白衣の下 第二章 妻を亡くした黒崎先生、田舎暮らしを満喫していたやさき、1人娘がやばい男に入れ込んだ。先生どうする⁈

高野マキ

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凱旋帰国

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月曜日 ニューヨーク ジョンFケネディ空港。
町田柊士と黒崎ユキは 15時00分発羽田直行便のファーストクラスラウンジで軽めの食事を摂っていた。



「ねぇっ、センセーっファーストクラスって何から何迄違うんだっ!だって 出国手続きから搭乗口まで全部別ルートだし、オマケに出発まで食事や買い物だって混雑しないでできちゃうしっ ダディってさ、自分はファーストクラスでもユキは働いてないからっていつもエコノミーだよ! 酷くない?」


若い彼女は出された食べ物を 〝美味しい 美味しい〟と全てたいらげていく。柊士は彼女の食べっぷりを和やかな気分で見つめていた。



「黒崎っ 食うか、喋るか どっちかにしたらどうだ? 飛行機の中でディナーが出てきたら 食べられないよ…」


一応年長者らしく 目の前の元気な大学生の女の子に注意した。



「センセっ大丈夫だって 機内は機内で食べるから…、だってさーソーホーからここまで何時間かかった? ありえないじゃん!ハイウェイ渋滞で動かないしさ、早めに出てランチしようって 言ってたのに
この時間だよ!食べなきゃっもたないもん…」



柊士が一言云うだけで 機関銃のように言葉の洪水がユキの唇から溢れ出す。町田柊士は コロコロ変わる表情と何を言い出すか予測不可能な目の前の19歳の女の子をもう暫く観ていたいと心底おもった。

   

  生命力の塊のような女の子だった。


黒崎…ちょっとお前をクロッキーの対象にしていいか?」

町田柊士は手提げのトートバッグからコンパクトなスケッチブックと木炭を出してきた。



「えーっ!大丈夫?センセ わたしなんかで…」
口に食べ物を運ぶ手が止まった。



「今 ちょっと 描きたいって 思ったんだよ そのまま食べてなさい…」



木炭を軽く持つ指先が上下左右斜めに繊細で自由奔放に動いていく。
視線は黒崎ユキを捕らえたまま 見る見る紙面は躍動感あふれる対象物が浮き上がる。


素早く数枚描き上げてる間に ラウンジの案内係りが搭乗開始を知らせに二人が座っているテーブル席まできた。




「あの、失礼ですが、彫刻家のシュウジ.マチダ様では…ございませんか?」


案内係りは案内より先に 町田柊士にサインをねだった。

快く承諾し、テーブルナプキンに木炭でサインと日付け、テーブルに飾ってあった一輪挿しのアネモネをささっと描いて 案内係りにプレゼントした。

そして、一輪挿しから赤いアネモネをサッと抜いた町田柊士は水に浸かっていた茎を手折ると真っ白なオープンシャツを着崩した隣りの〝お嬢さん〟の胸のポケットへスッと差した。




「うわっ♪ かわい~じゃん」

些細な事でも 町田柊士に構ってもらうと、父親や育ててくれた香川タカシには見せたことのない笑顔を振り撒く。


柊士は大きな手のひらで黒崎ユキの頭上から後頭部をつつみこむように一、二度 撫でて

  

  「お行儀よくな…」と、囁いた。

   …………


この2人のやり取りは、地上勤務の職員の目に綺麗な静止画像のように映った。




「ありがとうございます。一生の宝物にさせて頂きます。今よりファーストクラス搭乗口までご案内いたします。」


航空会社地上勤務員の役得だった。




地上勤務の職員がボーディングブリッジを通り搭乗口迄誘導すると、ファーストクラス客室乗務員がゆったり広々した機内の座席まで案内してくれる。座席はシングルベッドにもなり、別コーナーにライティングデスク、冷蔵庫 インターネット接続大型モニターなど備えられちょっとした空飛ぶワンルーム仕様は、黒崎ユキをハイテンションにさせ、客室乗務員も苦笑いするほどだった。



 (…君は知ってるかい?赤いアネモネの花言葉を…)





(……このお嬢さんは、医療界ではセレブ中のセレブな環境で申し分無く贅沢に育てられてる筈が…初めから 気取る事なく、天真爛漫で 庶民感覚…全く天然記念物級だな…フフフ…)



「黒崎…これから14時間は機内で缶詰めなんだから、最初からはしゃぐと疲れるぞ…」



町田柊士は時々 黒崎ユキに注意を促しつつ 微笑ましく彼女を観察していた。




「センセイっ ダディからメールよっ センセイへって…」
既に座席をベッドにして早々とねっ転がりながら 長い手で隣りの町田柊士に スマホを突き出した。


〝町田 飛行機に乗ってるか? 何処からかお前の帰国が漏れてるぞ。明日すんなりT大病院直行とはいかないかもしれん 一応覚悟しといてくれ。できるだけ 航空会社に掛け合ってみるから、ユキが馬鹿みたいにはしゃぐようなら 1発おみまいしてやってくれよ…それと、顧問弁護士が先に来てるから、とりあえず弁護士に任せた。〟

  
  

( …弁護士って 息子さんじゃないですか?…)



スタ◯◯ー◯大学医学部准教授の香川タカシは、町田柊士の1週間早くなった帰国に間に合わなかった。

シリコンバレーの自宅で 黒崎先生からのガミガミ電話に耐えていた。


『香川ぁっ お前相変わらず、フットワーク鈍すぎなんだよっ!マチダの帰国がバレちまって、空港で記者会見になるかもしれんっ、タクヤは来てるが、肝心の主治医代理のお前が間に合わないんじゃはなしにならないじゃんかっ! どうするんだっ落とし前付けろよっ』


(…今ならパワハラ モラハラでアウトですよ 先生……)



電話の向こうの黒崎先生の怒った顔が懐かしい。
スタ◯◯ー◯で先生の助手を続けていた頃は、理不尽に理不尽な要求ばかり突きつけられ、一時は〝くたばれっジジイ〟と心で唱えたものだった。

あの時の経験が今の土台となって、ほとんど全ての問題は悩むことなく解決し、研究を続けられている。



「先生っ 先生が会見にでれば 全て解決じゃないですか?」

香川タカシは 怒鳴り散らす先生に 平然と言い放つ。



『バッカ野郎!会見なんて面倒くせえからお前に任せるつもりだったんだ、お前ならそつなくこなせるだろうがっ」



「先生 それは買い被りです。第一、マスコミはシュウジ.マチダの凱旋帰国だけが目的の、会見じゃないはずですよ!マチダのマーゲンクレブスをロボットアームでオペした 先生の発言も重要視してるはずです。マチダの命は先生が握ってるんですから!僕が先生なら……この機会に日本の閉鎖的な医学界 美術界を木端微塵にこきおろしますがね…』


  「…………ふんっ…なるほど…な…」




ケネディ空港を出発して、14時間後
翌日午後18時すぎ…


2人の乗った飛行機は 着陸態勢に入り羽田上空を旋回しだす。シートベルト着用のアナウンスが機内に流れて 町田柊士は西日が沈みかけた薄暗い夕闇の東京を窓ガラス越しに見つめていた。
都内の高層ビル群が眩いばかりに光りを放ち真下の首都高速をひかりのドットが帯を成して繋がっている…

それは 町田柊士にしかわからない東京への想い…

通路を隔てた隣りの座席から ちらちらと町田柊士の様子を伺う黒崎ユキは この時間は先生をそっと見守ろうと、何故かそう感じ、気にしつつ知らんふりをしていた。





〝皆さま、当機は東京国際空港羽田に着陸いたしました。これより15番ゲートまで移動いたします。シートベルト着用サインが消えるまでお席でお待ち下さい。……今より全ての電子機器の御使用が可能となります。……もうすぐクリスマスのシーズンを迎え、一段と寒気が流れ込んで来ております。皆様どうぞお体にお気をつけてお過ごしくださいませ。今日も◯◯航空を御利用頂き誠に有難うございました。〟

  
    ………



「ふぁぁぁ~やっと着いたぁぁ!」
黒崎ユキはシートベルトしたまま両手両脚をピンと伸ばした。




ファーストクラスの客室乗務員が町田柊士の元にやってくると、

「畏れ入ります、只今空港事務所より、ターミナルから空港ビルへの出入り口に大勢のマスコミが殺到していると連絡が入りまして、マチダ様顧問弁護士様より 空港職員の出入り口の使用希望のお問合せありました。一般のお客様の混乱を避けるため、私ども当機乗務員通路からお出になっていただけますか?」



「ご迷惑をおかけし申し訳ありません、お心遣い感謝いたします。」
町田柊士は丁寧にCAに礼を言った。



「大変図々しいお願いなのですが、実は当機機長がマチダ様の大ファンで是非ご挨拶に伺いたいと伝言されまして…」
困り顔のCAが気の毒になり、
  
  (…CAも大変だな…)



「勿論、喜んで、何なら私の方から機長にご挨拶に伺います。」
流石にウンザリ気味な町田柊士の心の中を知ってるのは隣りの席で成り行きを見ているユキだけだった。


「有名人って大変ね♪」

いつも持ち歩いているメイドインジャパンの果汁グミをクチャクチャいわせながらユキが呟いた。


「しっ 聴こえるよっ」

柊士が人差し指を唇に当てる。


ユキは面白がって、
「うちのダディだったら CAのお尻か胸触ってジ・エンドかも…」


「じゃ俺も先生に倣って 触ってやろうかっ」

柊士が愉快げに返した言葉に 過剰反応したユキは飛びかからんばかりに町田柊士の膝にまたがり 



「ダメっそれしたら ジ・エンド!」と柊士の頬を強く抓った。

あまりの痛さに膝の上の黒崎ユキを抱えて座席から立ち上がり軽々と持ち上げた彼女を通路に下ろして



「お行儀よくだよ、黒崎 」と睨んだ顔は何故かニヤケ顔だった。

二人のやり取りを見て見ぬふりで正面から機長が近づいてきた。



町田柊士は機長にも丁寧に受けごたえし、握手して機内に残っている乗務員全員と記念撮影に応じた。



それから、二人はパーサーの案内で空港関係者以外外部者と接触する事なく空港内のVIPルームに、通された。


「Hello!タクヤ」


黒崎ユキはVIPルームで待っていた血の繋がりの無い兄と対面しお互いにハグとキスを交換した。


「ユキちゃん、暫く会わない間にまたせがのびたんじゃないの?」
タクヤが、妹の頭を撫でたくても背丈がほぼ近くなってしまっていた。



「そうかなぁ…?」

ユキが疑問に思っている間に タクヤは本人と直接会うのが初めての 町田柊士と握手を交わし、直ぐに直面するビジネスについて提案した。



「マチダさん、早速ですが、貴方の顧問弁護士としては、内外の大勢集まったマスコミの記者を煙に巻くのは無理と、判断しています。
今日は空港の会見場を押さえていますので、10分間と限って会見に臨んでいただけませんか?」


タクヤは会見は全て仕切ると断言して町田柊士に了解を取りたかった。


「先生、黒崎先生は臨席していただけますか?」

主治医として名指しで世界中に報道されているので、臨席は当然と考えていた。



「それが、黒崎ドクターは T大学病院の面子も考えて今回は黒子に徹すると言われて、会見の同席を辞退したいと…」

タクヤも父親の同席には無理もあると納得したが、クライアントの町田柊士の同意を取らないと前に進まない。



「それは、そうですね、では私の体調についての、質問は無しと言う事ですね?」



柊士も今更胃癌の話しに集中されるのも疲れると感じていた。


「そうしたいところですが、全く質問無しは難しいでしょう…どうしても今回の帰国の目的が、日本の美術協会の招きと初展覧会の開催だと全面にアピールして、来年展覧会会場で正式な会見をする事で何とか納得してもらいましょう。時間が来たら 全てシャットアウトして会見場を退出します。タイムキーパーをそでで待機させておきます。」


タクヤの力強い言葉と段取りに否定する根拠はなかった。


「わかりました。」



「では、私は記者会見をする事を表のマスコミに通達してきます。会見は20時から10分間とします。それまでリラックスしていて下さい」


町田柊士は覚悟を決めた。



記者会見は報道 ワイドショー他で全世界に放映されるだろう。
藍川繭も必ず目にするはずだと、気持ちが強張るような感覚に襲われた。

    ………………




「ダッド!今どこなのっ 先生が大変なんだからっ 先生一人で会見に出すつもりなのぉ!ダーッ 今何処にいるのよっ 今すぐ羽田に来てっ!」



黒崎ユキは柊士とタクヤのやり取りを側で見て、いても経ってもいられず、VIPルームを飛び出して女性用トイレから父親に電話をかけた。



「ユキちゃんか?…」

先生はのんびり他人事のように電話に出た。


「ユキちゃんかじゃないわっ ダーッ 先生は病み上がりなのよっ なのに 大勢のマスコミに取り囲まれて病気が悪化したらどうするのよっ ダッドが来て代わりに会見してっ!じゃなきゃ アタシ一生ダッドを許さないから!今何処なの?」


先生は、泣き声に変わった娘の訴えを無視できるほどの強い父親ではなかった。



「わかった、わかったから泣きなさんな…今からそっちに行くから、泣くんじゃないよ…まったく…困った娘だ…」




先生は電話を切ると 抱きしめていた小柄な女性の小さな頭に何度も唇を、押しつけた。



 「行くんですね…」


懐中深くおさまりの良いポジショニングが二人をなかなか離させない。今夜22時アメリカ経由で東欧に出発する藍川夢を諦め切れずに先生は引き止めに羽田の出発ロビーに来ていた。

娘とその男になるかもしれない中年男を放って、自分の気持ちを優先した。


「藍川…もう止める事はしないよ…お前の選んだ道だからな、初めての男を捨ててまで行くんだ、しっかり働いて来い。」
抱きしめた小さな女の躰が震えている。



「先生…先生を愛しちゃダメでしょうか…?」

鼻にかかった掠れ声は〝泣いてるのか?〟先生は抱きしめる腕に力を加えて

「こんな俺を愛してくれるのは お前さんぐらいだよ、俺のどうしようもないところをたっぷり見せてきたからな…」


「先生…先生はいつだってどんな時だって私の最後の拠り所でした。仕事も…プライベートも…愛してます…」

夜20時近く国際線搭乗手続きのアナウンスが流れる人影まばらな出発ロビー…


二人は人目もはばからず、唇を重ねた。


  

(…藍川…行くなと止めたかったよ…)




(…先生…ただ1人男(ひと))



先生は今夜出国する藍川夢の為に 町田柊士の会見は同席を断っていた。しかし、1人娘に泣かれては、会見に出ざるおえないと腹を括り、藍川夢の搭乗を見送る事なく、出発ロビーを後にした。


急ぎ足で空港ビルの会見場所に先生が着いたのは約束の会見終了の20時10分を過ぎる頃だった。



   『マチダさんっ日本滞在中はprofessorKurosakiの診察は?』



『マチダさん、もう一度日本滞在の本当の理由をお聞かせ下さいっ』

   

「この滞在他にも理由がおありなんじゃあないですか?」


  
  『胃癌がかなり深刻な状況だとアメリカの専門医もコメントしてますが体調は?』



「今まで日本には興味無いと公言されていたのに帰国とは、やはり黒崎先生の治療が目的では?」




「すみません!皆さん予定の会見時間が過ぎましたので、これでシュウジ.マチダの帰国会見を終了させて頂きます」


タクヤが町田柊士に退席を促していたその時、



「いやー遅くなりましたっ記者の皆さん」



壇上から
「黒崎先生っ」と町田柊士が声に出したものだから、記者は一斉に会見会場の後部の扉に視線や体勢を移した。



先生は黒のアル○ー○の細身のパンツに、白のノーネクタイのシャツ姿というラフな恰好のまま真っ直ぐに壇上に、向かって大股で進んでいった。

    (……ほら、また…ダディのお得意が始まったよ、…)
  


タクヤは何度も学会の講演や大学の特別講義に付き合わされて派手なパフォーマンスにウンザリしていた。しかし身内の反応に、相反して、聴講者からは大人気、開催者からは引くて数多の人気講師だった。



壇上で、マイクを持つと先生の独断場となる。


「町田柊士さんには長旅のお疲れが相当だと、主治医として看過出来ないので予定通りこのままお引き取り頂き、町田先生の、胃癌のオペについて、若干私、黒崎から御説明申し上げます。」

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先生が熱弁を奮っている間に先生は待機していたT大学病院の三浦ハルヒ先生の乗ったワゴン車の中に消えた。


黒崎タクヤとユキは、ウンザリしながら父親の会見が終わるのを待っていた。


『先生っ今回シュウジ.マチダから名指しで主治医に指名され、帰国に興味なかった彼が帰国に踏み切った背景はやはり胃癌の悪化ですか?』



「えーその事についてですが、はっきりした事は日本滞在中に検査してみないとお答えしかねます。しかしアメリカで緊急でおこなった手術については、私の所見として、転移無しの胃癌でした。その後のリンパ節浸潤の可否も、組織検査ではクリーンでした。
後は、私も旅先での出来事でしたので、今回町田さんには再度検査を私のチームで、実施する予定です。
協力病院は、私の母校T大学附属病院 チームの一員として、これも私の母校になりますが、スタ○○ー○大学医学部准教授の香川タカシ先生が、クリスマスバケーション期間、全て町田さんの検査、治療にご協力いただける事になりました。」




会場からは響めきがわきおこった。アメリカの通信社の記者は早速本国に号外記事を配信した。

  ーーーーーーーーーーーーーーー
        ーーーーーーーーーー


「この度は、T大学、並びにT大学附属病院 学長、病院長 また、対症疾病関連の先生方に熱く御礼申し上げたい。寛大かつグローバリゼーションが、我が国にもしっかり根付いた証として、まずは日本の医学界から世界に発信できる事例として、チーム一丸となって世界的な彫刻家町田柊士先生の御健康を御守り申し上げる所存ですっ!」


 

   ーーーーーーーーーーーーーーー



「以上を持ちまして、町田柊士先生帰国会見並びに主治医による町田先生の胃癌に対する今後の治療方針の説明会見を終了させて頂きます。」



  

 …………やっちゃったよ…クロセン…
  マジ転移してたら… 知りませんから!…



カリフォルニアシリコンバレーでライブ配信を見ていた香川タカシ
同じくマイアミでクリスマスバケーションを楽しんでいたクラリス.ファインが同時に青ざめた。




空港ビルでの会見から3日がすぎた。

鎌倉の祖母の家で過ごしているタクヤとユキだったが、早くもユキが兄のタクヤに〝町田先生に逢いたい〟と泣き付きだした。



「タクヤっ タクヤは先生の顧問弁護士だから自由に会えるでしょ!私も逢いたいっ 会わせてよっ」

綾野家(旧早川家)は一度に二人の孫が食卓に揃い何年ぶりかで賑やかな夕食となっていた。



「タックンは和牛の〝ビフテキ〟で良かった?…えーっとユキちゃんはジィジとお刺身がいいかなぁ?」


旅館の女将の仕事がひと段落した、〝カヲルお婆ちゃん〟は孫2人が揉めているなど、知る由もなく夕食の準備にキッチンに入って行く。



「ユキちゃん、ダディが駄目って言ったら絶対ムリ!今回ばかりは僕も仕事だから、ゴメン…」



手酌で日本酒の大吟醸を味わいながら、突き出しの鱈の白子ポン酢に舌鼓をうつタクヤをユキは恨めしげに睨んでみたが、全く反応してくれない。



「もう、いい…頼まない…」

    ………… 


諦めたかに見えた妹に胸を撫で下ろした兄は お祖母ちゃんが焼いてくれた〝ビフテキ〟を口いっぱ頰張る。



カヲルとツヨシは、孫達と暮らすのも悪くないと、考えていた。

 ………………




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