罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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澪の章 寡黙なクラス委員長

攻めの澪と受けの彼方

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 朝食を終え、洗い物をしながら僕は今日の予定に思いを巡らせていた。

(今日は学園祭の代休……。澪とどう過ごそうか……)

 このまま澪の家でおうちデート……?
 いや、それも悪くないかもしれないけど、外は気持ちのいい晴れ空。
 こんな日に家にこもるのは、ちょっともったいない気もする。

(ならどこに行く……?)

 僕は顎に手を当てて思案するも、残念ながらこれと言っていいところが思いつかない……。

「彼方君悪いわね、洗い物までさせちゃって……」

 僕はウンウンと頭を唸らせていると、澪のお母さんが申し訳なさそうな顔をしていた。

「あ、いえ……、片付けまでが料理だと聞いたことがありますので」

「ほんとよく出来た子ねぇ……、澪にはもったいないくらいだわ……」

 お母さんは多少の皮肉を交えながら、半袖のシャツに短パンといった部屋着姿のままでスマホを見ている澪へと目を向ける。
 しかし、当の澪本人は知らぬ顔をしてスマホを眺めていた。

「それで、今日はこれから二人はどうする予定?」

「それが……まだこれと言って思い浮かばなくて……」

 僕は洗った食器を拭きながら苦笑する。
 最悪澪の部屋で過ごすという選択肢も考えなければいけないかもしれない……。

「それなら……こういうところはどうかしら?」

 澪のお母さんは僕へと寄ってくると、自身のスマホの画面を見せてくる。

 そこには市外ではあるけど、湖畔公園の画像が写っていた。

「湖畔公園……ですか?」

「ええ、見た目涼しげていいんじゃないかしら?」

 なるほど……確かにいいかもしれない。

「澪、どうする……?」
「いく……!」

 僕は澪へと問うと間髪入れずに文字通り秒で返事が帰ってきた。

「じゃあ、もうすぐ片付けが終わるからそうしたら行こうか」

「うん……、じゃあわたし着替えてくる……」

 澪はスマホをテーブルの上に置くと、ぱっと立ち上がって着替えるために自室へと向かう。
 その背中は、どこか弾んでいて——足取りも、ほんの少しだけ軽やかだった。

 そしてその様子を澪のお母さんがニヤニヤとしながら眺めていた、

「あの……なんですか……?」

「あら、ごめんなさい。なんだか……青春してるなぁって、つい見入っちゃって」

 青春か……、確かに僕は今澪と青春しているのかもしれない。

「さてと……私も仕事があるから着替えないとね……。それじゃ彼方君、澪のことお願いね」

「はい!」

 僕の頷きを見届けた澪のお母さんは、満足げに微笑むと、静かにリビングを後にした。


 ◆◆◆


 支度を終えた僕たちは、澪の家を出て駅行きのバスを待っていた。

 今日の澪の彼女の服装はグレーのノースリーブシャツに、風をはらむ白の膝丈スカート。  
足元はサンダル、頭には麦わら帽——夏の澪がそこにいた。

「ねえ……彼方くん今日のわたしはどう……?」

「うん、すごく似合ってるよ。それよりなんで今日はノースリーブのシャツなの?」

「……彼方くんを誘惑するため?」

 僕の問な対して澪は疑問系で返してきた。
 しかも無表情で……。

「……なんで疑問系?」

「……さあ」

 さあって……、やっぱり澪は少し謎の多い子だ……。

 僕はそう思いながらも道路へと目をやるとバスが見えてきた。

「澪、バスが来たよ」

「うん……」

 僕と澪は手を繋いでバスへと乗る。


 ここから駅までバスで確か10分ちょっと……、人もそこまで多くはないから席に座れるのだけどなぜか澪は僕のすぐ横で吊り革を握って立っていた。

「澪、座らないの?」

「いい……、わたしは立っておく……」

 座ればいいのに……そう思いながら澪の方を見ると彼女の脇が目に入る……!

(こ……これは……!)

 この時初めて澪の言っていた言葉の意味を理解した……!

 僕を誘惑するため……それはこの事だったんだ……!

「どうしたの?彼方くん……」

 僕の視線に気がついた澪は少しだけ笑みを浮かべるとじっと僕を見つめてくる……。
 僕は澪の顔よりも脇の方に目を奪われていた……。

 ノースリーブの隙間から、ちらりと覗くグレーの下着——視線を逸らしたいのに、逸らせない。

 ダメだ……!このままでは駅につくよりも前に僕の理性が持たない……!

「み……澪、お願いだから座ってくれないかな……」

「……ふふ、彼方くんって、ほんとにわかりやすい」

 澪は僕の耳元で囁くように言うと、少しだけ前かがみになって僕を見つめると、今度は彼女の胸の谷間が少しだけ見えていた。

 こ……この角度は……!マズイ……マズすぎる……!
  
 澪は本気で僕を誘惑しようとしてる……っ!?

 バスの揺れに合わせて、澪の髪が僕の頬に触れる。  
 その香りは、朝の寝起きの匂いとは違って、少しだけ甘くて涼しげだった。

 僕の理性はもう陥落寸前だった……。
 それでも残った理性でどうにか耐える……!

 駅に着くまでの10分が、まるで永遠のように感じられた。


 ◆◆◆


 電車に乗り換えた僕たちは、並んで座った。
 電車の中は乗客が少なく、僕たちが乗っている車両には数人ほどの人しか見えない。

 僕は澪に座って欲しいとお願いすると、今度は素直に座ってくれたけれど、彼女は僕の肩へと頭を置いていた。

「ねえ……彼方くん……。バスの中でドキッてしてくれた……?」

「うん……、凄くした……」

「興奮してくれた……?」

「う……うん……。でも、何であんな事を……?」

「何でってその……彼方くんをわたしに夢中にさせたいから……」

 僕は澪の言葉に一瞬、息を呑んだ。
 澪の声はいつも通り静かなのに、言葉だけが熱を帯びていて——  
僕の心に、じわじわと染み込んでくる。

「……夢中になってくれてる?」

 澪は僕の肩に頭を乗せたまま、上目遣いで僕を見つめる……。
 その瞳はどこか澄んでいて、でも深くて、吸い込まれそうだった。

「……なってるよ。もう、ずっと澪のことばかり考えてる」

「ふふ……よかった」

 窓の外へと視線を移すと、電車はゆっくりと走り続ける。  
 窓の外には、緑が増えてきた。
 街の喧騒が遠ざかり、空気が少しずつ澄んでいく。

「ねえ……彼方くん」

「うん……?」

 澪に呼ばれて振り向いた瞬間、唇が重なった。  
不意打ちのキス——でも、心はすぐに応じていた。

「み……澪……?」

「ふふ……、隙あり……」

 僕は顔を赤くして彼女へを見ると、澪はまるでイタズラっ子のような笑みを浮かべていた。

「……澪、今日はなんかテンション高いね」

「それはそう……、彼方くんとデートなんだから……。テンション上がらないほうがおかしい……」

 澪はニコリと微笑むともう一度僕へとキスをしてくる。

(……本当にテンションが高いな。いや、積極的すぎるというべきか?)

 僕は心の中で苦笑しながらと澪のキスを受け入れる。

 二度目のキスを終えた澪は再び僕の肩へと頭を置いてくる。

「ねえ、彼方くん……。湖畔公園ってどんなところかな……?」

「僕も行ったことないから分からないけど……楽しそうなところだね」

 澪の問いに僕はスマホで目的の湖畔公園の画像を見ながら答える。
 遊具があったり、遊歩道が整備されていたり、キャンプ場があったりと思った以上に広い場所みたいだ。

「うん、楽しみ……」

 澪は僕の頬へと手を添えると、三度目のキスをしてくる……。
 何度もキスをされて僕の理性は風前の灯だった……。
 澪は僕の揺れる心を知ってか知らずか——甘えの波を、何度も寄せてくる。

(僕の理性は果たして持つのだろうか……?)

 そんな僕の不安を乗せて電車は走り続ける。
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