罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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澪の章 寡黙なクラス委員長

澪の章 エピローグ ──ずっと続く未来へ……──

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 食事を終えた僕は、少し気落ちしながら部屋へと戻り、静かにため息をついた。

(……夕食の間は澪といられたけど、また離れ離れになるのは寂しいな)

 学園側は"万が一の間違い"を懸念して男女で階を分けてるんだろうけど、それが僕にとっては寂しく感じる。

(澪ともっといたいな……)

 そんなことを考えてしまう自分が、少し情けない。

「はぁ……」

 僕はため息をつくとスマホがメールを受信する。

(なんだろう……?)

 僕はメールを開くと、差出人は澪だった。
 本文には、たった一言——「会いたいから、ラウンジで待ってる……」とだけ書かれていた。

 僕は慌てて立ち上がるとスマホをジャージのポケットへと入れ、高藤と悠人に出かけてくることを伝えると一階にあるラウンジへと向かう。


 ラウンジへとやってくると、思いのほか人が少なかった。
 僕はラウンジへと足を踏み入れ周囲を見渡すと、窓際の席に一人座っている澪の姿があった。

 窓の外には札幌の街の灯りが、夜の空気に滲むように瞬いていた。
 その光が、彼女の横顔を淡く照らしていた。

「澪……!」

 僕は無表情で窓の外を眺めていた澪へと声を掛けると彼女の隣に座る。

「彼方くん……!」

 澪は僕の姿を確認すると立ち上がって抱きついてくると、僕もまたそれに応えるように抱きついた。

「澪……、僕澪ともっといたかった。だからメールをもらったときすごく嬉しかったよ」

「わたしも……。それに……彼方くん成分が足りないから……」

 澪は僕の胸元へと顔を埋めると「すぅ~……」と息を吸い込む。
 それはまるで猫吸いをしているかのように……。

(また僕吸われてる……)

 僕は苦笑しながら猫吸い……もとい、"彼方吸い"を受け入れると、そのおかげが寂しさまで吸われているような気がした。

「ねえ、澪……。思ったんだけど僕の匂いってどんな匂い?」

「……彼方くんの匂い」

(澪さん……、答えになってませんが……)

 しかし、まあいいかと思いながら何度も僕を吸う澪を優しく抱きしめる。

 そな時僕の中でとある決心が固まる。

「ねえ澪……聞いてほしい事があるんだ……」

「なに……?彼方くん……」

 澪は彼方吸いを中断すると僕の目を見つめてくる。

「あのさ……すぐにって訳にはいかないんだけど……学園を卒業したらさ……一緒に暮らさない……?勿論大変だとは思うけど……それでも僕は澪とずっと一緒にいたい……」

 僕は澪の肩を抱くと真剣な眼差しで彼女を見つめる。
 勿論生半可な気持ちで言っているわけじゃない。

 本当に澪と暮らしたい……、そう思っていたからこそ出た言葉だ。

「彼方くん……それ……ほんと……?」

「うん……、本当だよ……!」

 澪が僕を見つめる……。
 そしてそれが本気なのだとわかると澪の瞳に、ぽつりと光が滲んだ。
 それが涙だと気づいた瞬間、僕の胸が熱くなった。

「彼方くん……嬉しい……。わたしも……ずっと彼方くんの傍にいたい……」

 この先、どんな未来が待っていようと——僕は、澪の隣にいよう。
 そう心に誓いながら、僕たちはそっと唇を重ねた。


 ◆◆◆


 あれから数年後……僕はとある場所で朝食を作っていた。

「おはよう彼方君、いつも悪いわね」

「あ、お母さんおはようございます。これは僕が好きでやってることなので気にしなくて良いですよ」

 食事の用意をしていると、澪のお母さんが申し訳無さそうな顔をしながらリビングに入ってきた。

 学園を卒業した僕は、澪と同じ大学に進み——彼女と共同生活を始めた。

 しかし、お金の面や澪が「お母さんを一人にしておけない」という彼女のたっての願いで僕は澪の家で暮らしている。

「本当、彼方君が来てくれてから助かるわ……。それで……、澪は……?」

「えっと……、まだ寝てて……。何度も起こしたんですけど……」

「はあ……澪ったら……。彼方君、本当に澪でよかったの……?もっと他にいい子がいたんじゃないの……?」

「いえ、僕にとっては澪が一番です」

「本当にそう言ってくれて助かるわ……!」

 お母さんは申し訳なさそうな笑みを浮かべると、それを見た僕は苦笑する。

 すると、朝食の匂いに誘われたのか、澪が目をこすりながらやって来る。

「ふぁ……、彼方くん、お母さんおはよう……」

「澪……!あなただらしないわよっ!まったく……彼方君に甘えてばかりなんだから。早く着替えないと、大学に遅れるわよ!」

「うん……わかってる……。でもその前に……彼方くん……、おはよう……」

 澪は僕にそっと近づき、柔らかな唇で頬にキスを落とした。

「み……澪……?」

「おはようのキス……」

 突然のことに戸惑っていると、少し顔を赤くしながら澪は柔らかな笑みを浮かべていた。

「やれや……本当に仲がいいわね……」

 その様子を見てお母さんは苦笑する。

「澪……」

 こんな日々が、ずっと続けばいい。
 そう願いながら——僕は、澪の唇にそっとキスを返した。


       澪の章 完
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