十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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れっつごーうんえいさん

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 ちょろちょろ減るPKを目にして、彼は首を捻った。
 これが何かよくわからなかったからだ。
 少し考え込んでみる。
 ぽん、と手を打った。

「あぁ! いたな!」

 彼はすっきりした気分でニコニコとした。
 しかし、ニコニコとしている自分に気づいて、しかめ面。
 頭を振る。何かが間違っている気分。
 足元ががさがさとなる。邪魔臭いと蹴り上げれば紙きれが舞った。どうしてか、掃除してはいけない気がして、邪魔臭いが放置することにした。

「違う。まて、そうだ。落ち着け、俺は俺だ――」

 深呼吸。
 1つ1つ、落ち着くように思い出す。
 集中してみる。

「こいつは、ええっと」

 何かできないかとお願いする権利というものを置いた、置けたことを思い出す。
 そのほとんどは無駄に終わった。
 しかし、いくつかのプレイヤーはそれを活用していたことも確かだった。
 工藤俊朗という初のPKKはその1人だった。
 彼がそうした人物だった。

「色々できないかと試したんだっけ」

 今の工藤俊朗は、彼の思惑や俊朗という少年の思惑、ダンジョンの状況等が絡み合って生まれた産物。
 彼には彼の目的があって、俊朗には俊朗の目的があった。
 それが奇妙に混ざって、結局中途半端な結果になってしまったもの。

「俺の希望をかなえさせるほどの干渉をすることはできなかった――これが望むほどいじってやることも。結局は、想定内だったんだろうか……」

 落胆したことを思い出す事に成功する。
 期待していないふりをして、相当量期待していた事を。
 そして、それが想像以上に叶えられず――いたずらに、被害だけを出し、出し続けるものになってしまったことを。

「いや、俺だって、自ら望んでPKになったやつなんて比較的どうでもいい。どうでもいい? どうでもいいはずだ? いや、クリアさせないと? なんだっけ。俺は、どうしたかったんだっけ? いや、効率的に運営しなければ?」

 頭を振る。
 思い出す。

「報復とかさ、そういうのでPKになったのは別にすべきだと思うんだよね。それも対象になったのはダメだし――クリアはさせるべきなのでは?」

 想定外の事態になっているだろうことに対しては、彼はざまを見ろという気持ちはある。持てている。
 人に興味を持てない、プレイヤーに興味を持たされている、そんなバランスではあったが、あったため、申し訳なくどうでもいいという気持ちがふつふつと湧いてくるのだ。

「常識。いや、クソゲだよ。クソゲに期待しようぜ。そうだって決めただろ。下手に手を出すのがダメなんだ――イベントみたいな形にしたってうまくいきやしないんだから。あられが直接手を出さないみたいな? 領域にこそ期待すべき」

 無数のビジョン以外何もない空間にテーブルを出す。
 その上に座る。
 手に出したケーキを食べて、茶をすする。

「甘いのが好きだったんだっけ」

 バターを直接食っているような感覚に陥り、投げ捨てた。
 ぼーっとそれをしばらくみる。
 急に興味を失い、今度はプレイヤーを見て回る。
 多くが、動けないままのクソゲ。当然だとは思う。他難易度とは違うのだ。クリアをしてもしなくても、一定の成果があると思われていることを、運営であるかれは知りたくもないが知っていた。

「そんなことはどうでもいい」

 どれかが、どれかがクリアしてくれと願った。
 どうしてクリアしてほしいと思ったのかは思い出せない。
 クリアすれば、願っただろう何かが叶う可能性があったかどうかも思い出せない。

「消える。消えてしまうのか、いや、そうだ。だから、俺は早く、誰でもいいから」

 運営。
 彼はそう呼ばれている。
 彼はそう名乗った――自動的に。
 いつから?
 ここに強制的に落とされて、運営しなければならないという意識とその仕方と使い方を頭に植え付けれられてから。

 プレイヤー。
 運営。
 その違いは何だろうか。

 彼はプレイヤーになれなかった存在である。
 運営と呼ばれる存在である彼は――確かに、プレイヤーを調整する役割を負っている。それをこなしている。というより、滞りなく動くように半ば自動的に行動した。させられた。させられ続けている。
 そういう存在になっているからだ。
 彼にその意思があったか? といえば、そんなものはない。
 なかった。

 彼の元もむやみに他人に危害をくわえたいだとかそういう性質をもっているものではなかった。誰かを拉致にしようとか、隔離して何かをさせようだとか、それを滞りなく進める意思だとか、そういったものは何も。
 彼は同じである。
 ほとんどのプレイヤーと、同じように連れてこられた側の存在である。

「俺は、どうして?」

 名前も思い出せない状態に削られている彼は、連れてこられた人間なのだ。決して、連れてきた側の存在ではない。
 プレイヤーの誰もかれもが原因だと信じている運営という存在は、拉致されたという点において同じく被害者でしかない。

 ゲームでいうなら、運営を任された人間であるにすぎない。
 製作と、運営会社が分かれているようなものだ。
 製作したものは別にいる。それだけの話だ。
 ヘイトを集めている彼は、ただの被害者である。
 加害者にされようとしている、ただの被害者であった。誰にも伝わらないし、伝えられないスケープゴートだった。

 もう覚えていない彼は、生き死にに特別な興味がある人間ではなかったが、自分が自分であることが大事だった。
 だから、消えていくことに納得など行かなかったのだ。
 時間がたつごとに、自分か削られていくことがわかった。
 運営することが正しく、そうするべきだということに疑いを持たなくなっていった。
 運営するものとして最適化されていくような日々が恐ろしかった。

「プレイヤーのままでは、だめだ。普通のクリアでも、接触できなかった。特殊なクリア者なら、接触のチャンスはあるはずだ。そのはずなんだ……」

 たまに思い出しては焦ったように行動し、干渉しつつ一個の運営という生き物にされようとしている彼は、ぶつぶつとつぶやきながら、いつものように忘れ続ける。
 プレイヤーからのヘイトを向けられ続ける。
 それに対して、何も思えなくなることを恐れた事さえ忘れる。
 がさりと音が鳴る。足元に紙がたくさん落ちている。

【自分が消えていくことを思い出せ】
【自分が無くなる前に早く解決しろ】
【早く行動すること。時間は敵。お前は自分でなくなっていく】
【できることを書き留めておくこと】
【強く干渉することはできない】
【覚えておくべきことを書く】
【意志あるものを生み出すことはできない】

 等々。
 一面に積もった雪のようにある全ての紙には同じようなことばかり書かれている。
 そのことも覚えていない彼にとっては、ただの絨毯に等しかった。
 てきとうに歩き回る彼は、それを無造作に踏んだ。
 何だコレ鬱陶しいな、と思った。

「そうだ、やることをやらないと」

 彼は運営の続きに戻る。
 無くなり続ける、いつも通りの光景に。
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