罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

文字の大きさ
69 / 187
由奈の章 甘えたがりな義妹

オバケよりドキドキする気持ち

しおりを挟む
 ──由奈──


 クレープを食べ終わったあたしは、お兄ちゃんに触れる事もなく少しだけ距離を開けて歩いていた……。
 その理由は先ほどの事故……。

(ど……どうしよう……、わざとじゃないにしても、お兄ちゃんと間接キスしちゃった……)

 あたしの胸はドキドキと高鳴る……。
 途中からクレープの味なんて全然しなかった……。

 頭にあったのはお兄ちゃんと間接キスをしたと言う事実だけ……。

(でも……お兄ちゃんは少しはあたしなこと……意識してくれた……かな……?)

 あたしはチラッとお兄ちゃんの顔を覗き見るもいつもと変わらないお兄ちゃんの表情に、何を考えているのか伺いしれない……。

(どうしようかな……、折角のお兄ちゃんとの学園祭デート……もっと仲を深めたいよ……)

 あたしはなにかないかとあたりを見渡すと、お化け屋敷をしている教室を見つけた。

 これだ……!
 こわいけど……だからこそお兄ちゃんとなら……。

(お化け屋敷……! 怖いけど……でも、怖いからこそ……!)

 あたしは一歩、二歩とお兄ちゃんに近づいて、そっと腕に手を添えた。
 さっきまで少し距離を空けていたのに、今はもう、くっついて歩いている。

「ねえ、お兄ちゃん……あたし、あそこ行ってみたいな」

 指さした先には、黒い布で覆われた教室。入口には“恐怖!地獄の迷宮”と手書きの看板がぶら下がっている。

「え、お化け屋敷? でも由奈ちゃん、怖いの大丈夫なの?」

「えっと……苦手だけど……だからお兄ちゃんと一緒に入りたいかなって……ダメ……?」
  
 あたしは抱きついているお兄ちゃんの腕にぎゅっと力を込めながら上目遣いで見る。  
 お兄ちゃんの表情が一瞬だけ固まったのを、見逃さなかった。

(……やっぱり、ちょっとは意識してくれてるのかな?)

「……わかったよ。じゃあ、行こうか」

 お兄ちゃんは少し照れたように笑って、あたしの手を握り返してくれた。

 その瞬間、あたしの胸のドキドキは、さっきの間接キスよりもずっと強くなった。

(怖いのは、お化けじゃなくて……お兄ちゃんとの距離、かも……)

 あたしはそう思いながら、お化け屋敷の模擬店へと向かう。
  
「すいません、2人いいですか?」

「ええ、いいですよ!二人で600円です。」

 お兄ちゃんが受付の女の先輩に入場料を払おうとするのをあたしは制した。

「お兄ちゃん、ここはあたしがだすよ」

「え……?でも……」

「さっきクレープのお金を出してもらったからね。お兄ちゃんばかりに出させたら悪いし……ね♪」

 あたしはお兄ちゃんへとウインクをすると、顔を赤くして目を逸らすお兄ちゃん。
 ……その照れた顔がちょっとだけ嬉しい。

「わ……分かったよ……。ならここは由奈ちゃんにお願いしようかな……」

「うん!」

「お二人様ご案内~!」

 あたしは受付の先輩へとお金を支払うとお化け屋敷へと入る。


 教室を使ったお化け屋敷は、思っていたよりも本格的だった。  
 黒い布で天井まで覆われていて、足元にはうっすらとスモークが漂っている。
 さらにおどろおどろしいBGMのオマケ付きという念の入れよう……。

 教室の中に足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。
 ひんやりとした冷気が肌を撫で、背筋がぞくっとしたあたしは思わずお兄ちゃんの腕にしがみついた。

「うわ……本気だ……」

 お兄ちゃんがぽつりと呟く。
 その声が、いつもより少しだけ低くて、あたしの心臓が跳ねた。

(……お兄ちゃんの声、こんなに近かったっけ……)

 通路は狭く、二人並んで歩くにはちょっと窮屈。  
 自然とあたしはお兄ちゃんの後ろに回って、背中にぴったりくっつくように歩いた。

「由奈ちゃん、後ろからくっつきすぎじゃ……」

「だって……怖いんだもん……」

 あたしはお兄ちゃんの制服の裾をぎゅっと掴んだ。  
 その瞬間、教室の奥から「ギャアアアアア!」という叫び声が響いて、あたしは思わずお兄ちゃんの背中に顔を埋めた。

「うわっ、びっくりした……!」

 お兄ちゃんも驚いたみたいで、肩が跳ねる。  
 でも、すぐにあたしの手をそっと握ってくれた。

「大丈夫だよ、僕がいるから」

 その言葉に、あたしの胸がまたドキドキと高鳴る。  
 怖いはずなのに、なんだか嬉しくて、顔が熱くなる。

(お兄ちゃん……、優しい……)

 暗闇の中、あたしはお兄ちゃんの手を握り返した。  
 その手の温度が、あたしの不安も、照れも、全部包み込んでくれる気がした。

 そして、次の角を曲がった瞬間——  
 突然、壁の隙間から白い手が飛び出してきて、あたしの肩に触れた。

「きゃあああああっ!!」

 あたしは反射的にお兄ちゃんに抱きついた。  
 腕の中に飛び込んだ瞬間、お兄ちゃんの体がびくっと硬直するのがわかった。

「ゆ、由奈ちゃん……!?」

 あたしは顔を上げることができず、ただお兄ちゃんの胸元にしがみついたまま、小さく震えていた。

(ごめんね、怖いのは本当なんだけど……でもそれは口実で……今だけは……このまま……)

 あたしの心の中で、さっきの間接キスよりもずっと強い“想い”が、静かに芽吹いていた。  
 この距離、この温度、この鼓動……。

 やっぱりあたしはお兄ちゃんが好きなんだ……。
 でも……もしあたしがこの気持ちをお兄ちゃんに言ったらどうなる……?

 今まで通り義理とは言え、兄妹の関係じゃなくなる……?
それとも……。

 怖いのは、やっぱりお化けじゃなくて……。
 ……お兄ちゃんとの"関係が変わる事"なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

体育館倉庫での秘密の恋

狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。 赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって… こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...