137 / 296
イリベロトスドルイワ13
しおりを挟む兄の方を見る。
きっと、どちらが異常なのかといえば兄の方が異常なのだ。
見るしかできない光景の中で、確かに、ためらいやそうしようという動きはあった。
最初から最後まで、何の迷いもなくというものではない。
ただ、それをしない。
するという所までは決して行かないのだ。
心が折れない。
大人だろうが子供だろうが、痛みや苦しみというのは避けたいし、屈してしまう事はある種仕方のない事なのだ。
まるで、心の柱がゴムか何かでできているかのように、右に左に揺れて、時には潰されて見えても結局元通りになるような。
そんな、ある種のいびつさというか怪物性が垣間見えた。
だからきっとおかしいのは兄の方なのだ。
なりそこないですらない、ただの人間が。
いってしまえば血のつながりがあるだけの別の生物で、たかだか人生のうち10年もない程度の関係なのに。そもそも、自分がまだ子供といわれる年齢であるのに。
そんなことが、自分が壊れてしまうほどに、迷いはしようが決断はしないまま続けられる方が、どこか壊れている。
ほぼぼろ屑のようになってなお――彼は、幻想のような幻を見ているような状態でいて、なお、兄であるということを優先している。
妹のように会話することができないが、ぼろ屑ではあるがむき出しになっている分、感情はわかりやすかった。
むしろ、その感情だけが彼の残りがのようでもあった。
それが、妹を酷く深い悔恨に落としているのは皮肉だろうか。
きっと、これが平和ならがんこというだけである程度は済んだのだろう。
これがもし平和でなかったら――痛がり、苦しがり、ちくしょうと叫びはしても死ぬまで突撃してくる人間ができあがるだろう。そう教育されているわけでも、諦めているわけでもないのに。
彼の中でそうするのが当然で、そうすると決めたからという、それだけの理由でやれてしまうのだ。
特別に何かが必要なわけでもないのに、大きなことだろうが関係なく諦めずに死ぬまで続けられる人間。
そこに、自分の命が失われるだとかは関係なく。
(これを、立派と、尊いとほめていいんだろうか)
どこか、劣等感のようなものを刺激されつつも、爆発物を見るような気持ちになる。
(ちぐはぐだ)
兄に助けられたと、兄を見捨ててしまったと。
後悔している。後悔しているから、妹という存在でありたいと己を差し出すような事態となっている。
兄はきっと望んでいない。
兄にとって、それが当然だから。
間違いなく、兄が喋れたら同じことを言っただろう。ただし、妹とは違って痛そうだなぁ等は思えど、最終的にはためらいなどなく。当たり前にそうすることが決まっていたように。
すれ違っている。
(だからって、僕にどうすることもできない)
「どうか、どうか僕を恨んでくれ」
それもまた、逃げの言葉だった。
少年は手をかざす。
振り切るように、力を使った。
お別れの挨拶もしないままに使った。
もう、時間がなかったから。
そう言い訳をした。
ちっちっと、時計の針が動いている。
遠くで、遠くでそれが聞こえているように思えた。
夢を見ているのだと思った。
「お兄ちゃん。ごめんね。もっと一緒にいたかったし、もっと一緒に遊びたかったけど、もうお別れしなくちゃダメみたい」
そう言いだした妹に、何故? と光太は聞く。
どうにもならないの? と妹に聞く。
「うん。どうにもならないんだって」
そっかー、と返事をして、かわれないの? と聞く。
どうしてか、妹が悲しそうな顔になったような気がした。
「かわれないんだぁ。ごめんね」
悲しいなぁ、とぼんやり夢心地で思う。
ぼんやりしているのに、涙がぽろぽろと流れている。
体は起きていないのか、夢だから操作できないのか、ぬぐうことができない。
「お兄ちゃん」
もう遊べないのは悲しいと思った。
近くにいるのが当たり前だったから、いなくなることを想像できない。ただ、それはぐっとこみ上げてくる何かがあって、それがまるでいなくなることの悲しさが認められないことを押し流そうとしているようでなんだか嫌だなぁ、と思った。
情けないなと思った。
「お兄ちゃん。私、ちゃんとお兄ちゃんの事が好きだったよ。家族だって思ってたよ。本当だよ。信じてくれる?」
当たり前じゃないか、と返事をする。
悩むまでもなく、光太にとってそれは当然の答え。
「いい妹じゃなかったかもしれない」
関係ないよ、と返事をする。
俺が好きだったんだ、大好きな家族なんだから、それでいいと思う。
細かくは、どういっていいのかわからないけど、と。
「そっかー。そう思ってくれるなら、嬉しいなぁ」
大いに敬えー。それを許そう、と返した。長くやってる冗談のやり取りのように。いつものように。
そうしたほうがいいと、なんとなく思った。
もう、2度とできなくなるものだということが、なんとなく理解できて来たからかもしれなかった。
「ははー。有難き幸せ―……お兄ちゃん。私、お兄ちゃんが笑ってるとこ好きだったよ。守ってくれるの、嬉しかった。我がまま聞いてくれると、遊んでくれると、楽しい気分になった。仕方がないなぁー! っていいながらやってくれるの好きだった」
お兄ちゃんだから、下から甘えられちゃうとやっちゃうんだ。
笑っているところが好きだと言われたから、笑おうとした。
少しだけ、動いたような気がした。
「ふふ、引きつってる。おかしいなぁ。お兄ちゃんは、本当におかしい」
それは頭がおかしいみたいだからやめてくれませんかね、と返事をする。
楽しかった。
よくわからないけど、悲しいけど、いつものやりとりは心が温かい気持ちになれた。
何か、何かとんでもなく酷いことがあったような気がしたけれど、それで冷たくなった気がしたけれど、その気持ちが温められるようで心地がよかった。
あったものが無くなっていくけれど、なくしたものが返ってくるような不思議な気持ちだった。
「お兄ちゃんは、幸せになってね。たまには、決めたことを曲げるってことも覚えてくれたら、もっと嬉しいけど。できなくても、笑顔で過ごしてほしいなぁ……」
遠くなっていく。
夢からさめるように、離れていってしまう。
手が伸ばせない。
消えていく。
小さくなっていく。
約束する! と叫んだ。
遠くなっていく妹に届くように、何度も。
届いたかどうかはわからないけど、最後に笑ってくれたような気がした。
それが、本当ならいいな、と光太は思いながら浮上した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる