力派閥情報に目を通していた。
( …世の中 金と名声が全てか…)
「Hello…クラリスか? 頼みがあるんだ…」
Drクラリス.ファインは スタ◯◯ー◯の医科学研究所時代の教え子だった。今はスタ◯◯ー◯大学基礎化学研究室で癌の免疫治療薬の開発研究を産学共同で研究している。彼女も既にアラフィフ世代となっていた。
先生の頭の中は、目前に迫った難題を解決するための集中モードに切り替わっていた。
……明後日は藍川夢が日本から出国するというのに…
T大病院に到着した先生は、原先生に挨拶し、今回の無茶な頼み事を、原先生の尽力で、院長の了解が取れたと、原先生を最大限持ち上げた。人の良い原先生は、
「いや、黒崎先生があの時講師だった僕を、次期教授に強く押してくれたからこそ僕の今があるんです。今回のオファー正直たまげましたよ、黒崎先生…やはり貴方は〝持ってます〟ね。今回僕が出来る事は最大限貴方をバックアップする事です」
原先生は黒崎先生を、病院長に紹介した。
(…循環器の教授…覚えて無いけど…まぁ無難な印象だな…これで、やりやすくなった…)
原先生と二人で、職員通路を歩きながら、
「ところで、先生 つかぬ事をお尋ねしますよ、先生来年の定年後は?…」
また何やらややこしい事に自ら首を突っ込む悪い癖が出てきた。
「あぁ、まぁ一応ね、ここだけの話し、幾つかはオファー来てます。まぁ…帯に短し襷に長しって感じですけど…何せこの18年間良くも悪くも地味に消化器外科引っ張って来れたんで…」
実際、18年間大きなトラブルも無くT大病院の第二外科をまとめ上げてきた功績は奇跡的だと先生は一目置いていた。
「もしも、先生っもしもですよ、その行き先がしっくり来ないなら 僕が天下り先をご紹介しますよ♪…」
黒崎先生の甘言は原先生の触手を刺激せずにはいられない。
「マジで♪…いやー黒ちゃんには何か 美味しい汁吸わせて貰ってばっかりだな……今のオファー先と比べたりしたら気分悪くならないかい?」
原先生は還暦を過ぎても正直で可愛い人だと先生は改めて思う。
「やだなぁ~先生っ!そんなわけないじゃないですか、1番ゆっくり出来てギャラのいい所選んで下さいよ…俺も老後考えたら金が1番健康2番って、最近真剣に考えてますから…大学病院は安過ぎる!特に日本は…話しになりません」
黒崎先生の老後の話しは原先生の興味の的を得た。
「黒崎先生も…!そうですよ…子供に有り金注ぎ込みましたからね…、私と妻二人の老後が…やっと子供らも自立してくれて、これから老後問題に立ち向かう気力が…」
(……原先生苦労されてるんですねぇ…まぁ俺は子育ても人任せ、子供の教育も大学入るまでまとまった金使ってねぇなぁ…)
香川タカシ 黒崎タクヤ 無料家庭教師のお陰。
原先生の三人の子供は誰一人医者にはなれなかった。小さい頃から有名学習塾に通わせ 有名私立を幼稚園から受験し暗黙の了解で医者を目指して子供の教育につぎ込んできた。
医者を目指す子供にかかる費用は軽く見積もっても小学校から高校、大学まで全て私学だと1億以上注ぎ込ま無いと医者には成れない。
もちろん、国家試験を受かれば…の話し。
全て国公立で費用面は3分の1程度か、日本の最高峰の大学の胸部外科教授の三浦ハルヒはそのルートで第一外科トップに立っている。異例中の異例 運と実力を兼ね備えている人物と言える。
これに加えて黒崎先生の持論、極論がある。
…人も馬も変わりない。究極のサラブレッドはその身体能力を兼ね備えた血統のみの馬から産まれる。人が苦労せず 金も注ぎ込まず医者になるなら血統しかない。血統プラスαは環境。先生から言えば環境=放置
先生のメソッド通りなら 医者に限らず頭脳職はいつでも簡単になれるそうだが、原先生は黒崎先生の血統説を知っていたら、ひょっとすると子供につぎ込んだ資金は 今頃老後資金として天下り先の心配は必要なかったかもしれない。
(…まぁ 原先生、お互い老後は楽しましょう…)
やっと新しい物に交換したと思ったらまた娘からだった。
「なんだ、どうした?」
先生は娘のヒステリーに巻き込まれないように用心深く電話を受けた。
『ダッドっ、ずっと電話してたのに、不在ばっかりっ…何処かに出かけてたの?』
「いや…スマフォの調子が悪くて修理に出していたんだ」
『そうなんだ……じゃ固定電話ででも連絡頂戴よっ 心配して損しちゃった…』
電話の向こう側の膨れっ面が目に浮かぶと、先生も娘がまだまだ子供っぽい事に安心する。
「用は何だ?」
『明後日こっちを先生と発つの…ちょうど試験も済んだし…ちょっ早いクリスマスバケーションってわけ…初めてっ!ファーストクラスよ!』
「それで…」
『それでじゃないよ…ダッドぉ…先生の泊まるホテルに診察に来てくれるんでしょ?』
「いや…町田はT大学で入院してもらう、検査だ」
『…え~聞いてないっ………せっかく鎌倉のグランマの所でゆっくりして貰おって思っていたの…に…』
我が子の一途な恋心がいじらしいと思わないでも無い先生は、
「まあ…検査が問題無ければ一泊ぐらいは鎌倉に行けるんじゃないか?」
『マジーッワオーオーッマイガーッヤッターッ―!!』
(全く…げんきんな奴…)
「勘違いするなっ お前は町田の家族でも何でもないから病棟には入れないぞっ、 これはお前がどんなに〝ゴネても〟病院の規則だからな」
…………
急に無言になり、応答が無くなった。
「ユキィ…! ユキっ!そこに町田はいるのか?」
先生は何とは無く娘が町田と暮らし始めているような厭な予感がしていた。
『居るよぉ~
居るに決まってんじゃん、先生が退院した日からずっと居る!…今入院中は会えないって言ってたところ…』
…ふんっ…町田だってお前みたいな喧しい女は側に置きたくないさ…
先生の愛娘は若い時の先生以上に無鉄砲な行動をする。
『黒崎っちょっと代われ…』
側から町田柊士の代われの声が先生にも聴こえた。
『先生ぇ―っ!あ―――っ』
『ドクター、ご心配いりませんよ…娘さんには指一本触れてませんから…………………』
「当たり前だっ…お前にはしっかり藍川繭との後始末付けて貰わねぇとな…しかしお前っ 本気じゃないだろ?(ユキちゃんの事)本気じゃないなら 早いとこテキトーにあしらって捨てろっ!俺に遠慮は無用だからな…全く誰に似たんだか、ただの小うるさいガキじゃないか…魅力も何もねぇ…」
『〝その事〟(藍川繭)は、優秀な弁護士も付いてますし、きっちりカタつけます。そのために、二度と帰らないと誓った日本に帰るんですから…
……………………………
同じ過ちは繰り返しませんよ、もう俺も、先生の言うところの〝ガキ〟は卒業してるんで…お嬢さんの事については、改めて帰国したら話しさせてください。』
町田は旧態然とした日本の芸術界から追い出されるように日本を後にした。日本では全く認められず、同棲までして愛した女を紙くず同然に棄ててあても無くバルセロナへ向かった。
その日本の芸術界が両手を上げて 世界中でアート旋風を巻き起こしている町田柊士を日本に凱旋させようとあの手この手で町田のエージェントにオファーをかけてきた。町田は日本文化には全く興味が無いと突っぱねていたが…
棄てた女への償いが必要な事情が出来た。
(…同じ過ち繰り返されちゃこっちが困るんだよっ…ユキが下げマンだったら また 棄てるのか!…その時は 俺がお前の息の根止めてやるから…)
「ただよ…捨てられたって、生きてりゃまた縁もあるだろうが、死なれるとだな…残っちまって先に行けないんだよな…それだけは娘に味合わせたくはない。だから、入院中は俺に従ってもらう。部屋はお前がリザーブしていた部屋のもうワンランク上を用意してあるから…マスコミにも絶対嗅ぎ付られ無いように皇室並のVIP待遇だぜ…」
『わかりました…会見は改めてっ事ですか?』
「まあーそうゆう事だ…検査結果がよければ…だ…無罪放免!ユキのバカが鎌倉のうちの旅館に招待するって息巻いてたからな…
覚悟しとけよ…………………ひょっとして…年貢の納め時かもな、言っとくが、俺の家族は相当ヤバいから…意味は自分で考えろよ」
『お会い出来る事を楽しみにしています』
(…っち…脅かし効かねえじゃんっ…)
町田柊士は黒崎先生に全てを任せてみる気になっていた。
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午前中だけとは言え、限界集落の僻地へ長丁場の代診…町田柊士が帰国するまで黒崎先生はドクターチームのリーダーとしてT大学の設備を利用し彼の体調管理をする事が決まっていた。
全てが自由診療の今回のオファーは黒崎先生の臨時講義のオマケまでついているとあって大学側も快諾していた。
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[お兄様…申し訳ございません、うちも人手不足で今回二週間全てにドクターの派遣が難しくて…中何日か…他をあたって頂けませんか…?]
(だろうなぁ……今回の件で大学は無理だろう―リノに聴いてみるか………)
「リノか?」
『くろさきぃ!?黒崎なのぉ!!!!』
受話器の向こうから、跳び上がらんばかりの甲高い声が返ってきた。
「おう…久しぶりだな―――お前は別として…宗方先生は元気か」
『元気に決まってるわよっ! 何年ぶりぃ―っ⁈ あんたが日本に帰って来て…田舎に引っ込んじゃってからだから―ぁ…』
「4年経つか?」
『どうしたのよ……何かあった?』
「ちょっと、頼みがある…俺の代わりに4、5日診療所で診察してくれる暇なドクターの心当たりないか?」
『つまり…代診ってこと?』
「そうだっ、」
先生は歳の離れた同級生、宗方リノにいきさつを話した。
宗方リノは大学病院時代の指導医宗方シンジと結婚し、大学病院を退職して実家のクリニックを継いでいたが
夫が定年を迎えたのを機に 夫婦でクリニックを開業していた。
『いる、いる~めっちゃ暇なのが…ただし、条件が、………』
「条件?…何だぁ…ギャラか?」
『ううん、違うの…子連れなのよ…そのドクターが』
「子連れぇ―!?…………まあ―なぁ、ガキをちゃんと監視できるんなら…問題ない…が」
先生は子連れに引っ掛かりはしたが、この際つべこべ言ってられない、時間が逼迫していると諦めた。
『はいっじゃぁっ決まりっ!………アタシが代わるわ――4、5日って言わず10日でも――だって1日百人とかないでしょ?ー―♪』
「おっ、お前ぇっ “アタシが代わる” って…いつから子連れになったんだ!………」
『一昨年の8月…妊娠に気がついた時はもう6ヶ月で…高齢出産のリスク考えてシンジと子供は作らないって決めてたのにぃ…………アタシ子供って好きじゃなかったし…』
話しが長くなりそうで先生は途中で宗方リノの話しを遮り、
「わかった、後で詳しく連絡する、ガキ連れてくるんなら、ベビーシッターを一緒に連れて来いよ…無ければ、俺が知り合いを当たっておくから…」
『わかった~土日を入れてよねじゃ、シンジも呼んで週末温泉三昧』
「…」
先生の居ない2週間の岬診療所の代診のドクターのめぼしがついた…
先生の乗った新幹線は定刻通り東京駅に到着した。
久しぶりの東京駅が随分様変わりしているので注意ぶかく順路表示を辿りながら八重洲南口からタクシーに乗り込んだ。
「T大病院まで…」
(……明日は町田柊士が羽田に到着する、直ぐ検査だな…)
T大学病院消化器外科の教授は18年前の同僚原医師。病院院長は当時の循環器内科教授。三浦ハルヒは胸部外科教授兼高度救命救急センター長。
( …病院院長と原先生は仲がいいか、原先生は今年64歳、…消化器外科教授選…原先生を担いで病院長を総長に押し上げ 病院長の後釜か… 原先生の天下り先…だな♪原先生知らぬ間に良いポジショニングじゃないですか…使わせてもらいますよ…ちょっ面白くなってきたなぁ、先ず消化器外科教授選…か…フン フン♪)
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先生はあらかじめ三浦先生から送って貰った今の病院内の勢力派閥情報に目を通していた。
( …世の中 金と名声が全てか…)
「Hello…クラリスか? 頼みがあるんだ…」
Drクラリス.ファインは スタ◯◯ー◯の医科学研究所時代の教え子だった。今はスタ◯◯ー◯大学基礎化学研究室で癌の免疫治療薬の開発研究を産学共同で研究している。彼女も既にアラフィフ世代となっていた。
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また何やらややこしい事に自ら首を突っ込む悪い癖が出てきた。
「あぁ、まぁ一応ね、ここだけの話し、幾つかはオファー来てます。まぁ…帯に短し襷に長しって感じですけど…何せこの18年間良くも悪くも地味に消化器外科引っ張って来れたんで…」
実際、18年間大きなトラブルも無くT大病院の第二外科をまとめ上げてきた功績は奇跡的だと先生は一目置いていた。
「もしも、先生っもしもですよ、その行き先がしっくり来ないなら 僕が天下り先をご紹介しますよ♪…」
黒崎先生の甘言は原先生の触手を刺激せずにはいられない。
「マジで♪…いやー黒ちゃんには何か 美味しい汁吸わせて貰ってばっかりだな……今のオファー先と比べたりしたら気分悪くならないかい?」
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「やだなぁ~先生っ!そんなわけないじゃないですか、1番ゆっくり出来てギャラのいい所選んで下さいよ…俺も老後考えたら金が1番健康2番って、最近真剣に考えてますから…大学病院は安過ぎる!特に日本は…話しになりません」
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「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
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