罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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澪の章 寡黙なクラス委員長

修学旅行は新婚旅行?

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 中間テストが終わり、10月の風が少し冷たく感じ始めた頃——。

 僕たちは冬服のブレザーを着ていつもの通学用のリュックとは別に、スーツケースを引いて学園の正門前に集合していた。  

 そう、今日から待ちに待った修学旅行だ。
 そしてなぜ冬服なのか……それは場所が北海道だから!

「先生……、2年B組全員います……。欠席者、遅刻者なしです……」

 澪はクラス委員長として担任の渡辺先生に報告をするとグラウンドで待機しているバスのトランクに荷物を積んでから中へと乗り込む。

「彼方くん、こっち……」

 先に席に座っている澪が僕を呼ぶ。
 席順は事前に決めており、僕は澪の隣。

 席順としては澪は窓際で僕は通路側。
 彼女は最後まで僕を窓際に座らせたがっていたけれど、僕としては女の子を通路側に座らせるのはやはり抵抗があり、なんとか説得して澪に窓側に座ってもらった。

「彼方くん……、やっぱりわたしが通路側がいい……」

 バスが発車しだすと、再び澪がごねだす……。

「なんでそんなに通路側がいいの?」

「わたしが通路側に座れば彼方くんに話しかけてくる女子が減る……。わたしは修学旅行は楽しみだけど、同時に警戒もしてる……」

「いや、警戒しなくても……」

「わからない……、他のクラスの女子や地元の女子が彼方くんを狙ってこないとも限らない……。彼方くんは優しいからすぐに好かれてしまいそう……。ここは"妻"としてきちんと管理しておかないと……!」

 ……澪って、僕のことそんなに見てくれてるんだ

 だけど妻って……。
 ……僕って、もう澪との婚姻届を出してたっけ?

「僕は澪一筋だよ……!それにその妻ってなに……?」

「お母さんが言ってた……、修学旅行はみんなのテンションが上がる……それは女子も一緒……。それに現地では余計にでも変な虫が付く可能性が高いって言ってた……。だからわたしは"妻として"彼方くんに変な虫がつかないよう目を光らせてろって……」

 澪のお母さん……っ!?

(あなたなんてことを娘に吹き込んでるんですか……っ!?)

 僕は心の中で盛大なツッコミを入れる。

「で……でも、僕としても澪に他の男が言い寄ってこないか心配だし……」

「彼方くん……」

 澪は僕の言葉に顔を赤くして見つめてくる……。

 その視線があまりにも真っ直ぐで、僕は思わず目を逸らしてしまった。

「わたし彼方くんの気持ち考えてなかった……。でも、そう言ってくれるなら……わたし、通路側じゃなくても……がまんする……」

 澪は小さく呟くと、窓の外に視線を向ける。
 その横顔には、ほんのりと微笑みが浮かんでいた。

 バスの中は、クラスメイトたちのざわめきで賑やかだった。  
 しかし、その中であって澪の静かな声だけが僕の世界を満たしていた。


「彼方くん、北海道ってどんなところかな……?」

「う~ん……、僕も北海道は行ったことないからなぁ……」

「北海道は雪のイメージがあるけど……今の時期の北海道って何があるんだろう……?」

「確かにそうだね……」

 北海道と言えば雪というイメージが強い。
 でも……秋の北海道って何があるんだろう……?

「でも……彼方くんと一緒ならわたしはどこだって嬉しい……」

 澪の声は小さかったけれど、僕の胸には真っ直ぐに届いた。
 それだけで、この修学旅行が少しだけ特別なものになるような気がして、ただ頷くしかなかった。


 ◆◆◆


 バスが高速道路に入る頃……、澪は眠そうに目を擦っていた。

「澪、眠いの……?」

「うん……、昨日は彼方くんと修学旅行に行けるのが楽しみで……なかなか寝付けなかった……」

 澪にも、こんな子供っぽい一面があるんだな。
 その可愛さに、自然と笑みがこぼれた。

「なら少し寝てるといいよ。着いたら起こすからさ」

「でも……それじゃあ……」

「ほら、いいから……」

 僕は澪の頭をそっと引き寄せ、自分の胸に優しく預けた。

「彼方くんの……心臓の音がする……」

 その言葉を最後に澪は眠りへと落ちた……。


 僕は彼女の頭を優しく撫でる……すると澪は少し嬉しそうな笑みを浮かべながら規則正しい寝息を立てていた。

「おい彼方……」

 僕を呼ぶ声がする。

「振り向くと悠人の姿があった」

「なんでそんなに説明的なんだよ……!というか俺はお前と一緒の班だろっ!?」

「……ああ、そうだったね。ごめんごめん」

 僕は澪を起こさないように声を潜めながら、悠人に向き直る。

 修学旅行の班は、僕と澪、悠人、高藤、亜希、そして早乙女さんの六人。

 高藤が班のメンバーにいることに少し不安を覚えないこともないけど、まあ変なことをして修学旅行を台無しにするような奴じゃないだろう……。

「それにしてもお前ら……、新婚かよってくらいラブラブだな。見てるこっちが恥ずかしくなるわ」

「ち、違うって……!澪がちょっと眠かっただけで……」

「はいはい。これから北海道に行くってのにお前ら二人はお熱いことで……。それより、空港に着いたら点呼だって先生言ってたからな」

「うん、わかった。ありがとう」

 悠人は肩をすくめて自分の席に戻っていった。

 バスの外を眺めると、高速道路の路肩にある木々が紅葉しているのが見える。

(北海道も、こんな紅葉が広がってるのかな……。澪と並んで歩けたら、きっと綺麗だろうな)

 僕はそう思いながら彼女の顔を覗くと澪はまだ僕の胸に頭を預けたまま、静かに眠っている。

 その寝顔を見ていると、なんだか胸の奥がじんわりと温かくなる。

 ——この時間が、ずっと続けばいいのに。


 バスは高速道路を降り、空港へと近付いてくるとバスのマイクから先生の声が響いた。

「えー、みんなー。今から北海道に向けて飛行機に乗るわよ。みんなバスの中に荷物を忘れ物ないようにー!あと、ゴミは置いて帰らないのよ!」

 ざわつく車内。澪もその声に反応して、ゆっくりと目を開けた。

「……着いたの?」

「うん、もうすぐ空港につくよ」

「わかった……。それより彼方くんありがとう。すごく安心して寝られた……」

 澪は少し照れたように笑いながら、僕の胸から離れる。

 その笑顔が、なんだかいつもより大人びて見えた。

 修学旅行——ただのイベントじゃない。
 澪と過ごすこの旅が、僕たちの関係を少しずつ変えていく気がする。

 そんな予感が、胸の奥で静かに膨らんでいた。
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