212 / 296
鬼の首25
しおりを挟む(それはきっと、祥子のような力があるわけでも、ない)
しかし、強い。
外部からの力を、自分だけではなく近くのものも一緒に弾いてしまうほどに。
肝試しの時、巻き込めたのは対象が本人でも神田町でもなく離れた床だったからだ。
最後の機会だった。
それで――結果が、望んでないものになったのか、そうでなかったのか。
(あぁ、許してくれるだろうか。望んだのが、そんな、本当の俺は、お前に対して打算ありきだっただなんて。
――お前には、何の関係もない話だったのにな。それでも)
申し訳なくとも、やらずにいられなかった。
『なぁおい! 酷い話じゃないか!
知られれば啓一郎クンだってさぞがっかりするだろうさ! せっかく、せっかく世界が広がって気になれたのにって!
父親にでもまともに友達ができたんだと、やっと友達と呼べ続けられそうな相手がって報告できただろうにさぁ!』
「父親……」
家族はもういないのだと、それは聞いたことがあるから知っている。
父ともともと2人で住んでいて、とても、とてもよくしてくれた父だったのだという事は。
(そうなんだ、それは悲しいね。みたいなことを俺はどの面さげていってたんだろうなぁ……)
ずきり痛むのは、自分がそうあれることに他ならない証明でありながら、今はとてもそれが辛い。
そんなつもりはなかった、なんて。
所詮は、加害者の言い分でしかないことを竹中は良く知っている話なのだから。
『でもさぁ、君がそれだけのことをしたってのかい? いいや! してないね。
したのは――祥子ちゃんだよね!
君は自分から受け入れたと思いたいのかもしれないけど、はっきりいって抵抗しても無駄だったよ。
だって君、中身入り状態でも大したことはなかったんだから。なんとかできたかもしれない、もともと抵抗していればってのは君の思い上がりさ』
離れることができると思った事すらそう思わされているだけだと。
そんなことはない、と目の前の存在に伝える気持ちはなかった。
痛むことの連続で、激情の渦が均衡を保ったように、逆に冷静になってしまっている。
『なぁ! なぁ! 本当に、本人にとっちゃ確かに辛い事だったかもしれないけど、いじめを止められなかった奴としてもさぁ、止めようとした人間に与えられる仕打ちがこれ? って思いはしなかったかい! そんな気持ちさえもう引き寄せられて底が抜けてどこかに消え去ってしまったかい?』
(あぁ――俺だって人間だ。格好良く助けられはしなかった。だからって、そんな風にと最初のころ思わなかったわけじゃない。次第にそう思えなくなっていったけれど、確かになかったわけじゃない)
今なら少しは思い出せる、どろりとした感情。
それを見て取ったか、小さな手を竹中に差し出してくる。
『さぁ、チャンスを上げようじゃあないか。まぁ流れで何となく理解できているっぽいけど、そのために来たんだ。この夢という媒介を使って。
二度とはないかもしれないチャンスだよ?
よーく聞くんだ』
このままでもいいんじゃあないかと。
啓一郎の側にいるときに、そう思ったこともある。
でも、これが最後の機会だと思うから。
これ以上引き寄せられ続ければ、本来の竹中というものは消滅してしまうのだと理解できた。
止めるのなら、最後の機会だと。
『チャンスだ。支配から逃れる手段を得て、対等になるチャンスだ。人になるチャンスなんだよ。
自分として生きるためのチャンスさ。
さぁ手を掴んで! 力のきっかけをあげるからさぁ!』
じぃっと手を見る。
小さくて、守りたいと思った、傷ついてほしくないのだと思ったいつかの手と同じ形をした手を。
『このままじゃあずっとずっと空っぽの器だよ君は。
もう、永遠に。
そのままじゃあ、人形のまま人間が終わってしまうよ。
君自身が取り戻せなくなって、結果誰とも対等になんてなれやしないんだ。
自分自身とでさえね』
返事がないのにじれたか、それともただの煽りの続きか。
『玩具のままでいたくないなら、NPCみたいに製作者の思い通りにだけ動きたくないのなら。
自分になるんだ。チャンスをつかんで。
そして、そうしてこそ君の本当の目的――本当はどう思っているのかが、何をしたいのかが本当にわかるってものさ。
恨んでるのかそうでないのか。後悔しているのか今からするのか。
気になる全員と友達で居続けられるのかそうでないんか。どうでもいいのかよくないのか。
祥子ちゃんをどう思っているのか。
手に入れるんだ。
自分の意思で。
それで、無くなったものが返ってくるわけじゃあないけれど……
それでも今よりはましなはずさ。
そうだろ?
全部、それからだろ?』
少し前に、啓一郎に話したことを思い出す。
少し自分が出せた言葉だ。
(止められなかった。本当だ。
いじめも、その力を使う事も。
どっちも)
後悔したくないといったのだ。
(そうとも、普通である普通以下のからっぽの操り人形工大君はもうやめないといけない――どうなっても。それが、関わって、利用して取り戻した、最低限の俺ができる誠意だよ。全部が嘘だったわけじゃないんだ。
勇気を出せなかった。その通り。
胸を張って対面するために、それを振り絞るべき時なんだ、今が多分。
もう、諦めて流されてはダメなんだよ)
無駄に終わるとしても、せめて、それは自分が選んだ結果として。
(怪しくとも、きっとこいつは騙して何もしないなんてことだけはない。
今でさえ中に入れ続けているからわかる。というか、わかっててこいつはそうしてる。
今も俺をいじってみたくてうずうずしてやがるんだ。玩具を前にした子供そのものなんだよ。
だから、行動する選択肢を選ぶんだ。
もうそれだけで、元通りの関係に戻ることだけはなくなるのだから)
全部なくなってしまうかもしれないけれど、そうなっても後悔しないために。
小さな祥子の姿をしたそれの手を取った。
とてもとても嬉しそうな顔。
それは、竹中が小さいころから――今に至るまで。
2人きりでは見たことがないものだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる