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柚葉の章 ロリっ子で不器用な生徒会長
関係を守るはずだった選択の代償
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朝の空気は澄み渡り、通学路には鳥のさえずりが静かに響いていた。
昨日までの重たい気持ちが、ほんの少しだけ軽くなったような気がして、僕は前を歩く柚葉先輩の背中を見つけると思わず駆け寄った。
「柚葉先輩……、あの今日の放課後会えますか?話がしたいんですけど……」
「……彼方、今日も無理だ」
「なんでですか……?僕たち、付き合ってるんですよね……?なのに、なんで話もできないんですか……!?」
「……すまない、分かってくれ」
先輩の言葉を聞いた瞬間……僕の中で何かが崩れた。
「……わかりました。それじゃ僕もう行きます、"如月先輩"」
僕の口から出たその言葉は、思っていたより冷たかった。
でも、止められなかった。
彼女が、急に遠い存在になった気がした。
あの距離は、言葉では埋められない。
僕は、胸の奥が冷たくなるのを感じながら、逃げるようにその場を離れた。
──柚葉──
彼方の声が、遠くに聞こえた気がした。
彼方の口から出た“如月先輩”という言葉が、胸に突き刺さった。
それは、彼が私との距離を明確に引いた証だった。
ショックを受けた私は一人足取り重く学園に向かう。
学園祭が終わってから、彼方とはほとんど話していない。
電話にも出ていないし、昼休みも一緒に過ごしていない。
放課後、生徒会室に来た彼方を、律が追い返したと聞いた。
全部、私が選んだことだった。
学園祭が終わったその日に律に言われた言葉が、今も胸に残っている。
『姉さん……、御堂と恋人関係になるのはいいが、生徒会長としての業務を疎かになるようでは困る。それが続くようなら、御堂とは別れてもらう』
律の言葉は冷静で、正しかった。
でも、私には重すぎた。
(彼方と別れるなんて、絶対に嫌だ……)
だから私は、生徒会長としての業務を優先した。
生徒会の業務を的確にこなしていけば、律も何も言わない。
そうすれば、彼方と“別れなくて済む”——そう思った。
でも、それは彼方との関係を“守るため”に選んだはずの道だった。
なのに、気づけば彼との関係を“遠ざける選択”になっていた。
彼方の表情が、最近少しずつ曇っている。
私に会いに来てくれる頻度も格段に減っていた。
(……私は何を守ろうとして、何を壊しているんだろう)
生徒会長としての責任。
恋人としての気持ち。
どちらも本物なのに、両立できない私はやっぱり、不器用なんだと痛感する。
でも、私は彼方ならきっと理解してくれると、分かってくれると思っていた。
でもそれは私の“甘え”だったのかもしれない。
先ほど見せた彼の冷たい目……まるで他人を見るような目だった。
それが私の間違いだったと思い知らされる。
私は今すぐにでも彼方を追いかけたかった。
でも……今更私が彼方に何を言えばいいのか……それがわからなかった。
◆◆◆
朝の業務を片付けるため、生徒会室に来てはみたものの、私の手は止まったまま動かない。
脳裏に浮かぶのは彼方のあの他人を見るような目……。
仕事を片付ければ時間に余裕ができる、そうすれば彼方に会える。
そう思っていたけど、仕事は減るどころか次々と舞い込んでくる。
彼方と会う時間が作れない、しかもその彼方からあのような目を向けられる……。
(ミレイは……何のために頑張ってきたんだろう……?)
もうわからなくなっていた。
いっそ、生徒会長の仕事を投げ捨てて彼方に会いに行こうか……?
いや、それこそ彼方から失望されて今度こそ嫌われるかもしれない。
生徒会長としての私と、彼方の恋人としての私……2つの自分の間で、私は立ち尽くしていた。
どちらかを選べば、どちらかを失う。
そんな気がして、動けなかった。
そのとき、生徒会室の扉がノックもなく開いた。
「失礼するよ、姉さん」
律だった。手には分厚い書類の束を抱えている。
「これ、学園祭の後処理の追加資料だ。教頭からの指示で、今日中にまとめて提出してくれとのことだ」
「……わかった」
私は短く答え、書類を受け取る。
でも、律はその場を離れず、じっと私を見つめていた。
「……何か?」
「姉さん、顔色が悪い。無理をしているのではないか?」
「無理なんてしてない。ミレイは生徒会長だから、やるべきことをやっているだけだ」
そう言いながらも、声が震えていたのを自分でも感じた。
律は少しだけ目を細めたあと、静かに言った。
「……御堂のことだな」
私は返事をしなかった。
でも、それが答えだった。
「姉さん、僕は“生徒会長としての責任”を求めたつもりだった。でも、姉さんが“恋人としての時間”をすべて犠牲にするとは思っていなかった」
「……え?」
「御堂と付き合うことを否定したわけじゃない。ただ、姉さんが“自分を見失う”ような選択をするとは思っていなかっただけだ」
律の言葉は、静かで、でも鋭かった。
「姉さんが本当に守りたいものは何だ?生徒会長という立場か、それとも御堂との“心の繋がり”か?」
私は答えられなかった。
でも、胸の奥で何かがはっきりと形を持ち始めていた。
(……ミレイは、彼方とちゃんと向き合いたい)
その想いだけは、確かだった。
「律……ありがとう。少しだけ、考える時間をもらえる?」
「もちろんだ。姉さんが“姉さんらしく”あることを、僕は望んでいる」
律はそれだけ言うと、生徒会室を後にした。
私は深く息を吐き、机の上の書類を見つめる。
(彼方……放課後、少しだけでいい。ミレイの言葉をちゃんと聞いてほしい)
心の中でそう呟いた私は、ようやく止まっていた手を動かし始めた。
昨日までの重たい気持ちが、ほんの少しだけ軽くなったような気がして、僕は前を歩く柚葉先輩の背中を見つけると思わず駆け寄った。
「柚葉先輩……、あの今日の放課後会えますか?話がしたいんですけど……」
「……彼方、今日も無理だ」
「なんでですか……?僕たち、付き合ってるんですよね……?なのに、なんで話もできないんですか……!?」
「……すまない、分かってくれ」
先輩の言葉を聞いた瞬間……僕の中で何かが崩れた。
「……わかりました。それじゃ僕もう行きます、"如月先輩"」
僕の口から出たその言葉は、思っていたより冷たかった。
でも、止められなかった。
彼女が、急に遠い存在になった気がした。
あの距離は、言葉では埋められない。
僕は、胸の奥が冷たくなるのを感じながら、逃げるようにその場を離れた。
──柚葉──
彼方の声が、遠くに聞こえた気がした。
彼方の口から出た“如月先輩”という言葉が、胸に突き刺さった。
それは、彼が私との距離を明確に引いた証だった。
ショックを受けた私は一人足取り重く学園に向かう。
学園祭が終わってから、彼方とはほとんど話していない。
電話にも出ていないし、昼休みも一緒に過ごしていない。
放課後、生徒会室に来た彼方を、律が追い返したと聞いた。
全部、私が選んだことだった。
学園祭が終わったその日に律に言われた言葉が、今も胸に残っている。
『姉さん……、御堂と恋人関係になるのはいいが、生徒会長としての業務を疎かになるようでは困る。それが続くようなら、御堂とは別れてもらう』
律の言葉は冷静で、正しかった。
でも、私には重すぎた。
(彼方と別れるなんて、絶対に嫌だ……)
だから私は、生徒会長としての業務を優先した。
生徒会の業務を的確にこなしていけば、律も何も言わない。
そうすれば、彼方と“別れなくて済む”——そう思った。
でも、それは彼方との関係を“守るため”に選んだはずの道だった。
なのに、気づけば彼との関係を“遠ざける選択”になっていた。
彼方の表情が、最近少しずつ曇っている。
私に会いに来てくれる頻度も格段に減っていた。
(……私は何を守ろうとして、何を壊しているんだろう)
生徒会長としての責任。
恋人としての気持ち。
どちらも本物なのに、両立できない私はやっぱり、不器用なんだと痛感する。
でも、私は彼方ならきっと理解してくれると、分かってくれると思っていた。
でもそれは私の“甘え”だったのかもしれない。
先ほど見せた彼の冷たい目……まるで他人を見るような目だった。
それが私の間違いだったと思い知らされる。
私は今すぐにでも彼方を追いかけたかった。
でも……今更私が彼方に何を言えばいいのか……それがわからなかった。
◆◆◆
朝の業務を片付けるため、生徒会室に来てはみたものの、私の手は止まったまま動かない。
脳裏に浮かぶのは彼方のあの他人を見るような目……。
仕事を片付ければ時間に余裕ができる、そうすれば彼方に会える。
そう思っていたけど、仕事は減るどころか次々と舞い込んでくる。
彼方と会う時間が作れない、しかもその彼方からあのような目を向けられる……。
(ミレイは……何のために頑張ってきたんだろう……?)
もうわからなくなっていた。
いっそ、生徒会長の仕事を投げ捨てて彼方に会いに行こうか……?
いや、それこそ彼方から失望されて今度こそ嫌われるかもしれない。
生徒会長としての私と、彼方の恋人としての私……2つの自分の間で、私は立ち尽くしていた。
どちらかを選べば、どちらかを失う。
そんな気がして、動けなかった。
そのとき、生徒会室の扉がノックもなく開いた。
「失礼するよ、姉さん」
律だった。手には分厚い書類の束を抱えている。
「これ、学園祭の後処理の追加資料だ。教頭からの指示で、今日中にまとめて提出してくれとのことだ」
「……わかった」
私は短く答え、書類を受け取る。
でも、律はその場を離れず、じっと私を見つめていた。
「……何か?」
「姉さん、顔色が悪い。無理をしているのではないか?」
「無理なんてしてない。ミレイは生徒会長だから、やるべきことをやっているだけだ」
そう言いながらも、声が震えていたのを自分でも感じた。
律は少しだけ目を細めたあと、静かに言った。
「……御堂のことだな」
私は返事をしなかった。
でも、それが答えだった。
「姉さん、僕は“生徒会長としての責任”を求めたつもりだった。でも、姉さんが“恋人としての時間”をすべて犠牲にするとは思っていなかった」
「……え?」
「御堂と付き合うことを否定したわけじゃない。ただ、姉さんが“自分を見失う”ような選択をするとは思っていなかっただけだ」
律の言葉は、静かで、でも鋭かった。
「姉さんが本当に守りたいものは何だ?生徒会長という立場か、それとも御堂との“心の繋がり”か?」
私は答えられなかった。
でも、胸の奥で何かがはっきりと形を持ち始めていた。
(……ミレイは、彼方とちゃんと向き合いたい)
その想いだけは、確かだった。
「律……ありがとう。少しだけ、考える時間をもらえる?」
「もちろんだ。姉さんが“姉さんらしく”あることを、僕は望んでいる」
律はそれだけ言うと、生徒会室を後にした。
私は深く息を吐き、机の上の書類を見つめる。
(彼方……放課後、少しだけでいい。ミレイの言葉をちゃんと聞いてほしい)
心の中でそう呟いた私は、ようやく止まっていた手を動かし始めた。
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